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61話~65話まで

------------------------- 第61部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

前だけを見つめて


【本文】

そして時間は進み、現在。

血まみれの部屋を前に、俺らは立ち尽くしていた。


「何…これ…友恵は!?キーちゃんは!?」


そう言って、春香は見つかりもしない探し物を探すように、部屋に二人の存在がないか探し始めた。

そんな様子を見ていられるはずもなく、俺は春香の肩を掴んで目を覚まさせるために体を揺らした。


「落ち着けって春香!まだ……死んだわけじゃないだろ!あの強い友恵が傍にいるんだ。きっと外に逃げているはずだ」


その俺の言葉を聞いて、混乱しきっていた春香は体を動かすのをやめた。

それでもその瞳からは、最悪な出来事が起きてしまったかもしれないという不安がぬぐい切れていなかった。


「……というか、これだけの血が壁やら天井やらに着いているなら最悪肉片がそこらへんに落ちてそうですしね。それよりもジャル君、早く部屋に入ってきてください。親玉を落としたからと言って、まだ敵が消えたわけではないんですよ」


「………そう……ですね」


サーシャはサーシャで相変わらず、こういう場面に遭遇しても冷静だった。というか冷静すぎる。

俺はそのサーシャの人の死に慣れ過ぎているところに疑問の念を抱いた。

かといって、今はそんなこと言ってる暇ではないし、前に一度戦場とかでよく店を出しているといってたので、俺がこのことについて聞くのはおかしいだろう。

まぁ…俺も葵も大概だがな。

葵は葵で、さっきから割れた窓ガラスをずっと見ている。何かヒントになるものでも探しているんだろう。

そして、唯一この血まみれの部屋に入ってきていなかったジャルがようやく部屋に入ってきた。

ジャルは鼻をつまみ目を閉じていた。

仕方のないことだ。こんな光景誰も見たくない。

そんなジャルを見てサーシャは何を思ったのか、忍び足でジャルの後ろに行くと大きく息を吸った。

そして、わっ!と言って背中をポンと叩いた。


「ああああああああああああああああああああああああ!!!!」


突然のサーシャのいたずらに、ジャルは大声をあげた。

というか、サーシャ今この状態でよくそんなことできるな……。


「ななななな、何するんですかぁー!」


「いちいちこのくらいの事でそんなことしてたら、これから先大変ですよ。特にお兄さんがなぜああなってしまったか原因を突き止めるのならね。そう思いませんか、春香」


「え、……そ、そだね」


「なら、ここでうじうじするよりかは動いたほうが良いと思いませんか?」


ここでようやく、サーシャが何でこんなことをしたのか理解できた。

春香の状態を元に戻すため、だったんだな。それにジャルを利用するのはどうかと思うが。


「そうだよね……まだそうと決まったわけじゃないもんね。それに…副隊長の私がここで立ちどまってるのもなんだしね!」


サーシャの言葉が効いたのか、春香は先程とは変わって、いつもの調子を取り戻した。

うん、これなら戦っている最中に変なことを考え出したりはしなさそうだ。

その時、ずっと割れた窓ガラスを見ていた葵が俺ら全員を呼んだ。

全員でそちらの方によると、葵は窓に付いたある血の跡を指さした。

目を凝らしてそこを見てみると、そこに明らかに普通ではできないような何かの形をしたくぼみができていた。


「多分、靴跡だと思うんだけど……女の子にしては大きいし……」


「誰か別の足跡ってことか?ならそいつが外に出ていったってことは、友恵たちも外に逃げている可能性があるな。よし、そうとわかれば早速」


探しに行こう、と言おうとしたその時、遠くの方でパンと大きな乾いた音が響いた。

あっちの方向は確か、港方面だ。


「行こう、なんか嫌な予感がする」


俺がそういうと全員がうなずいた。

そして俺らは軍の施設から出ると、港に向かって走り出した。


------------------------- 第62部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

よみがえりし死者


【本文】

港に向かっている最中でも、その音は止むことはなかった。

というか、次第に音が聞こえる間隔が狭まってきている。嫌な予感しかしなかった。

港の方に近づくと、いつどのタイミングで入ってきたのかわからないが狼型の魔物がうじゃうじゃと湧いていて、地面にはついさっきまで戦っていたであろう春香の所属する軍隊の兵士の屍が内臓をむき出しにして転がって強烈な悪臭とともに道をふさいでいた。

あまりの臭さに思わず鼻をつまみたくなるところだ。


「このくらいの魔物じゃ死なないように訓練しているはずなのに…どうして…」


「それにしても、魔物が多いですね。先に一掃しますね」


そう言って、サーシャは死んだ軍の兵に群がっている魔物めがけて、クオーツを投げ入れた。

サーシャが投げたクオーツはその兵士の上で光を放ちそのままそのあたり一帯を吹き飛ばし、後には何も残らなかった。

春香が下を向いて、こぶしを強く握りしめていた。

悔しいのだろう。その気持ちがわからないでもないが、今の俺たちにそんな暇はない。

春香に行くぞと声をかけ、俺らはまた港に向かって進み始めた。



森の方に逃げていたのに、気が付けば海側へと追いやられていた。

私は、キーちゃんを抱きかかえながら必死で逃げた。

そして、逃げれば逃げるほど周りにいるウルフに邪魔され道をふさがれた。

挙句の果てには……先程殺したはずの死人が目の前に立っている始末だ。


「あんた…なんで生きて」


「……俺はそういう個性なだけだ。そこら辺の人間と同じにしないでくれ」


そう言うと、グライはキーちゃんにその武器を向けると、それを撃ちだした。

またさっきの見たこともない武器でこちらを攻撃してきた。その対処法を知らない私はただただ避け続けるしかなかった。


「なんであんたはこの子を狙うの!」


「召喚士を根絶やしにするためだ」


「この子はまだ子供じゃない!」


「子供だろうと関係ない」


逃げ続けている私たちにグライが接近してくると、持っていた大剣を私たちに振りかざした。

私はそれを、一本の短刀で受け止める。腕がちぎれそうなくらいに痛かった。


「…そこまでして…何がっ!あんたをそこまで!」


「お前には関係ない」


そう言うと、グライはあいている左手でその不思議な武器を持つと、キーちゃんの頭にそれを突きつけた。

そして、その引き金を引くその直前だった。


「破砕拳!!」


その言葉とともに、一人の女の子がグライにこぶしを突きつけるとグライは真横に吹き飛んでいった。

私はいったい何が起きたのかよくわからなかった。

そして、その女の子が来た方向から彼らが走ってきた。


------------------------- 第63部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

そして命は儚く散る


【前書き】

フリーテ⇒fleeting 意味、儚い、短命


【本文】

友恵とキーが視界に入った途端に春香は走り出した。

大切なものをもう二度と失いたくない。その思いだけで体を動かした。

そして何とか間に合うことができた。

体中から力が抜ける。先ほどの戦いで完全に力を使い切っていたので、ここらで限界が来ていた。

俺はギアで春香に追いつくと、倒れかかっていた春香の腕をつかんだ。

後から葵たちも追ってきていた。

そして目の前には、キーをかばうように後ろに倒れこんだ友恵。

それに友恵たちに牙をむいたグライがそこにいた。

吹き飛ばされたと思っていたが、その手に持った大剣で春香の一撃を正確に受け止めていた。

こいつは今までの人間とは違う。俺はグライから感じる魔力でそう感じた。

普通の人間は光の魔力を持つはずなのだ。少なくともこの地上にいる人間なのならば。

なのに、こいつが体から放っている魔力は、闇だった。

全てを破壊する闇だった。

すぐにでもこいつだけは…息の根を止めなければならない。

同じ過ちを繰り返さないために、俺は葵に春香を預けるとグライに向かって刀を抜きながら走り出した。


「気を付けて!そいつ見たこともない武器を使ってくる!」


後ろで友恵の声がした。

みたこともない武器?走りながら何かと考えているとグライはその武器を取り出した。

あれは…片手銃か!?

瞬時に足を止める。その瞬間グライは俺に向かって引き金を引いた。

その弾が頬をかすめる。なんとかぎりぎりのところでかわすことができた。

なんで今の時代に片手銃があるんだ!?いや、それよりもあいつがなぜあれを持っているかだ。


「…目がいいな。お前は」


グライが俺に銃を向けながらそう言った。

どうやら驚いているらしい。


「まぁな……砲弾が雨あられのように降り注ぐ中で過ごせば、避けるくらいはできるようになるさ」


刀を構え相手の隙をうかがいながらそう答えた。

だが、こいつ全く隙がない。普通に懐に潜り込めば、まずイチコロだ。

かといって今”紅桜”を使えば、皆を巻き込みかねない。

……相手の出方次第だな。

それで生死が決まる。そう思った俺は、相手の出方をうかがった。

気が付けば勝手に青眼が発動していて、体から水属性の魔力があふれ出ていた。

そして、相手が大剣を俺に構えると、俺に向かって走り出した。

来た!さぁどうする!どこで相手に仕掛ける!

この時の俺はまだグライの目的に気が付いていなかった。

そして、また同じ過ちを繰り返すことになるということにも。

違和感を感じたのは、相手が俺の近くまで来た時だった。

剣先がわずかにだが俺の方を向いてないのだ。

まさかと思い、その剣先のほうを見ると、その剣先の先には正気を失っているキーちゃんがいた。

まずい!と思った俺はすぐにグライの動きを止めるべく、そして視界を妨げるために動いた。

だが、一歩分遅かった。

一発の鉛玉がその片手銃から撃ちだされた。

その鉛玉を遮る障害物は何もない。

何もない、はずだった。

その鉛玉は、キーにあたることはなかった。

俺の目の前でそいつは……ジャルはキーの身代わりとなってその鉛玉を受けた。

そして、力なく前に倒れた。

葵とサーシャがジャルの体を地面に倒れこむ前に受け止める。

受け止められたジャルは力なく笑っていた。

俺は、グライに向かって刀を振りかざし大きな一撃を与えてから、ジャルのもとに走り寄った。


「待ってろ!今すぐ回復魔法を……!!」


「ははは…洋一さん。無理……ですよ。見たら……わかるじゃないですか」


ジャルは先程撃たれ出血しないようにとおさえていた場所から手をどかした。

そこからは、闇の魔力があふれだしていた。

それは闇結晶化の始まりを告げるものだった。


「……あ…………あ………」


また…また、俺は…俺は!


「ひろ君!回復魔法続けて!私の浄化で何とかできるか試してみるから!」


葵が大声で俺にそういった。

そうだ。今は昔とは違う。

葵が治すための魔法を持っている。

俺は葵の言う通りに回復を始めた。

葵はその上から、ジャルの体からとめどなくあふれ出る闇に向かって浄化を始めた。

けれど、闇の進行は止まらなかった。むしろ俺らが回復をするたびに、進行が早まっていた。

もう訳が分からなかった。

気が付けばジャルの体の半分が結晶化していた。


「もう…いいですよ。二人とも」


「うるせぇ!怪我人は黙ってみてろ!今……今……治してやるから」


「もう…いいですから」


ジャルはそういうと、俺の手を掴んだ。


「出会った時から、最後まで迷惑かけてばかりでしたね……」


「…………」


「でも、こんな僕を…仲間だと呼んでくれたのは…洋一さん、あなたたちだけなんですよ。だから僕とっても嬉しかったんです」


やめろ……もうやめてくれ。


「……ありがとうございました。洋一さん」


頼むから嘘だと言ってくれ。


「それと、サーシャさん…一緒に行くって言ったのに……これじゃあ行くこともできません……ごめんなさい」


そのジャルの問いかけに、サーシャは何も言わなかった。

ただ背を向けていた。


「それとサーシャさん。こんな時に何ですが……伝えてないことがあります。僕は初めてあなたに会った時から」


そこまで言ってジャルの体は完全に闇の結晶と化した。

そして次の瞬間、その結晶が弾けんとんだ。

後には何も残らなかった。


「……何がありがとうだよ………馬鹿野郎が……」


「……ジャルさん…」


「………」


わっと泣き出してしまいそうになったその時だった。

今一番、聞きたくない声が後ろから聞こえた。


「…召喚士は仕留められなかったか……」


先程、力いっぱいに刀を振り下ろしたはずだった。

なのに、それなのに、そいつは……ジャルを殺したグライは無傷で俺らの後ろに立っていた。


------------------------- 第64部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

不思議な声に導かれるままに


【本文】

悪夢でも見ているのかと思った。


「な…なんで……」


無傷なんだ!?ありえない!さっき絶対に致命傷になる程度には斬りつけたはずなのに!


「…悪いな坊主、俺の個性は超再生だ。体を完全に消滅でもさせない限り、俺が死ぬことはまずない」


「超…再生…だと……」


そんな個性今まで聞いたことがなかった。

いや、正確に言えば聞いたことがないわけではない。

自己治癒能力といったところだろうか。

それでも、これほど早くには再生できないはずだった。

その時、キーをかばった状態で友恵が口を開いた。


「…だから、あんたは斬り刻まれて肉の塊になっても、こうして私たちを追ってこれたのね…」


「そうだ」


なっ!?斬り刻んで肉の塊にしただと!?

ならこいつは…本当に殺しても、消滅させない限り殺せないのかよ…。

そんなの絶対におかしいだろ!


「化物…とでも思ってそうだな。だが実際にそうだ。俺は…化物だ」


そう言ってグライは片手銃を俺の心臓を狙ってその引き金を引いた。

間一髪のところで、心臓ではなく左肩に弾が命中する。

だがどこに弾が当たろうと、同じことだった。

俺の左肩に当たった弾は、そこから闇の魔力を発し始めると俺の体を蝕み始めた。

体中の意識が持っていかれそうなほどの激痛が俺の体中を駆け回った。

あまりの痛さに、声を出すことも体を動かすこともできなかった。

そんな俺にグライは近づく。

その時、葵が俺の前に両手を広げてその進行を妨げた。


「……させない……!ひろ君は殺させない!」


「…嬢ちゃん……邪魔だ」


その一言を発すると、グライは俺らの目に追えない速度で動き、葵の後頭部にその銃で殴りつけた。

そのまま葵は一言も発することなく、地面に倒れた。


「……残りは…お前ら”三人”か……、一度しか言わねぇぞ。その餓鬼をこちらによこせ。そうすれば、悪いようにはしない」


「…誰があんたなんかにこの子を…キーを渡すもんですか!」


「なら……死ね」


グライの銃口が友恵のほうに向くと、そのまま引き金を引いた。



”また失うの?”

”あの時みたいにみんながバラバラになっちゃうよ”

”私はそれでもいいの?”

”いい加減元に戻れ私!何のために私はあれを作ったの!…みんなを守るためでしょう!”

”さぁ早く!!”


「…私の心に宿りし力よ……私たちを……ま…も…」


グライが引き金を引いた瞬間だった。今まで狂人のような行動をとっていたキーちゃんが、謎の言葉を口にしていた。

それと同時に、地面に見たこともないほどの巨大な魔法陣が展開したかと思うと、まるで私たちを守るかのように、そいつは現れた。

見上げるほどの大きさに、岩で構成されたその体。

間違いなく伝承で聞いたことがある伝説の魔物だった。


「四神獣…巨頭神ゴーレム!?なんで私たちの目の前に!?」


ゴーレムはそのままその巨大すぎるその手で私とキー、それに地面に倒れている洋一や葵、春香をその手で優しく包み込むと、そのまま私たちを海の方へと放り投げた。

そして、その投げられたその先には…。

白い魔物が大きな口を開けていて、まるで私たちを丸のみにした。

そこで私はその魔物の体内の壁に体を打ち付け、そのまま気を失った。



目の前に現れたゴーレムは目標を海の方に投げると風に飛ばされてしまった灰のように消えてしまった。


「……逃がしたか……」


だがまぁいい。あの高さから海に投げられたのだ。

さらにはほとんどの人間に重傷を負わせた。

生きているはずがない。そう確信した。

とりあえず、この場所から離れるか。

グライはそう思い、陸地側の方へと向かおうとしたその時、一つのクオーツが目の前から飛んできた。

それを遠い距離にあるうちに、銃で壊して発動させる。

弾が当たったクオーツは、その場所で輝きを放つとそのまま爆発した。

この爆発は……あぁ、あの物売ってる小娘か。

爆発で生まれた煙が視界から消えると、そこにその小娘は立っていた。

だが、その姿は先程とは違っていた。


「…小娘…お前、まさか!」


「……貴方がそれを知る必要は……ない」


小娘がそういうと同時に、十個ものペンデュラムがグライの体を襲った。



体中が痛かった。

特に撃たれた左肩なんてもう最悪の状態だった。

そんな中突然海に投げ出された俺たちはそのまま、謎の白い魔物に飲み込まれるとそのまま気を失った。

そんな中俺はまた、夢の中で声を聞いた。


”…たっく、今度は左肩にくらったのかよ……しゃぁねぇな。治してやるよ”


「……だ……れ………」


”…誰、か。そうだな、お前とは違う別人だ。今はそれしか答えられない。ほら、もう目を覚ませ。陸にはもう上がってるんだから”


「…陸に…上がってる?」


”その目で見て確かめな。さてじゃぁ俺は、ひと眠りするから、また死にそうになって俺を呼び出さないでくれ”



「待ってくれ!あんたはいったい!」


俺がその声を出したのは、夢の中ではなかった。


「……夢…か。それにしてもここは……」


目が覚めても、俺の視界の中に光が差し込んでくることはなかった。

そして、なぜか俺は服以外の何も持っていなかった。


------------------------- 第65部分開始 -------------------------

【第4章】

間章 海賊娘とドラゴンの騎士


【サブタイトル】

双剣から片手剣に


【本文】

まずは状況を整理しよう。

何で俺はここにいるのかだ。

俺は気を失う前までの記憶を脳の隅っこから引きずり出した。

ジャルが死んだこと。この事がまず明確に脳に浮かび上がった。

今でも、目の前に写し出されるようにジャルが死ぬ瞬間が目に浮かぶ。

また守れなかった。その後悔ばかりが今になって残った。

だがジャルは言っていた。"ありがとう"と。

なぜ感謝しているのか、俺には理解できなかった。

どうせなら、もっと別の事で感謝されたかった。ルルと同じような状況で…その言葉を使ってほしくはなかった。

次に浮かんだことは、攻撃を喰らって動けなくなったところ、何かが俺たちを掴んで海に投げたことだった。

…いったいあれは何だったんだ?どうしてあそこに突然出て来たんだ?

それに……海にいたあの白い魔物はいったいなんだ?

考えれば考えるほどに、疑問しか浮かんでこなかった。


「考えても無駄ですよ。それよりも今は体を動かして、この場所から脱出する方法を考えてください、ご主人様」


「え?お、おう。そうだな風華ああああああああああ!!?」


「…何を驚いているのですか。神器は神の創造物。このくらいのことができて当然です」


「……そ、そうなのか……。じゃぁ、ここがどこか分かったり……」


「それは外の景色を見てないので何とも言えません。ここに来るまでに、外の光を一度もみなかったので」


じゃぁここは本当にどこなんだろうか。それに、葵たちはこの場所に、この付近にいるのだろうか。

俺は、心の奥底でまたみんなと離れ離れになることを恐れた。

というか、今はジャルの件もあって皆の顔を早く見たい。

そして、早く安心したかった。

そんなことを考えていると、俺は、そういえば何かが足りないように感じた。

なんかこう……会話の中にひどいことを言うやつがいたような気が……。

そこでようやく、何が足りないのか気が付いた。

水連がいない。風華にお姉様と呼ばれている、あいつがいない。


「風華、水連はどうした?」


それを風華に聞くと、風華は表情を曇らせた。まさか、何かあったのだろうか。


「…お姉様は……先程……」


「先程なんだ!?何があった!?」


それから先の言葉を風華が言うのに少し時間がかかった。

そして、さらに顔を曇らせて言うと、唇を少し噛みながら口を動かした。


「………おいしそうな匂いがするとか言って………そのまま匂いの元に……向かいました」


「………は?」


「……報告は以上です」


そう言うと、先程の言葉の意味をまだ飲み込めてない俺を残して、風華は剣の姿に戻った。

少したってから、俺はようやく風華が何を言ったのか頭の中で整理できた。

というか、話の途中で剣に戻るとか、どんだけこのこと言うことに抵抗があるんだよ。

子どもかお前は、と突っ込みたいところだったが、それを言うとご主人様よりかは年上ですとか言われそうだったので、とりあえず何も言わないことにした。

まぁいろいろ言いたいことは後にして、今はここを出よう。

そうしないと、何も始まらない。

俺は風華を片手に持ち、音がしないように慎重に目の前の鉄格子を斬った。

鉄は結構さびていたので、案外すぐに斬ることができた。

もしかしたら海が近い場所なのかもしれない。

そうして俺は、どこかもわからないこの暗がりの中を壁つたいに歩き始めた。


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