1話~10話まで
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【第1章】
序章 離れ離れ
【サブタイトル】
18万5892回目
【本文】
体中に激痛が走っていた。痛みはひかない。それでも立ち上がった。それが、守護者としての…女神の守護者として俺が存在する理由なのだから。右手の甲を見る。すでにほとんどの女神の契約は破棄され、残っているのは1つ。知恵の契約のみだった。まだ、つながりはある。それだけが今の心の支えだった。
「死ぬ準備はできたか」
目の前に立つ男が冷たい言葉を俺に向かって発した。
「死ぬ準備?……冗談…きついぜ……英雄さんよぉ!グランディーネ!」
聖剣の名を叫びながら俺は前へと走りだす。呼ばれた剣は、俺の右手に滑り込むようにおさまった。その剣を男へと振りかざす。それを男はたやすく受け止める。受け止められて当然なのはわかっている。その剣は誰よりも使っていたのだから。
「神の神器を前に、それ以下の武器が通用すると思うか?第三世界の英雄」
「黙れ!」
「存在するはずのない世界を消して、元の世界を取り戻そうとするだけだ。それの何が悪い」
「黙れ!」
「所詮は紛い物なんだよ。君も、この世界のなにもかもも。そして、君の抱いたその感情も」
「黙れえええええええ!!」
手に持った剣を無茶苦茶に振るう。それを全て目の前の男は防ぎきると俺の手から、その剣を叩き落とした。その剣は光を発しながら消滅した。もう、時間がない。
「楓!」
一番手になじんだ刀の名を呼ぶ。呼ばれてすぐにその刀は俺の手におさまった。すぐに神威化して畳み掛ける。しかし、それすらも無駄だというように全ての攻撃を防がれると、一太刀。冷酷な一撃だった。そこには、殺意もなく、罪悪感も感じられなかった。世界が遠くなっていく。最後に右手の甲に目がいった。そこに、女神との契約印は何一つ残されていなかった。
「高田洋一の死亡を確認しました」
聞きたくないものを聞かされた。もう何度目だ。これを耳にするのは。
「また、失敗したのね。……これが本当にあなたの望んだことだったの?」
「…………」
「女の子として生まれるはずの子を男の子にした挙句の果てに、女神と契約できる神の神器の所有者にして、彼と戦わせ、彼を殺す。これが、本当にあなたが……あの方から継いだ意志だというの?」
「…わかっている。僕が、禁忌を犯していることはわかっている!そんなこととっくに理解しているさ!」
「ならどうして…」
「彼を救うためだ!そして、洋一を救うためだ!」
「救う……ね。その一言で片づけられるほど、事は簡単ではないわ。それは、理解しなさい。…じゃぁお別れね。どうせまた時を戻すんでしょう?なら、私たちはまた敵同士。敵と言葉と交える必要はないわよね。それじゃあ……また」
そう言って、彼女は姿を消した。………もう嫌だ。こんなこと。辛い辛い辛い……。それでも、動かなければならない。洋一のために。
「全ては、あの方のために……」
そうして、僕は繰り返す。再び、彼のたどった足跡を。
------------------------- 第2部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
春香…とりあえず動くな
【本文】
燃え盛る木々の横を煤で黒くなった5人の子供が走っていた。
「宗次!後ろから追っ手が来てる!早くこっちに来い!」
一人の男の子が、足が重たくなって動けない男の子の所に駆け寄る。急いで肩を担いで、二人三脚の状態で走り出す。
「洋一!俺を置いていけ!じゃないとお前まで殺される!」
「んなこと出来るわけねぇだろ!!もうこれ以上大切なもんを失うのは懲り懲りなんだよ!!」
宗次を怒鳴り付け、洋一は待たせている仲間のもとへと走る。
「遅い!男の子なんだから、私達女子組よりしっかりしなさいよ!」
「さすが、男の娘と呼ばれるだけあるね!春香!」
「うっさい黙れ」
春香は宗次に冷たくそう言い放つと、おもいっきり腹パンチをくらわせた。
ごっふぅ、と言いつつ宗次はその場に倒れこむ。口から泡を吹いていた。
「あぁ!春ちゃん!こんなことしてる場合じゃないんだよ!?私達今兵隊から命狙われてるんだよ!?早くボートのとこまで行こうよ!」
「大丈夫だよ葵ちゃん!ちょっとクイックヒールかけただけだから、直ぐにもとに戻るよ♪」
そう言う問題じゃないよ―――!、葵はその場で膝を抱え込み丸くなる。
この状況でパニックになる葵の方が、人間として正常な動作だと思うけれど正直、春香は何の心配もしていないようだった。
「鉄ちゃん!そっちどうだ?抜けれそうか?」
「いや、無理だひろ!このままだと強行突破しかなさそうだぞ!」
槍を持った鉄ちゃんと洋一がそれぞれの草むらから出てきた。どうやら、2人は回りの安全確認に行っていたようだ。
「どう?ひろくん。周りの状況は?」
さっきまで頭を抱えていた葵が、突然顔を上げた。今から戦略をたてるみたいだ。
「それぞれ、5人一組のチームで周りを周回中。ここが見つかるのも、時間の問題だと思う」
「そうか…………なら、ひろの隠密系魔法で全員をカバーしつつ、1つの穴をついて突破するしかないと思うよ」
そうだよなぁ………。うーん、と腕をくみあまり知恵のない頭をフルで回転させる。
さっきの春香がやらかしてくれたおかげで、宗次は行動不可。春香、鉄、自分は特に問題なし。葵は精神面がヤバイなぁ………。
うーん、首を捻らせて唸っていると、目の前から金属音と松明の灯りが近づいてきていた。
「探せ!この島の隅々まで探せ!!決して逃がすな!!!」
ヤバイな……この状況で見つかるのは非常にまずい。一旦ここは、少し場所を離れた方がいいな……。
そう判断した俺は、後ろを振り返り皆にここから離れるように指示を出す。
「敵が近いから、急いでこの場を離れる………あれ?春香は?」
後ろを振り替えって指示を出したところ、春香の姿だけがさっきまでいた場所にいないのだ。
まさかと思い、さっきの松明の灯りが見えた辺りを見る。
見るとそこには、籠手を身につけ、敵陣に向かって突っ込んでいくアホの姿が写っていた。
勿論、それに気づかないほど敵も馬鹿ではなく……。
「うおりゃああぁぁぁぁぁぁ!!」
「いたぞ!!生存者だ!殺せぇ―――!!!!」
『あんの、バカ野郎!』
と、鉄ちゃんと一緒に自分の武器を持って、バカ野郎のいる場所まで走った。
「何勝手に戦闘始めてんだ春香!」
「だって、倒した方が早いと思って」
「そんなこと話してる暇ないよ、2人とも!来るよ!!」
前を見ると、血眼になって探して疲れたという表情をした、5人の兵隊が槍の矛先を自分達へと向けている。
今にも襲いかかって来そうだった。
「ああぁぁ!!もう!春香!鉄ちゃん!行くぞ!!」
「ああ!!任せろ!」
「誰に向かって言ってるのかしら?ひろ?」
味方の返事を確認して、自分の気合いを入れ直し、自分の武器幻刀風神を抜き放った。
------------------------- 第3部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
友のためなら
【本文】
「いいか、鉄ちゃんが敵を槍で牽制、俺がその間に相手の武器を壊す。そしたら春香は相手を転ばして気絶させる。これでいくぞ!」
「ふっふーん、誰にいっているのかな?そんなの分かってるって!」
「ひろ、お前も当たらないように気を付けろよ」
「勿論!!」
3人に指示をだし、気合いを入れ直したところで相手が槍を突きだしてきた。
すぐさまそれを、上に弾く。そして、体制を崩したその瞬間、春香が相手の懐に飛び込んだ。
相手の反応の遅さを利用した、戦闘の基本中の基本。師匠から初めて教わった戦法だ。
そのまま春香は相手を転ばして、脳震盪を狙って、相手の頭を思いっきりぶん殴った。
「鉄ちゃん!春香が狙われる!急いでフォロー!!」
「了解!」
春香が、一人を倒している間にもう一人が剣を抜き放って斬りかかろうとしていた。
すぐさま鉄ちゃんがそれを弾く。
「ひろ!シンクロ!!」
「オーケー!!」
すぐそこにいた2人を致命傷にならない程度に斬りつけ、鉄ちゃんに近づく。
相手も何が起きるのか分からずに、後退りをしていた。
チャンス、そう思った自分は、すぐさま技を放つ体勢に入る。
「行くぞ!!鉄ちゃん」
「おう!!」
敵を前と後ろで挟み撃ちにして、逃げ場を失わせ動けないようにする。
そして、二人同時に斬りかかった。
『旋風!!』
2人で同時に敵に螺旋状に斬りかかり上の方に弾き飛ばす。
そのまま、上に弾き飛ばされた、敵は残った螺旋を描く空中の斬撃に体を斬り刻まれた。
勿論手加減したので、血など出ずに相手を気絶させるだけで終わったが。
周りを見渡す。どうやら、最後の1人は逃げてしまったようだった。
ふぅーと、一息吐くと気を失っている宗次と看病をしている葵のもとに戻った。
もう、宗次も目覚めたらしく、足元はおぼつかないが、走れる状態だった。
「ほーら、宗次。何とも無かったでしょう?」
「何とも!?いや、お花畑の前まで逝ってたからね!冗談抜きで!!」
あーはいはい、と春香に軽くあしらわれる。この状況下、元気なものだ。
「で、これからどうする?1人逃がしたって事は、確実に追っ手が来るよ。浜辺は無理だし、ゲートも使えないし………」
春香が一番気にしていたことを話題にした。確かにそうだ。このままだと、確実に全員捕まる。
しかも、ここは島。逃げるのであれば船が必須である。
「確か自分達がここに来たときってバグゲートだったんだよね?」
「え?あ、うん。そうだけど……それがどうした?宗次」
「いや……今こんな状態だからこそ、バグゲートって発生しやすいんじゃないかなぁ~…って思って……」
「それだ!!!」
そうだ、それがあった。バグゲート。何で今まで思い付かなかったんだろう。確かにあれを使えばここから遠くに逃げることが可能だ。でも、たしか何か条件があったような気が……。
その条件について、頭を捻って考えていると、葵が急に思い出した!と言わんばかりの顔で、こっちを見て話したがりそうにしていた。何で自分から話し出さないのかは知らないが。
「………えっと、葵?何か思い出したのか?」
コクコクとうなずく。昔から、自分からはあまり発言しない葵。俺がどうぞ、とか言わなきゃ絶対に策があっても話してくれない。
「確かね、バグゲートが発生する場所は、昔そこにゲートが在ったところだったと思うの…」
「つまり?」
「私達がここに、この時代に来たところに行けば何とかなるかもしれない」
「それが、今自分達が生き残るには確率が一番高いのか?」
コクコクと葵はうなずく。
「なら、その可能性にかけてみるか!!」
「と、言うことはあそこに行くんだね。桜岬に」
春香が少し興奮気味な声をだす。そう言えば、春香は桜が好きだったな……。
そんな、変な事を思い出しながら、桜岬へと全員で向かった。
そして、何事もなく桜岬へついた。そして、自分はその何もなかったことに違和感を覚えた。
あれから、全く敵が攻めてこないのだ。
いや、良いことなのだが、何かこうそれだけでは終わらないような、何かが胸に突っかかる感じがした。
「どうした、ひろ」
不安そうにしているのがばれたのか、鉄ちゃんが少し心配したような顔で話しかけてきた。
「いやね、何か違和感があるって言うか………なんっつうか……こう、なんかおかしいんよ」
「嵐の前の静けさ………的な?」
そう、そんな感じ。そう指差して鉄ちゃんの方を指差したとき、茂みの向こうで何かが光った。
「鉄ちゃん!!」
鉄ちゃんを思いっきり蹴って転ばせる。何があったのか本人は理解していないようだった。
「他のやつも、全員………!!!」
その言葉をいい終える前に、右足の太ももに激痛が走った。矢が当たったのだ。
そのまま、崩れるように倒れた自分をみて、ようやく今の状況を理解したのか急いで自分のもとに駆け寄ってきた。
「ひろ!大丈夫!!?」
「すぐに回復するから!」
春香と葵が同時に回復魔法をかけてくれる。でも、あまり効果が望めないようだった。
「これは……麻痺毒!?まだ、こんな魔法作られてないはずなのに何で!!??」
葵が焦って大声をだす。その声が聞こえたのか、何百人という敵が声を頼りに押し寄せてきた。
このままじゃ、全員捕まる。誰もがそう思った。
「宗次、頼みがある。ひろを背負って岬まで走れるか?」
突然、鉄ちゃんがそんなことを言い出した。
「うん、できるよ。鉄ちゃん」
「なら、そのままひろを背負って葵と春香を連れて逃げろ。俺がここに残って、こいつらを食い止める」
鉄ちゃんがなにを言っているのか理解するまでに少し時間がかかった。
そして、それがあまりにも無謀だと言うことにも。
「やらせねぇぞ、鉄ちゃん!!俺ら5人で未来に帰るんだろ!!そう約束したよなぁ!!」
「そうだね……そう言えば、そんなことも約束してたね。でも今は……」
鉄が立ち上がる。その瞳は真っ直ぐと、自分達を見ていた。
まるで、最後とでも言うような、そんな感じだった。
「今は、この命、お前らのために使わせてくれ!!!」
そう言うと、鉄ちゃんはそのまま、敵に1人で突っ込んでいった。
「ばか野郎!早く戻って、って宗次!!何でそっちいくんだよ!そっちは岬の方向じゃねぇか!!早くあいつを止めないと!」
それでも、宗次は足を止めなかった。がくがくと震えるその足で。
「何で!!何で!!何で!!助けに戻らないんだよ!!このままだと、あいつほんとに…」
「ひろ、それは鉄ちゃんの決めたことだよ。私達が口を出したところで、何にも変わらない、変えられない」
「そんなの、やってみなきゃわかんねぇだろ!!」
宗次の背中で、鉄ちゃんのもとに向かおうともがく。それでも、宗次は自分を離さなかった。
そして、鉄ちゃんがかけた4人の状態で、目的地の桜岬の最深部に到着した。
------------------------- 第4部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
1人にしないで!
【本文】
じたばたと手足を動かす洋一を宗次は背中から下ろして、回復のできる葵にパスした。
葵もすぐさま出来るだけ痛みを和らげようと治療を試みる。それでも、血は止まろうとはしなかった。
本人はアドレナリンが出ているのか、全く痛くないようで今にも鉄の所にいきそうな勢いだった。
「ひろくん、駄目だよ。鉄のとこに行ったら」
「何でだよ!!早く止めないと鉄ちゃんが!!」
興奮していて、このままだと這ってでも鉄の所に行きそうだった。でも、行かせない。行かせてあげない。
ひろくんは、向こうでは希望なんだから。だから、説き伏せる。必ず。
そう自分に言い聞かせ、立ち上がろうとしていた洋一を捕まえる。
「じゃあ、ひろくんは鉄の思いを無駄にしたいの?」
「違う!そう言う事じゃ」
「鉄があの時1人で飛び出さなかったら、たぶん私たち、もう死んでるよ」
「……!!」
「分かる?ひろくん。貴方は沢山の人から支えられてる。今も、そして向こうでも。だからこそ、ひろくんは、生きなきゃいけない。たとえ、仲間を犠牲にしてでも」
今の、洋一の存在価値を言葉にして表現していく。今の私にはこれしかできない。
「もう、仲間は失いたくないんだよ!!」
「じゃあ、強くならなきゃ。沢山練習して実践してね。でも、今は耐えるときだよ。……だから、我慢して、………お願い………。これ以上私を………一人ぼっちにしないで…………」
洋一の肩を掴んで、きれっぎれのか細い声で話しかける。あの時の、弱かった頃の話を出しながら。
ずっとうつむいていると、頭に何かが触れた。それは、私の頭をただ軽くポンポンと叩いただけだった。
パッと頭をあげる。そこには、ひろくんが苦笑しながら、こっちを見ていた。
大丈夫。そんなことはしない。そう言っているかのようだった。
「ハイハ~イ!!そこでいちゃつくな!リア充!!!前みなよ」
リア充じゃない!!!と否定しつつ、春香が言うように前を見る。
見るとそこには、何十、何百という兵士がこちらに迫っていた。
逃げようと後ろを見る。しかし、今いるのは岬。後ろは断崖絶壁で下は海。大体30m程度の高さ。
落下すればまず命はないだろう。
だったら、今やるべき事をただ全力でやるだけ。そう思い葵は立ち上がった。
「春ちゃん、前衛お願いできる?それと、宗次くん、シールド2個同時に出せる?」
「勿論!!任せて!」
「う、うん。なんとか………」
元気な声で反応する春香と弱気な宗次と私。この3人で戦うのは何気に初めてだ。だから、簡単な指示しか出せない。それでも、やらなきゃいけない。ここにいる人達だけでも、あの時代に、2013年に戻るために。
「春ちゃんは、出来るだけ近づかず気弾で離れて攻撃して注意をひいて。宗次くんは洋一を守るシールドと春ちゃんがピンチになったら、シールドをそっちにもお願い。私は出来るだけ魔法で攻撃する。」
「了解!!」
「は、はい!!」
そうこうしているうちに、敵がこちらに迫ってきた。もう、話している暇などなさそうだ。
「皆、お願いね!!」
そう言うとそれに呼応するように、春ちゃんが前に飛び出し、宗次くんがシールドを展開した。
それらを確認して、私は魔方陣を展開し始めた。
------------------------- 第5部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
限界を超える
【本文】
「はああぁぁ!!!」
前に飛び出した春ちゃんが、相手のお腹におもいっきり腹パンを喰らわせる。
そこに、私が追い討ちをかけるように様々な属性の魔法を繰り出していく。
そして、春ちゃんがピンチになったときは、宗次くんがシールドを張って攻撃を防いでくれる。
この作業が繰り返されて、どのくらいの時間が経過しただろうか。
私たちは、体力も魔力も底をつきつつあった。
それでも敵は、まだまだ自分達目掛けて襲ってくる。
足がもうふらふらになりつつある春ちゃんが、そんな状態になっても動き続けている。
このままだと、確実に死ぬリスクが高くなる。急いで、戻るように指示を出さないと………。
「春ちゃん!!一旦体制を立て直そう!!」
「う、うん。わかった」
息がきれっぎれの状態で返答する春ちゃん。
後ろを振り向いて、走り出したその時、槍が突きだされた。
反射的に危ない!!と叫んだ。宗次くんが、シールドを張ろうと、手を前にだす。
しかし、間に合わなかった。春ちゃんの背中に槍が突き刺さる。
「春香ーーーーーー!!!!!」
洋一が叫ぶ。私は体が硬直して、全く動けなかった。宗次くんは、それがショックで、集中が切れてしまったのか、そのまま気を失ってしまった。
お腹を貫通はしていなかったが、刺さり続けているってことは、相当奥まで刺さっているはずだ。
最悪、神経が殺られているかもしれない。急いで、春ちゃんを助けようと足を動かそうとした。
でも、動かなかった。春ちゃんが死んでしまったかもしれないという恐怖から、足が強ばって動かない。
すると、敵が春ちゃんの上にまたがり、心臓めがけてけ剣を突き刺そうとしていた。
助けなきゃ!と足を動かそうとした。しかし、力など入らずさらには地面に座り込んでしまった。
そのまま、春ちゃんにトドメがさされるのをただ見ているだけで終わってしまうのか。また、大切な友達を失ってしまうのか。
そんな気持ちが、頭のなかをぐるぐるとしていたその時、私の横を一瞬で何かが通りすぎた。
パッと顔をあげる。すると、そこには剣を抜き放った洋一が相手の剣を受けとめていた。
「ひろくん!!」
「葵!!何ボーってしてんだ!!ここは戦場だぞ。いつ誰が死んでもおかしかねえんだ」
「ご、ごめん……」
「気にすんっな!!」
そう言いながら、相手の剣をはねのき相手の頭を鞘で殴って気絶させた。
急いで、春香の状態を確認する。息は浅いがまだ生きているようだった。
急いで、槍が刺さった状態の春香を担ぎ上げ葵のところまで足をひきずりながら運んだ。
「春ちゃんは!!春ちゃんは大丈夫なの!!?」
心配そうに、春香の顔をのぞきこみながら葵はそう言った。
「今から急いで応急処置すれば、なんとかなる。今はそれよりも………」
「ど、どうしたの?ひろくん」
「いや、ヤバイやつが来たなぁ~って思って」
ひろくんが見ている方を見てみる。見ると、明らかに雰囲気が違う長い槍を持ち甲冑に身を包んだ人物がこちらに迫っていた。
兜の隙間から見える目が、赤く光っている。
「………しかも、限界突破中ですかい……。こらぁ、こっちも本気出さないと死ぬな……」
「ひろくん!!その力は!!」
何か無茶をしようとしていたのを察知して、ひろくんを止めようとする。すると、頭を軽くポンポンと優しく叩かれた。
ひろくんがこれをするときは、 安心しろ って意味がこもっている事が多い。
ひろくんを見るとこっちを見て、歯を見せてニカッと笑っていた。
その、思いを受けとると、葵は春香の治療を始めた。
俺はそのまま、そいつのところに右足に痺れを感じながらも近づいた。
相手は自分が近づいて来たことを警戒したのか、自分に長槍を突きだしてきた。
一瞬でそれを見切ると、突きだされたその長槍を上へと弾き返した。
その行動に驚いたのか、そいつは後ろに後ずさった。
「貴様、一体何者だ!?」
そいつが自分に向かってそう叫んだ。
「自分か?そうだな………」
敵に何者と指摘され、そういや何者何だろうかと、真面目に首を捻って考える。
うーん、どう名乗ろうか?
そんなことを呑気に考えていると、またもやそいつは長槍を突きだしてきた。それをなんなく弾き返す。
じゃあ、こう名乗ろうかな~。ととっさに思い付いた事を口に出した。
「ある程度の未来を知るもの。かな?」
「み……未来を知るもの…だと?」
意外とその言葉が効いたのか、そいつやそいつの回りにいるやつらが後ずさりを始める。
こんなチャンスを逃すわけにはいかない。
「お前さんら………俺の仲間に手を出しておいて、命があるだなんて思うんじゃねぇぞ!!!」
魔方陣を展開しある特定のワードを唱える。すると、体を魔力が纏い始める。
それを、防ごうと敵が無造作に剣やら槍やらを突きだす。
しかし、それよりも早く、自分の魔法の詠唱が終わった。
片方の目の色が淡い青色へと変化する。それと同時に纏っていた魔力が四方に散らばり近くにいた敵をなぎはらった。
「さぁ、長槍使いさん!!俺と勝負だ!!」
「いいだろう!!臨むところだ!!」
こうして、俺と長槍使いの戦いが始まった。
------------------------- 第6部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
片眼vs両眼
【本文】
自分の眼の色は青。水属性だ。それに対して相手は赤。色的に属性は炎のはず。属性的にはこちらが有利。つまり、たとえ戦力差はあったとしても押しきれる可能性がある。そんなことを考えている間にも、刀と槍が何度も火花を上げてぶつかり合う。
重い。一撃一撃がとても重い。精錬されたその一突きにもし一度でもあたってしまえば、自分の体は原形を保てなくなるだろう。そう思えるほどに。だからと言って、ここで押し負けるわけにもいかない。俺らは生きるために、未来に帰るためにも、この場をどうにかしてしのがなければならない。そして、鉄が自分の身を投げてまでも作り出してくれたチャンスを、こんなところで無駄にするわけにはいかない。振り絞れ、今出せる限りの全力を。これくらいの困難ならいくらでも超えて来たじゃないか。
「いい目をするな、君は!!」
そう言って笑いながら彼は何度も何度も槍を突いてくる。
「そりゃどうも!!」
その槍を丁寧にそして、葵や春香にその攻撃が当たらないようにきちんと防いでは別の方に受け流し、受け止め、この動作を何度も繰り返す。だが、そろそろまずい。手の感覚が麻痺ってきた。
……早く勝敗をつけなくてはならない。でなければ、捕まってそれこそジエンドだ。
それなのに、勝負に出れない。正確に言えば隙が無い。どこにも無駄な動きがない。この人にはそんな動きが全く見られない。それは、常人ならざるセンスなのか、それとも魔眼による限界突破のせいなのか。そんなことはわからない。ただ言えることは一つ。この人は、今まで戦ってきた人の中で一番強いということ!!
「どうした!君からは何もしないのか!?」
そう言いながらも、その激しい攻撃は止まらない。何もしないんじゃない!出来ねぇんだよ!そう文句を言って攻撃をやめてもらえるのなら、こっちだってやめてもらいたいよ!!
だが確かにそうだ。今の俺は攻撃を防ぐことに必死で攻めることができていない。だからと言って下手に手を出せば、こちらが深手を負うのは避けられない。
選ばなければならない。怪我をしてでも勝利を得るか、ここで怖気づいて敗北するか。……考えるまでもない選択肢。もう答えは出ている。
一歩。それを踏み出す勇気がそこにあればそれでいい。
踏み出せ、その一歩!!
突き出された槍を前に前進しながら避け敵の懐に潜り込む。敵もさすがにその行動を読んではいなかったのか、少し驚いたような声を出した。だが、この俺の作戦は裏目に出た。
「きゃああぁぁ!!」
「うわああああ!!」
背後で葵と宗次の叫び声が聞こえた。声のする方に自然と目が行く。してやられたと思った。そして同時に自分の行動を悔いた。
さっきまで俺は、あいつらに攻撃が当たらないように攻撃を受け止めていたじゃないか。それをやめるということはつまり……あいつらに攻撃が当たるということ。そして……
「……実に残念だ。久しぶりに戦いを楽しめる相手を見つけたと思ったのに」
その言葉とともに、敵は俺に向かって強烈な一突きを繰り出した。しかもその時俺は、葵たちの方を向いていた。つまり的に背を向けていた。敵の言葉も聞こえていなかった。ただ、あいつらに手を伸ばそうとして、取るべき行動を誤った。
背中に激痛が走ると同時に、俺は葵たちと同様に吹き飛ばされ、そして……闇に落ちた。
------------------------- 第7部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
降ってきた希望
【本文】
深い……深い……深い……闇に落ちた。いつまでも終わることのない気持ちの悪い浮遊感が、これは本当は夢なんじゃないかと疑うほどに奇妙なものだった。だが、似たような体験をこの時代に来る時にも体験したことがある。つまり、これはおそらく…現じ
そう色々と思考を巡らせていたところ、怪我をしていた背中から地面に叩きつけられた。
「~~~~~~~~~~~~っ!!!」
あまりの痛さに声が出ない。しばらくはそのまま動くことができなかった。何とか少し痛みが引いてきて、ようやく体を軽くなら動かせるなってから、背中に回復呪文をかけ、ようやく痛みが治まった。ほぅと一息ついてから、俺はようやく立ち上がると、少し痛む背中をおさえながら、辺りを見回した。そこで言葉が出てこなかった。
下には雲、空には星々、辺りには浮遊する島々。その中でも特に中心部分であると思われる大きな島は光でとても輝いて見えた。
「…どこだ、ここ……。それに…先に落ちた葵たちは…」
まさか下に落ちたのか!?ふとそんなことが頭をよぎった。……いや、おそらくそれはないだろう。だって俺はこの島に垂直に叩きつけられたのだ。なら、俺より早く落ちたあいつらは必ず俺の下敷きになることになる。そう推理すると、すでにこの場所に落ちていて、何らかの方法で移動した。もしくは、別の場所に飛ばされたということになる。どちらにしても、あいつらに再び会うことはほぼ不可能に近いと思われた。ため息しか出なかった。これから一体どうすればいいのかと、そしてどうやってここから助けてもらえばいいのかと。そんなことを思った。そんなことを思っているとふと、あることに気が付いた。先程まで自分の手元にあった風神が見当たらないのだ。夜中で辺りが見えづらい中、急いで風神を探す。それから手探りで長い間捜していると、こつんと手に何かが触れた。それを掴んでみると、きれいな明るい緑色が特徴的な刀、風神だった。よかったと手にもって安堵したその時だった。気を緩めていたせいか、背後から近づいてくる鳥形の魔物の存在に気が付かなかった。そのまままだ直したばかりの背中を鋭いくちばしで攻撃され、島の外へと吹き飛ばされた。慌てて、風神を落ちている最中に島に向かて突き立て、落ちないように両手でしっかりとつかむ。少しばかり落下する勢いで、下に落ちながらも、無事刀で落下を防ぐことができた。ふぅ、と安堵したのもつかの間、先程攻撃してきた魔物と思われる魔物がもう一度俺に突撃してきた。両手両足が使えない今、どうしようもなく俺はその攻撃を喰らうと、そのまま酸素不足で意識を失いながら地面に向かって落下していった。
場所は変わって二ケア大陸にあるコラ村。その付近にあるとある湖。真夜中であるというのにもかかわらず、この場所に村の女子供が集まって、一生懸命何かに祈っていた。
「どうか……水の守護者様、水龍様。あなた方のお力で、どうか…どうか!この村にある謎の霧をお払いください……どうか、どうか……」
ある少年は、そんなことをしている女子供たち、そして村長を見てあほらしいと思った。確かに、調査に言った男連中は帰ってこない。それはコラ村にとって唯一の働き手がいなくなることを意味し、すなわちそれは死と滅びを意味する。そんなことはわかっている。だが、伝説に出てくるような人物に祈っても、何にもならないだろうが!そう思いながら、少年は石を湖に投げ捨てた。
「これジル!!貴様も祈らんか!!」
「うるせぇ!こんな状況で、神様に祈っても結局何の解決にもならねぇじゃねぇか!男たちがいなくなったのなら、今いる俺たちだけでどうにかしなくちゃいけないんじゃないか!!それを考えるのが村長!あんたの仕事だろ!!」
「出来損ないの鍛冶屋が何を言うか!!」
「うるせぇくそじじぃ!!何もできないくせに!!」
「やめて!兄ちゃん!!」
そう言って村長に、殴りかかろうとするジルの事を妹のティナが体を使ってその行動を止めた。
「今は、争ってる場合じゃないよ!それに……………ぇ……?」
そこまで言ってティナは驚いた眼をして、湖の方を見ていた。それと同時に、驚きの声を上げる村人たち。一体の何事かと思い湖の方を見ると、名もなき湖に大きな謎の魔法陣のような何かが光を放ち描き出されていた。そして……
そこへ、空から少年が降ってきた。
始まるのは、絶望の物語。語り続かれるのは美化された英雄伝。今誰にも知られることのない、ラウルと呼ばれ、STARSKYGUARDIANのリーダーとして名を残す彼の物語をが始まることをこの時、本人を含む誰もが知りえなかった。
------------------------- 第8部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
冒険の始まり
【本文】
暗い。周りが何も見えない。そして、まずここがどこだかまったくわからない。
そんな中、魔法を頼りながら何かいるか探してみる。
今のところ、何かがいる気配はない。
やることもなくその場をグルグルと回っていると、ある場所から光があふれだしていた。
急いで、そこに向かってかけていく。
「本当にその道を行くの?」
後ろから誰かに声をかけられて、とっさに方向転換して声をかけてきたであろう所を見る。
そこには、小さい謎の黒い影が自分を見上げるように立っていた。
「その道を選ぶと、二度と日常は戻ってこなくなるよ。それでも、あなたはそこに行くの?」
「まず、おまえは誰だ。ここで何をしている」
「………そっか、もう変える気はないんだね」
「さっきから、いったい何の話をしている」
「………その質問に答えることはできないよ。でも、また会える機会があると思う。そこまでは、お別れだね」
「おい!さっきから一体何の話をして」
その黒い影が、お別れだね、といった瞬間黒い空間だったこの場所にひびが入り始め、そして床が抜けた。
「おい!お前!!まだ話は終わってないぞ!」
手を伸ばし必死に何かをつかもうとする。しかしここは何もない空間。何もつかめぬままそのまま落下していく。
「二……陸……み……み……じ…………あ………。な………2……」
最後に何か言っていたが、まったく聞きとることもできぬまま、その空間から吐き出されるようなスピードで、落ちていった。
「うわああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
ガバッと、布団から跳ね起きた。……え?布団?たしか、変なところから足を踏み外して落下したはずだけど……。
「おぉ!お目覚めになられたか!」
突然、後ろのほうから声がかけられたのでそちらを向く。みると、結構年を取ったおじさんが扉の前に立っていた。
「あ、あの、ここは?」
まずここが、本当にどこなのかがさっぱりわからない。それに、葵たちの魔法の反応が近くにない。
確実に、別々の場所に飛ばされてしまったようだった。
「ここですかい?ここは、二ケア大陸にあるコラという村です。前は活気のある村だったんですが…」
そういうと、突然はぁ、とため息をつきながらベットの近くにあった、椅子にこしかけた。
椅子を見るかぎり、どうやら目が覚めるまでずっと看病をしてくれていたようだった。
「ずっと看病してくれていたんですか?ありがとうございます」
ベットに入ったままだがまずは、お礼を言いたかったので頭をぺこりと下げた。
そんなこと気にしなくていい、とでもいうように首を振ったそのおじさんは、またため息をついた。
「あの…さっきから、ため息ばかりつかれていますが、この村で何かあったんですか?」
自分がそういうとおじさんは突然、顔を上げた。
なぜか期待のまなざしで見られていて、質問が聞こえていないようだったので、もう一度言い直した。
「おぉ、これはすまん。いや実はな、ここら一体で謎の霧がでとってな、村を出ようと道に沿って歩いていくと、村に戻されるんじゃ。食べ物も少なくなってきて、病気になるものも出てきて、何人もの男が解決しようと村を出て霧の中に入っていった。でも誰一人として戻っては来なかった。もう神頼みしかなくなって神様にお祈りしていたその時じゃ。そなたが空から降ってきたのじゃ」
「……やっぱり……。あの島って空中に浮いてたんだ……」
ということは?自分は空中何千メートルというところから落ちてきて無傷?だったのかな。現にもう背中の傷もふさがりつつあるし、跡も残っていない。落ちている間に何かあったぽいな。
「わしはこれを運命だと思っておるんじゃ。だからこそこんなお願いを聞いてもらってもいいだろうか?」
「とんでもない!助けてもらったのに。自分にできることなら何でもやらせてもらいますよ!」
「それは、助かる!!ありがとう。ところで君の名前は何というのかね?」
「あ、洋一です」
「では、わしもじゃな。私はここの村長をやっておるデフという。早速明日からよろしく頼むぞ!」
はいっと言いながら相手が手を前に出したので、こちらも手を出してお互いの手を握った。
……、ん?あれ?明日からよろしく?
もしかして、俺がここの問題解決しろってことか……。
この先の不安しか頭に浮かんでこない自分に不安になりそうだったが、まぁ引き受けちゃったし頑張るしかないかぁ、と思いながら窓の外を見る。
もうすでに日が昇り始めていた。
------------------------- 第9部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
武器選びは大切
【本文】
「だから~!俺は刀作れっていってんの!誰が剣作れっていったんだよ!!」
「誰があんなもの作るか!ボケナス!!剣の方が扱いやすいじゃないか!!」
「それは、お前さんの意見じゃねぇか!!俺は刀の方がしっくりくるの!!」
「兄ちゃん、いい加減注文の品作ることができないって言おうよ………」
俺が今いるのは、この村で唯一の鍛冶屋。そこで、新たな刀を作って貰おうとしたんだけど、今この鍛冶屋を仕切っている人間が話をききやしねぇんだ。まぁ、俺も俺でやらかしちまったわけだが………。
時間を少し遡り3時間前。村長に、今のこの村の状況を詳しく聞いてから偵察がてら散歩しているところだった。
現在、この村には日の光が差し込むことはなく、さらに周りを謎の霧で覆われ村から出ることができなくなってしまったと。そして、原因を探しにいった男たちはいっこうに戻ってこないらしかった。
植物は育たず、食料も尽き始めもう終わりだというときに自分が空から降ってきたっぽかった。
よくはわからないが、村長いわく水竜様のおかげらしい。今の時代に全く詳しくない俺はなんのことだかさっぱりわからなかった。
そんなことを考えていると、村を一周してしまったのか、村長の家の前まで戻っていた。30分も一周するのにかかったので、もう村と言うよりは町に近い方だと思う。
家に入り、一時的に借りている部屋のベットに腰掛け、腰につけていた刀"風神"を外そうとした。
しかし、手はなにもつかむことなかった。
「あれ、風神どこやったっけ………ここか?それともここか?」
部屋の隅々を探してみた。テーブルの下、ベッドの下、……それでも、風神が出てくる事はなかった。
「あれ~……どこやったっけ………」
なくす機会なんてそうないはず。なんせずっと腰に……ずっと腰に……腰?
そういや、バグゲートで飛んできたとき手に持ってたような………。
「あああああああああああああ!!!!」
ってことは自分の考えが当たっていれば…………まじかよ。冗談だろ………。
「どうかなさいましたか!?」
自分の声を聞いて何事かと思ったのか、村長が急いで自分のいる部屋まで走ってきた。
「あ、いや………何でもないんです………何にも………」
「何でもないと言うわりには、とても落ち込んでいるように見えますが………」
「気にせんといてください………」
はぁ…………。武器もなしにここの護衛とかいったいどうすんだよ……。
それに早く皆とも合流しないといけないし……、問題ばかりだなぁー……。
「それで……どうでしたか?この村を周ってみて………」
村長が、この村をどう思うのか聞いてきた。確かにいい村だとは思う。
きっと、霧がなければもっと人もいたんだろう。
だけど今、この村にはそんなに人もおらず、ましてや男があまりにも少ない。
確かに男たちが問題解決するために、霧の中にいったとは聞いたが残っている人数が13人しかもそのうち男は3人………。
「少なすぎますね………特に男が」
「そうですか…やはり、そう思われますか………」
「残っている男で戦える人はいるんですか?」
「戦えはしませんが、武器を作ることくらいはできると思います」
戦闘には使えないのか………ん?あれ?武器が作れる?
「村長さん、その武器が作れるって話本当?」
「え?えぇ、そうですとも」
「じゃあ、俺をそこまで連れていってくれないか?」
それで、現在に至る。
武器を作っていたのは、自分と同い年位の少年。髪は茶色っぽくとてもバサバサしていて、衛生的にどうなのかと言ってやりたいくらい服が汚れていた。
「じゃあ、そこまで文句言うなら俺が作った剣の切れ味試してみろよ!!」
「ああ、いいぜ。やってやろうじゃないか」
相手が作った剣を握り、試し斬りができるところで剣をふるった。
確かに切れ味はいいようだ………だけど。
握っている剣を見る。一回斬っただけでもうヒビが入っていた。
「これでも、お前さんの剣を使いたいって言うと思うか?」
「ぐぬぬぬぬぬ………」
そうして、どんどん空気が悪くなっていく。最悪だ……心の中でそんなことを思っている最中だった。
村長が急いで店の中に入ってきた。とても息をあらげていて何かあったようだった。
「村長、どうかしましたか?」
「魔物が……魔物が攻めてきおった!!」
この武器のないタイミングでかよ………くっそ。
「おい!!クズ鍛冶屋!!この剣借りてくぞ!!」
「あ!!?テメー金払ってけやー!!!」とほざく鍛冶屋をおいて、モンスターが出たと言われる場所まで走った。
------------------------- 第10部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
絶対に逃げない
【本文】
村長に言われたまま外にでで、この村の入り口へと走り出した。
外は、人は少ないが皆混乱していてどうしたらいいのか頭が働かないようだった。
くっそ………。魔物だの言ってらんねぇぞ、この村。男が少ないから機転をきかせるやつもいない。
村長は村長で、避難を呼びかけるだけで、後はなんの指示も出してねぇ。
このままだと、簡単に争いとか起こるぞ、この村………。
そんなことを思っていると、昔自分の指示不足で失った命の数々を思い出した。
炎の中、家族が殺されたこと。力不足で、仲間を失ったこと。魔力が尽きて、真っ二つにおれた刀。
…………。俺がやらなきゃ誰がやるんだ。もう………あいつらのように誰も死なせないって決めただろ!!
自分の今動いている理由を何度も自分に言い聞かせる。そして、考える。
霧に囲まれていて、ここからは抜け出せない状態…。いや、まてよ?
何で魔物はその霧の中をぬけてこれたんだ?……もしかしたらなにか突破する方法が!!
「そこにおられましたか、洋一さん!!魔物がすぐそこまで迫っています。もし、あなた方強いとしても、あの数を相手にするのは無理です!!さぁ、我々と一緒に逃げましょう!!」
「…………逃げ場なんて、どこにあるんですか。」
「そ………それは…………」
「逃げてたって、何もはじまんねぇんだよ村長。逃げて残るのは、罪悪感。ただそれだけだ」
村長にそう言い残すと、洋一は魔物の方へと向かった。
村の玄関口と言えるようなところにつくと、魔物はもうすぐそこまで迫ってきていた。
うーん……四足歩行で、牙があって、猪みたいなやつ…………なんだあれ。2013年じゃ見ねぇぞ。あんな魔物。
そんな、物凄く今どうでもいいことを考えながら、魔物の数を数える。
ざっと見ただけでも、20以上いることは確か……か。さぁて、どうしたものか。
すると、何匹かのその魔物が自分の存在を認識したのか牙を前に突きだし凄い速さで接近してきた。
まずい!!村の物を壊したら、さっき言った台詞が!!口だけですかって言われる!!それだけは勘弁!!
急いで村から離れるべく真横に走り出す。それにあわせるように、魔物も後ろを追ってきた。
その魔物は思ったよりも速く、もう自分の後ろのすぐそこまできていた。
「速すぎなんだっよ!!!!」
そう言いつつ、持ってきた剣を鞘から抜き放ち、魔物に突き立てる。
プギャァ、と鳴くとその一匹の足のスピードが落ちた。
今だ!!そう思うと、その魔物に突きつけた剣を軸にして、柄を握ったまま宙へと飛ぶ。
そして、剣を刺したところから抜き、魔物の背後へと着地する。
「おりゃあああああぁぁ!!!」
剣を横にふりかざし、それを全ての魔物にヒットさせる。
体が真っ二つに切り裂かれ、魔物はそのまま地面に倒れこんだ。
「はぁはぁはぁはぁ…………それで……あと何匹だよ………」
後ろを見ると、涎をだらだらとたらしている魔物の姿がそこにはあった。
「クソが…………。こっちは色々と病み上がりなんだよ……体も心もなぁ!!」
そうして、自分から魔物の群れに突っ込んだ。
そして、近くにいた魔物に剣を突き立てる。
そうして、それが、倒れるはずだった。しかし魔物は倒れなかった。
剣を見る。真っ二つに折れていた。
「……………………今ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?!?折れるタイミング今ぁぁぁぁぁぁ!!!?このポンコツーーーーー!!少しはもてよ!!俺が死んじゃうだろうが!!!!」
そんな一人漫才をやっていると、魔物が何匹も突っ込んできた。
「くっそ、シールド!!」
魔方陣を展開して、青色の壁を形成する。水属性を持つ人間が出すシールドだ。これでもってくれればいいが………。
案の定、何匹も突進してきた衝撃には耐えきれなかったようで、直ぐにヒビがはいってしまった。
逃げるにも、逃げ場がなく、そのままシールドを壊された俺は、魔物に牙を突きつけられた。
その内の一本が体に接触し、腹を貫いた。
「が………………………」
痛い。痛い。痛い。血が物凄い速度で出ている。このままだと、回復魔法を使っても確実に死ぬ。
…………まだ……………まだ……………あいつらと再会するまでは………ルルとの約束を果たせないまま死ぬのは…………。
意識がどんどん遠くなっていく。もう、駄目だ。体に力が…………。
まぶたがゆっくりと力なく閉じたとき、
―ったく、めんどくさいな、この体の持ち主は―
最後に変な声を聞いたような気がした。




