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Wild Blend Sharp  作者: 雪海月
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 三番隊への引継ぎのために、イグニアスを訪ねる。

いつもならば笑顔で接するというのに、珍しく顔をしかめていた。

なぜ、そんな表情をされるか分からず、ジェイドは首を傾げる。

「イグニアスさん、どうかしましたか?」

「お前、すごくイカ臭い。それに玄人さんのにおいも体にしみついてる」

「分かるんですか!」

 純血は人間よりも嗅覚が鋭いといっても、本来の動物に比べたら誤差でしかない。

それにも関わらず、イグニアスは適格に匂いを言い当てた。

アンジャストの部屋に泊まったが服は着替えているうえに、イカを触った手は何度も石鹸で洗っている。

それを言い当てられて、驚きを隠せない。

何故、嗅覚がいいのか考えていると、イグニアスが青くなる。

「まさかお前、玄人さんとしたのか?」

「したって、何をですか?」

「アレだよ」

「アレって、何ですか」

 まったく意味がわからず、ジェイドは困惑するしかない。そんなジェイドの様子に想像は勘違いだと分かり、気まずそうに後頭部をかく。

「違うならいいんだ。ここには女性が少ないから、そっちの方へいく奴がいるんだ。禁止はしていないが、隊長として見逃すわけにもいかないんだよ」

「ち、違います! 確かに泊まりましたが、生のイカを捌いただけです!」

 アンジャストが女性にも劣らないスタイルと顔の良さを持っていても、そんな気は起らない。

気まずくなり、ジェイドは目をそらして黙り込む。

そんな沈黙を破るように、正装である軍服を着たアンジャストが現れた。二人の様子に、首を傾げる。

「どうかしたんか?」

「実は………」

 言われたことをアンジャストへ伝える。アンジャストは怒った様子はなく、声を出して笑う。

「ハハハ、それはしょうがないやろ。軍の中では、たまにあることは事実やし」

「そうですか……」

 アンジャストはイグニアスのほうへ体を向け、笑みを消した真面目な表情となる。

「では、クレイヴ隊長、ジェイドをお預かりします」

「よろしくお願いします」

 イグニアスと別れ、三番隊の研究所へ移動する。

三番隊の研究所は他の隊は違い、足音が響くほどに静まり返っていた。

皆、熱心に仕事をしていて、ジェイドたちを気にする様子は一切ない。

そんな人たちの中にラーヴァの姿を見つけ、邪魔しないよう静かに近づく。

ラーヴァは集中しているためか、二人にまったく気づいていない。

いつまでも待っているわけにはいかないため、声をかける。

「ラーヴァさん、こんにちは」

「あぁ、ジェイドか。悪いな、今は忙しいんだ。色々と聞きたいことがあったら、玄人に聞いてくれ」

「わかりました」

 ラーヴァの仕事の邪魔をするつもりはなく、アンジャストに連れられて資料室へ入る。

資料室は膨大なデータが保管されていて、所々にホコリが被っていた。アンジャストは、はたきを手に取る。

「ジェイド、今日はここを片づけよう。雑用とも言えるけど、ホコリがたまっていると虫がわいて、資料がダメになって困るんだ」

「はい。あの、なんでラーヴァさんがいたんですか? ラーヴァさんは、普段は部屋にこもって仕事をしているんですよね?」

「ウィズダム隊長だって、部下に指導したり指示したりするからね」

「そうですか………」

 何かが引っ掛かり、納得ができない。それでも、どのような言葉で質問していいか分からず、ジェイドは黙ることにした。

アンジャストの指示のもと、無造作に放置された資料を正しい位置へと戻しながら掃除する作業を始める。

機密情報にも関わらず、無造作に資料は置かれている。機密情報のために、スパイを懸念して片づけ要員を入れるわけにはいかない。

かといって三番隊に入れる実力の者を、掃除要員にするわけにもいかない。

そんな状態が続き、棚から出された機密情報は放置されている。

ジェイドは資料のタイトルを確認しながら片づける。そんな資料の中に、アンジャストの部屋にあったようなものを見つけた。

それは純血と人間が友好的な関係を築くために、純血の特徴をまとめられたものであった。

文章や添付された写真は、アンジャストが持っていたものと違い、一般人向けとなっている。

それを見ればイグニアスの種族が分かると思い、パラパラとページをめくった。

しかし、目的のページにたどり着く前に、アンジャストに本を取り上げられてしまう。

「ジェイド、見たいならさっさと片づける。片づけたら、見ていいから」

「いいじゃないですか、少しぐらい」

「ダメだよ。そういうのが片付かないんだから」

 怒られて、しぶしぶ片づけを再開する。結局、一日かけても半分も片付かなかった。

名残惜しく感じながら、資料室を後にする。

宿舎に戻るために歩いていて、辺りが静かすぎることに気づく。

普段であれば訓練しているはずなのに、誰もいない。

基本として、訓練に休みはない。あったとしても、長期休暇のみ。

不審に思い、ジェイドは首を傾げる。

「今日はどうして、誰もいないんですか?」

「女王の命令で、一般隊員がいないんだよ」

 五番隊から下の六番隊から十番隊までを、一般隊員としている。

五番隊から上は選ばれなければ入ることができず、その数は一般隊員の半数にも満たない。

実力があるとしても、ガデスを守るには心もとない人数。

「それ、大丈夫なんですか?」

「攻め込まれたら、大変なことになるね。でも、ジェイドは心配しなくていい。ジェイドはオレが守るから」

 跡継ぎであるため、守られることには慣れている。それでも、今は隊員であり、アンジャストの部下。

ただ守られるだけは、違和感を覚える。しかし、異論を唱えたところで、代替案はない。

ジェイドは口をつむぎ、宿舎へと向かった。

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