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66話~70話まで

------------------------- 第66部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

迷子になんてなってません(迷子)


【本文】

何も持っていない左手の感覚だけで前へと進んで行く。

途中途中で足場がないところがあり、何度も下に落ちそうになった。

そんな危険な場所を少し歩いて抜けると、ようやく灯りらしきものが見えた。

とりあえず、そこに向かって歩いていった。

灯りの正体は、魔力で光を放ち続ける持ち運べるランプだった。

ランプを壁からとると、先程急に神器に戻った風華が剣の姿のまま話しかけてきた。


「ここまで歩いて進んできましたが、ランプも手に入れたことですし、一度来た道を戻ってみませんか?もしかしたら、他の誰かがご主人様よりも奥の場所に閉じ込められているかもしれません」


「そうだな、一度戻って皆がいるかいないかくらいは確認しとくか」


そうしておけば、皆と合流する確率が少しは上がるだろう。

そう思った俺は、風華の意見に従うとランプを持ったままもと来た道を引き返した。

地面を照らし合わせながら進んで行くと、下の方に水が流れているのが見えた。

しかもかなりの大きさの川だ。…いや、海といったほうが良いかもしれない。

なぜそう言えるのかというと、岩に水が当たる音が聞こえてくるからだ。

しかもかなり大きめの音が。

バチャーン、バチャーン、ドッカーン、バチャーンと。

……、いや、待て。

水が岩に当たってドッカーンなんていうか普通?

ということは…、近くにあいつがいるかもしれないな。

そう思った俺は、早速その音が鳴ったと思われる場所に、道に何度も迷いながらたどり着いた。

そして俺の予想は見事に当たった。


「…よう、春香。無事か?」


ランプの光を牢の方に向けてあたりを照らす。

そこには、さっきから壁を殴り続けている春香、それにキーちゃんがいた。

キーちゃんの方は、春香の殴るこの音が怖いのか端っこの方で小さくなっていた。

初め春香が壁を殴っている音のせいで声が届かなかったので何度か大声で呼んで、ようやく春香がこちらの存在に気が付いた。


「ひろ!」


「気が付くのがおせぇぞ。そんなに壁の事が好きなのか?」


「…今そういう冗談いう時じゃないよね?ぶっ殺すよ?」


「いつも俺の事を殺しかけてるのは、どこのどなたさんですかね!」


「あ~もぅ!いいからさっさと出せ!」


と、そんなくだらない口げんかをしながら、俺は風華で人が通れるほどの大きさで鉄格子を斬った。

春香は一度奥の方に行って、小さくなって震えていたキーちゃんの手を取り、牢の中から出てきた。


「…ほかの皆は?」


「それを今から探しに行くんだろ」


「………そう。じゃぁ行こう。キーちゃんもここに来てからずっと震えてるし、早く外に出て安心させてやらないとね」


確かにそうしたほうが良いかもしれないと思った。

こんな小さな子が、急にこんなところに来たら怖いだろうしな。


「ならさっさと、葵たちを探そうぜ。こんなところに長居したくはないからな」


俺のその言葉に春香はうなずいた。

そして俺らは、先程俺がたどった道を戻ろうとした。

…戻ろうとしたんだ。

そう、何度も言うが戻ろうとした。

けれどここでまさかの迷子になった。

というかここどこだ。見覚えのない道に入ったぞ。

気が付けば、ごつごつとした地面が歩きやすいように木が敷いてあり、手すりもあり、さらには一定の間隔で、ランプが壁にかかっていた。


「ねぇ、ひろ。あんたここ通ってきた?」


春香のまさかとは思うけどまさかね?みたいな質問が投げかけられ、俺の心臓にその言葉がぐさりと刺さる。

違うんだって。わざとじゃないんだって。本当だから!

かといって、ここでそうそう迷ったんだよね~なんて言ったら、間違いなく海に向かってぶん殴られる。

そんなことされたら、怪我だけじゃすまない。


「まさか……迷ったなんて言わないよね?…ひろ」


「べべべべ別に迷ってないし!ちゃ、ちゃんとここ通ってきたし!」


「…ふ~~~~~~~ん……………そうなんだ~」


やっべぇ。ふ~んの後の間が怖すぎる!こればれたら本格的にまずいやつだ。

とりあえず、どうにかして話の話題をそらさないと。

その時、俺の鼻においしそうな料理の匂いが漂ってきた。

そして、それと同時にお腹が鳴った。

そう言えば、あの時から今まで何も食べてなかった。


「春香……お腹すいてないか?」


「え?そりゃあすいてるけどさ、なんで?」


何で?この話題からそらしたいからに決まってるでしょうが!

でもそんなこと大声では言えないし……そういえば、キーちゃんも春香と同じ場所にいたのなら何も食べてないはずだよな?

…これだ。


「キーちゃん何も食べてないだろうからさ、お腹に何か詰め込んどいた方がいいかなって」


そう言うと、春香はなるほどと相槌を打った。


「そうね、それじゃ、この匂いの場所に行こうか」


そうして俺は何とか道に迷ったかもしれないという話を切り抜けることができた。

匂いをたどっていき、俺らが付いた場所は食堂のような場所だった。

そこで……、


「…これは私が見つけた食糧です。貴方にはあげません」


「これはわしのじゃ!わしがつま…味見をするために用意されたものなのじゃ!そなたなんかにやるわけにはいかんのじゃ!」


水連と首に双眼鏡らしきものをぶら下げている金髪の小さな女の子が何かの料理を巡って取り合いをしていた。


------------------------- 第67部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

ハラペコ海賊娘


【本文】

いったいこの状況は何だろうか。

確かに匂いにつられてどこかへ行ってしまったとは聞いていたが、いやまさか本当にこういうところに来ているとは思わなかった。

そして…この子は誰だ。


「……なんと、ご主人様。貴方も食料を探して私の後を追ってきたのですか?」


「いや違うし、ってか何やってんだお前は」


「見てわかりませんか?この私の食料を奪おうとする小娘から、私の食料を取り返すだけです」


「何を言ってるのじゃ!これはわしのじゃ!誰にも渡さんと言っておろう!」


「先に見つけたのは私です。つまりこれは私の物です」


「……とりあえずな?二人とも落ち着こうぜ」


このままだと、このくだらない食料の取り合いをしている二人の空気がさらに悪くなりそうだったので、俺が仲裁に入った。

春香にやってもらってもよかったが、春香はこぶしを強く握りしめにっこりと笑っていた。つまりはそういうことだ。こいつだけは怒らせると後々面倒になる。特にこんな状況下で暴れられたら最悪だからな。

その後何とかして二人を落ち着かせ、水連にはおとなしく神器に戻ってもらった。

それを見て、目の前にいた金髪の小さな女の子は目をまん丸くしていた。

…まぁ驚くのも仕方がないだろう。人が剣になり、剣が人になるなんて普通見ないから。


「なんと…先程の奴、人間ではないのか!?…おぬし面白いものを持っとるの~…。ところで、おぬしら誰じゃ?わしの海賊団の中でそなたらのような顔を見たことはないんじゃが……」


今一番聞かれたくないことを、この金髪の女の子に聞かれてドキッとする。

いやそれよりもだ、今この子なんて言った?

わしの海賊団?…鷲の海賊団の方か?それとも…自分の海賊団ということか?

もし仮に後者なのなら、今俺たちはやばい奴の目の前に立っていることになる。

どうにかして、俺らの事よりも関心が行くことに注意をひかないといけない。

何か注意が引けるものがないかと考えていると、そういえば水連と食料の取り合いをしていたことを思い出した。

これで注意が引けるかわからないけど、やってみるしかない。


「なぁ、あんたは料理の中で一番何が好きだ?もしここにある物であれば、一品作るが」


「なんと!?それは本当か!!それとあんたではない!わしの名はパティ・アラウじゃ!」


「そうかそうか、パティっていうのか。じゃぁ少し待ってろ。今なんか作って」


料理を作ろうと動き出そうとしたとき、春香から腕を掴まれた。

いや違う。握りつぶされそうになった。

思わず叫びそうになるが、何とか痛みをこらえ春香の方を見る。

その春香の顔は鬼のような形相をしていた。そして声を出さないように口を動かして何かメッセージを伝えようとしていた。

口の動きから、何を言ってるのか解読するとこうなった。


何やってんの馬鹿たれが!逃げるのが先でしょうがあああああああ!!!


うん、正論過ぎて何も言い返せない。

実際はそうすべきだろう。じゃないと自分たちの命の方が危ない。

というか、名前以外知らない人に突然料理をふるまうってそれはそれでどうなんだ。

そしてここでどうすればいいのか考えている最中に最悪の事態が起こってしまった。

一つしかない入り口から、海賊と思われる男が一人入ってきた。


「お嬢、こんなところにいやしたか。てっきりまたキャプテンのとこに行ってるとでも…っと、そこにいるのは……さっき牢にぶち込んだばかりの鼠じゃないか……おいてめぇら、お嬢に手ぇ出してんだ。どうなるかわかってるんだよなぁ!」


パティの事をお嬢と呼んだ海賊の男は、俺らにそう言い放つと腰につけている曲刀を抜き去り振りかざした。

武器もないので、とりあえず近くにあったまな板で曲刀を受け止める。

すぱっと切れてしまうと思ったが、案外そうでもなく、まな板はしっかりと役目を果たしてくれた。


「春香!」


「言われなくてもわかってるよ!」


海賊の男が曲刀を俺に振り下ろしきった後、春香は相手の懐に潜り込むと、重たい一撃を隙だらけの腹に一撃入れる。

その一撃をもらった海賊の男は入ってきた入り口から外に吹き飛ばされれた。

少し遅れて、水に着水した音が聞こえた。


「走るぞ!」


俺は春香とキーちゃんの手を取ると、一目散にその場所から逃げ出した。

その光景をパティはただ茫然と眺めていた。

そして誰もいなくなったことに気が付いた後で、ようやく気が付いた。

飯を作ると言っておきながらあの男は作っていかなかったことに。


------------------------- 第68部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

海賊たちとともに海へ



【本文】

一方そのころ、友恵サイドは…。


「早く来ないと、置いてくよ」


「う、うん」


一緒の牢に閉じ込められていた友恵と葵の二人で牢を脱出し、二人で皆を探していた。

正確に言えば友恵はキーを、葵は洋一と春香をだが。

しばらく二人で歩き回り、偶然にも荷物置き場のような部屋を見つけることができた。

もちろん監視もいたが、友恵が風のように見張りの背後に回ると一瞬で気絶させ、中にあった自分たちの荷物を回収した。

こういうのを見ていると、改めて友恵はこのような技術を、いったいどこに手に入れたんだろうと不思議に思う。

だが、そこにはあまり触れないようにした。

こんなところでそんな話をする気にはなれなかったから。

そして、騒ぎになる前に急いで部屋を後にしようとした時だった。

どこからか…いや奥の通路の方から叫び声のようなものと、たくさんの足音が聞こえた。


「こっち」


その時、隠れたほうが良いと判断した友恵が私の腕をつかみ、出来るだけ身を隠せるほどの荷物の裏に回るとそこで息をひそめた。

足音がだんだん近づいてくる。そして、何を言っているのかがはっきりとわかってくる。

何を言っているのか、私は息をひそめながら耳を澄ませた。


「バカバカバカ!だから言ったじゃん!さっさと逃げようって!」


「いや春香、そうはいっても、あれじゃ結局ばったり出会ってただろうし、変わんないって!」


「それよりも、そろそろキーちゃんの足が限界くるよ!どっかに隠れないと!」


どこかで聞いたことのある声、しかも知っている人物の声だった。


「友恵さん、多分今ひろ君たちがこっちに走って………え」


隣でともに身を隠していた友恵に、声をかけようと隣を見た。

が、そこに友恵の姿はなかった。

代わりに、近くで複数人の叫び声が聞こえた。

私は友恵の後を追って、隠れていた場所から動いた。



一直線の長い長い舗装された道に入って追われていて、そろそろキーちゃんの体力が限界を向かえそうな時だった。

そいつは、友恵は偶然というにはタイミングが良すぎるくらいのタイミングで助けに来やがった。

そして、俺らを追っていた複数人の男どもを吹き飛ばすと、俺が手をひいて逃げていたキーちゃんを奪い取るように俺から引き離すとそのまま抱きしめた。

……前々から思ってたけど、あんたらいつそんなに仲良くなったんですか?


「ひろ君!」


友恵が来た方から声がした。

振り返ると、そこにはたくさんの荷物を持った葵がたっていた。

その姿を見ているとなんだかおかしくなってきて、俺は思わず吹き出してしまった。

そのせいか、葵は俺に近づいてくるとグーパンチで殴られた。


「心配したんだよ!」


「わりぃわりぃ…なんか、思わず笑っちまった」


「ひどくない!?」


「そうじゃな。乙女というものは、意外と些細なことで傷つきやすいからな。注意が必要じゃぞ」


「言われなくてもそのくらいわかって……」


ん?ちょっと待て。じゃぞ?そんな変な語尾で話す奴なんていたっけ?

嫌な予感がして、声のした方を見ると、案の定そいつがいた。


「…なんでついてきてんだよ…お前は」


俺の方を見てニカッとパティが笑った。


「もちろん、おぬしの料理を食べるためじゃ!さぁ、早く調理室に戻るのじゃ!もうお腹がすいて仕方ないのじゃ!」


そう言って、パティは俺の腕をつかんだ。

小さな子供とは思えないほどの握力で。

腕を振りほどいて逃げようとしたが、出来そうになかった。

お嬢とか呼ばれていたし、下手に手を出すとまたいろいろと厄介ごとになりそうだったので、俺はそのままされるがままパティに引きずられていった。

そしてそれから数時間後…。


「俺はこんなうまい飯久しぶりに食ったぞ」


「うまい……」


「…あぁ、もう死んでもいい」


気が付けば俺は、この海賊団の人間全員に料理をふるまっていた。

ちなみに、葵と春香がこのことについて手伝ってくれようとしたが、二人の腕だといったいどうなるのか大体予想がついているので、二人には手伝わせなかった。

あいつらに作らせたら、ダークマターしか作らないしな…。

そして、俺に料理を半ば強制的に作ってくれといったパティはというと、満面の笑みで料理を口に運んでいた。

全く、こっちの疲労も考えてほしいもんだ。

ちなみに料理を作っている最中に聞いたことだが、俺らを牢に入れていたのは、海に倒れていた俺らを宝を狙う盗人だと思ったかららしい。

ここまであった一連の話をしたところ、海賊団の連中は皆心を開いてくれた。

ちょろいと言ったらちょろいが、思っていたよりもいい人たちらしかった。

どうしてこんな人たちが海賊をやっているのかと不思議に思うくらいだった。

そして、料理を食べた終わった後、パティから願ってもないことを尋ねられた。


「おぬしら、確かアトリスタ大陸に向かいたいんじゃろう?なら、わしらの船で行くのはどうじゃ?わしらもやらなくてはいけぬことがあっての、明日には出ようと思っていたところじゃったのじゃ。どうじゃ?」


その話を聞いた俺は、もちろん乗らせてもらうよと一つ返事で返した。

そして次の日、俺たちはパティの船に乗せてもらい海に出た。

その先に待つものが何なのかも知らないままに。


------------------------- 第69部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

死ぬか生きるか、船上での戦い


【本文】

カモメが上空で気持ち良さそうに鳴いて飛んでいた。

塩の香りが、またいっそう自分が今海の上を進んでいると言うことを知らせ続けている。

波は穏やかで、風も良好。

最高の船出日和だった。

そんな中俺は、ただ一人船の手すりに捕まりずっと海を眺めていた。


「…考え事?」


そうしていると、後ろから葵にそう話しかけられた。


「…まぁ…な、ここ数日で色々と衝撃的な出来事が多かったからさ…」


「…そうだね…」


そう言いながら葵は、俺の横に並んだ。

そうしてしばらく、お互い何も話さなかった。

葵と俺の仲だ。何を俺に伝えたいかぐらいは分かるつもりだ。

ただ、それを口に出したらきっと俺が傷つくかもしれないと思っているのかのしれない。

だったら、俺が葵に伝えるべきことは一つだけだ。

そうして俺は、少し続いたこの静寂を打ち破った。


「大丈夫だ。…俺の心配はしなくていい」


「……そっか…。前みたいに塞ぎこんでるのかと思った」


葵は少しゆっくりと、そして小さな声でそう言った。

昔の俺を思い出したからだろう。

だが、昔は昔だ。

まだ子供だけれども…俺はもう子供には戻れない。


「何を二人して話してるのじゃ?」


そしてこんな空気のなかで空気を読まないやつが一人、話に入ってきた。

その手には美味しそうなタコの足のようなものを沢山持っている。

まわりの海賊を見ると、全員が同じものを持っていた。

どうやら配って回っているらしい。


「一本どうじゃ?」


沢山あるタコの足を、目の前に差し出される。

ここでとらなかったら、また後ろの野郎共がお嬢の言うことを聞かないやつは死刑とかいって、襲ってきそうなので、とりあえず受け取っておこうと思った。

なんなら大きいのを貰おうと思い、見た感じ一番大きそうなものを手に取ろうとした。

すると、パティの顔が少し残念そうな表情でこちらを見ていた。

頼むからそんな顔しないで欲しい。取りづらいから。

……でも少し面白い。じゃぁ小さいのを取ろうとしたらどうなるんだろうか。

試しに一番小さそうなやつに手を伸ばしてみる。

すると、パティの顔から笑みがこぼれた。

…まぁそうなるよねぇー…。

仕方がない、これをとってやるとでも思ったかー!!!

そうして俺は、一番でかいタコの足をパティの手から抜き取った。


「あああああ!!!わしが狙ってたやつ!!!」


「んじゃ、ありがたくいっただっきまー……」


パティから取ったタコの足を口のなかに放り込もうとしたときだった。

横から痛い視線を感じた。


「…ひろ君、大人げないよ」


葵から鋭い言葉がとんできて俺の胸に突き刺さる。

やっぱり、葵には逆らえそうになかった。

俺はパティの手にそれを戻すと一番小さいのを取って、それを口の中に放り込んだ。

味付けは塩だけのようだったが、普通に美味しかった。

葵も適当なものを一本抜き取り、パティにありがとうと一言お礼をいってから、それを食べていた。

そして、特に話すこともないまま、安全な航海が続いた。

異変に気づいたのは、それから少ししての事だった。

今まで穏やかだった波が突然強くなった。

野郎共が忙しそうに動き回っている。

そのうちの一人が、こちらにやって来た。


「お嬢!ここは危険ですぜい!室内に避難を!そこのあんたらもだ!!」


「何があったのじゃ?」


「………」


その男はパティのその返事に答える事はなかった。

いや、返事なんてできるはずがなかった。

なぜなら、その男は次の瞬間には姿を消していたから。

もっと正確に言えば、その男は何かに拐われていた。

そして、そのまま海の中に引きずり込まれていった。


「…嘘じゃ…何でこの海に……クラーケンがいるのじゃ!…何で…何で…」


その光景を見たパティの顔はひどく青ざめていた。

そして、そんなことをしている間にも、次々とクラーケンの足が野郎共を襲っては海の中に引きずり込んでいった。


「おい!シェフ!!俺らよりは戦えんだろ!!舵はとるから、何とか凌いでくれ!!」


「誰がシェフだ!……何とかしろって言われても……」


でも……やるしかない。

この状況で生き残るためには戦うしかない。


「ひろ!早くきて!ここままだと船もやられる!」


春香がこちらに向かってそう叫んだ。

迷ってる暇はない。

俺は腰につけていた刀を、勢いよく引き抜いた。


------------------------- 第70部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

ドラゴンと騎士


【本文】

風がごうごうと音をたててないている。

横にならんで飛んでいる鳥は、気持ち良さそうに風に乗っている。

…あぁ、平和だなぁ…。

こんな日々が続けばいいと、切に願う。

しかし、そんなこと叶うはずもない。私は今"操り人形"でしかないのだから。

そんなことを思いながら私は、相棒の背中を撫でる。

硬い鱗でおおわれた、ドラゴンの背中を。


「なぁ…マザー…。私はどうすればいいと思う?」


しかし返事は返ってこない。当たり前と言えば当たり前なのだが。

はぁ、とため息。こんなマイナスなことばかり考えていてはダメだ。

あの子を…妹を守ることができなくなってしまう。

それだけは、絶対に避けなくてはいけない。


「…急ぐか…ん?あれは……船か?」


急いで空に帰ろうとしたとき、遠くに一隻の船が浮かんでいることに気がついた。

だがおかしいと私は思った。

なぜなら今、海でクラーケンとの遭遇率が高いので討伐作戦が練られている最中なのだ。

船出してはいけないと、全世界に伝達したはずだ。

と言うことは…あの船は知っていてああやって船を出しているのか?

だが…それにしては、船に攻撃ができそうなものが全くないが…。大丈夫なのか?

そう思った矢先、船の周りに数本の触手が現れ、船に巻き付いた。

あの大きさ、間違いなくクラーケンだ。

…助けるべきか、見捨てるべきか。

もし仮にその話を聞いていなかったのなら、助けなければならない。

それが、騎士としての努めだから。

かといって、知っていながら船出しているのなら助けることはできない。

それは、困っている人ではないから。

だから判断しなくてはならない。ここで、救うか見捨てるのかを。

その時だった。クラーケンの触手が数本切断され海に落ちた。

信じられなかった。クラーケンの腕を切り落とせる人間がいると言う話は、聞いた事がなかったからだ。


「…面白そうなやつがいるな…」


行こう、そう決めた。

私はマザーに一言お願い、と声をかけた。

そして、空から離れた。



「だぁー!!きりねぇぞ!!斬っても斬っても再生してきやがるし!」


「文句言う暇があるなら、手を動かしなさいよ!友恵を見なさいよ!黙々と斬ってるじゃない!」


戦場でそんなやついやらめっちゃ怖いけどね!

けれど確かに春香の言う通りだった。

手を動かし、動きを見ながら行動しないと確実にやられる。

今は、春香が殴って動きを封じた隙に刀で斬りかかっているが、このまま続くとなると足場も狭い上に不安定だから、もつのも時間の問題だった。

葵は、キーとパティを守るために室内で守りに徹していて、魔法での援護ももらえない。

くっそ!サーシャがいれば、少しは戦局を変えれるのに!

だが、この場にいない人間に向かって文句をいっても仕方がない。

今は頑張って耐え抜かないと!!

その時だった。船の上を何かが通過した。

それと同時に体を吹き飛ばしそうな風が俺達を襲った。

木の割れ目に刀を刺し、飛ばされそうになっていた春香を掴んでなんとか耐え抜く。

しかしまずい。この状態だと攻撃を受けたときに、回避することができない!

だが、クラーケンが攻撃してくることはなかった。

代わりに聞こえてきたのは、クラーケンのけたたましい声と、凛々しい女性の声だった。

そちらの方に顔を向ける。

そこには、輝く鱗を持ち美しい白竜に乗った金髪の女性が、金の弓を使ってクラーケンと戦っていた。


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