4.スキルと転生特典
最新話投稿です!!
最後まで読んで貰えると幸いです。
それでは、ごゆっくり〜
「胡散臭いとはなんですか!?」
シトレンは不満げに腰に手を当てて、その真っ白な頬を膨らませていた。
「いや、普通に胡散臭いだろ」
今回ばかりは俺に悪気はなく、ただ純粋にそう感じているのだ。
だってそうだろう。 いきなりよくわからないところに連れて来られて、よくわからんやつに異世界に転生しろなんて言われて、おまけに魔王を倒せ。
そして、スキルをくれるからって見てみれば、信憑性のかけらもない内容のスキルの数々。
もはや俺の頭は困惑という言葉で敷き詰められているほどなのに、こんな馬鹿げたスキルを目の前に、胡散臭いと思うのはごく自然なことだ。
しかし、そんな俺の気も知らないで、シトレンはスキルの信憑性を語り出す。
「スキルというのはとても神聖なものなんです。 人間に与えられるスキルというのは、実際は、私の力を分散させたものの一部なんです。 つまりスキルは私の分身、神の分身なんです!」
「でもさ、俺、一般人だったんだぞ? いきなり世界の理を統べるような力をやったー、なんて喜んで欲しがると思うか?」
シトレンは俺の素直な感想を聞くと、縮こまって、急に拗ねはじめた。
バツの悪そうに口を尖らせ、人差し指を互いに突きながら、しゃがみこむ。
「んー、それはそうなんですけどぉ。 確かに勝手ですよ、私。 ええ、わかってます。 でも、私にだって事情があるんですよ」
こいつまじで面倒くさいな。 俺はそんな光景を呆れたように見下ろしながら、溜息をついた。
「あー、もう分かったよ。 スキルもらって、魔王をたおせばいいんだろ? わかったから拗ねるなよ」
俺が頭を掻きむしりながら、諦めたようにそう言うと、シトレンはパァっと明るい表情になって、立ち上がった。
「ありがとうございますぅ!! お優しい方は大好きですよ。 というわけで、結局どのスキルにします?」
態度の移り変わりが激しい女神様だな。 そう内心で呟いてから、再び文字列を見渡した。
「やっぱこの『全知』ってのがいいのか?」
「まぁあくまで選択権はそちらにあるので、ただのおすすめっていうだけですが」
「なんだろうなぁ、なんかしっくりこないんだよなぁ」
俺は頭を悩ませながらそう呟いて、他にもスキルを色々と見て回る。
けれど、どれもこれもなんか違う気がする。
「もし、決めかねるのであれば、ランダムなんていう手もありますが」
俺がスキルをまじまじと物色している時、シトレンが不意にそんなことを提案してきた。
ランダムか、いいかも。
「それいいな。 よし、ランダムにする」
俺がそう即答すると、シトレンは心なしか残念そうに頷いた。
「まさか、本当にランダムでいいと言い出すとは、驚きですね。 まぁいいでしょう。 それではこのボタンを押してください」
そう言って、どこから取り出したのかわからない、不思議なボタンを俺の眼前に差し出した。
「さぁ、ポチッとしちゃってください」
この不思議なスイッチに少し抵抗を覚えるが、もうあの何百とあるスキル一覧の中から1つを選ぶのも疲れるので、決心してボタンに指をおいた。
「えーい、ままよ!」
そう呟いて、目を瞑りながら思いっきりスイッチを押す。
すると、宙に浮かんでいた文字列が不規則に点滅しだし、数秒後、あるスキルのところが強く光った。
その光ったスキル以外の文字列は全てが崩れ落ちるように消えていき、目の前にたったひとつが残った。
「おー、これは……」
シトレンはそのスキルを凝視して、吟味するように顎をさすっていた。
そして俺も続くように、そのスキルをじっくりと眺める。
『成長率向上:ステータスの伸び率補正』
「おお、かなり現実味があるぞ。 なぁ、これはあたりじゃないか?」
俺が陽気な声で呟きながら、シトレンの方を見やると、期待が外れたように、眉間を抑えて溜息をついていた。
「これは……外れですね」
「えぇ? これ外れなのかよ?」
俺は不安の色を織り交ぜた声音で訊くと、シトレンは首を縦に振る。
「確かに、このスキルは説明通り、ステータスの成長率を飛躍的にアップさせますが、かなりの時間と内容を要するんです。 いきなりどかんと強力なスキルというのが理想だったので、ちょっと微妙かなと」
「つまり、地道に努力すればそれだけ大きく成長するってことか?」
「まぁ、ざっくりいってしまえば、そうですね」
「それならいいじゃないか。 うん、これは当たりスキルだな。 頑張っただけ報われる。 なんて健全で現実的なスキルなんだ」
俺は残念そうにするシトレンを他所に自分の中では強い満足感を抱いていた。
努力は必ず実る、なんてよく言われるが、このスキルは実際に目に見えてわかる成長率を、上げてくれるという代物だ。
つまり、努力すればするほど、誰よりも大きな成長を実感できるというわけだ。
俺にとっては内心でガッツポーズするほど喜ばしいスキルだった。
それを呆れたように眺めながらシトレンはポツリと呟く。
「まぁ、あなたがそれでいいなら、いいんですけどね」
「ああ、これで決定だな」
「それじゃあ、承諾とみなして、付与を開始しますがよろしいですか?」
「やっちゃってくれ」
俺がシトレンの最終確認に承諾の合図を出すと、彼女は俺の胸のあたりに手をそっとあてる。
するとその部分が、柔らかな白い光に包まれて、それが次第に大きくなり、俺を包み込んだ。
しばらくすると、光が晴れたのだが、特に変化は見られない。
「はい、これで付与は完了しました」
シトレンは、おいていた手を離し、そう呟く。
しかし外見的な変化がなければ、内面的な変化も感じられず、不思議に思ってシトレンに訊ねる。
「これで、本当にスキルが付与されたのか? なんか、なんともないんだが」
「ええ、スキル付与は、滞りなく終わりました。 あっちにいってみればわかるでしょう」
んー、まだ色々と疑問に思うことはあるが、とりあえずシトレンが言う、あっちの世界とやらに行ってみれば色々とわかるのだろう。
不安も疑念も尽きないが、とにかく転生して、シトレンの提示する目的を達成するまでは、俺が返る方法はないみたいだしな。
そう考えて、俺はシトレンに最後の確認を取った。
「確認しておくぞ。 俺は今から異世界に転生して、魔王を倒す。 倒したら元の世界に返してもらえる。 これで合ってるよな?」
「はい、合ってます」
シトレンが頷くのを確認すると、俺はずっと気になっていたことについて問いただした。
「ところで、気になっていたんだが、あの2人はどうなった?」
そう、俺と美羽と一緒にいた、陽介と彩乃。 この2人は一体あの後どうなったのか、俺はどうしても知っておきたくてシトレンに訊いたのだが、彼女は「ああ」と何かを思い出したように拳を打ち付けた。
「そちらの2人でしたら、あなたと同じように勇者として転生してもらいます」
俺は一瞬気後れするが、すぐに状況を整理する。
「まじか。 てことはあいつらにも勇者の適性があったってことか?」
「そういうことになりますね」
「そっ、か……。 ならまたみんな一緒ってわけだ」
俺はなんとなく込み上げてきた安心感に、ほっと胸を撫で下ろした。
妹とさえ合流できればと考えていたが、やっぱりあの2人とも合流できるのは喜ばしいことだ。
それはさておき、とにかく今は妹に会うことが最優先事項だ。
「それじゃあ決まりだ。 さぁ、決断したんだから妹に会わせてくれ」
そうシトレンに急かすように言うと、彼女はニヤつきながらこちらを覗いて。
「やっぱりシスコンですねぇ。 いいでしょう、約束通り────」
そう言いかけた時、シトレンの顔から、一切の笑顔が消えた。
機械のようにガクガクと震えながら俯き、目を見開く。
まるで、驚くべき事実に気づいてしまったような面持ちだ。
俺はそれを不思議に思い、首を捻りる。
「どうしたんだ?」
そう訊くと、シトレンの真っ白な頬を一滴の汗が垂れ落ちた。
そして目を見張ったまま、ぎこちなくこちらに向き直る。
「ごめんなさい、状況が変わりました。 なので妹さんに会えるのはあっちに行ってからとなります。 どうか、ご了承ください」
焦ったような口調で言うシトレンに、俺は抗議するように叫んだ。
「なんだよそれ! 約束が違うだろ! 状況が変わったってなんだよ!」
「本当にごめんなさい。 申し訳ないですが事情は話せません……。 本当にごめんなさい!」
そんな俺に対して、シトレンは何度も何度も頭を下げる。
そんなに真摯に謝られたら、責めようにも、あんまり責め立てることができないじゃないか。
「とにかく、あっちに行けば、妹に会えるんだな」
「はい、それは確約します」
「わかった」
事情とやらが何なのか気になるところではあるが、とにかく今は合流が先だ。
ここで合流できなくなった以上は、あっちに行くしかないだろう。
「それで、どうやったら合流できる?」
「4人全員が同じ町で、同じ月に生まれることになります。 生まれるとすぐ神殿で個人情報を登録するので、そこで会うことができるでしょう」
「なるほどな。 でも……」
俺はそこで、悲しい事実に気づいた。
「美羽は、もう、俺の妹じゃなくなるのか……」
俺が悲しげに俯きながら呟くと、シトレンは「それなら」と言葉を紡いで。
「転生特典につき、転生者の望みを1つ叶えるこというものがありますので、妹として転生させることもできますよ?」
その言葉に俺は、電光石火のごとく、はっと顔をあげた。
「そんなことできるのか!?」
急に顔を近づけた俺に、シトレンは少し気後れするが「はい」と頷いた。
それを見て、俺は安堵の吐息を漏らしながらも、もっと早く言って欲しかったという思いが突然込み上げてきて、つい言葉が漏れ出た。
「それを先に言ってくれよ!」
「訊かれませんでしたので。 それより、願いはそれでよろしいのですか?」
「無論だ」
「了解しました。 それではこれで転生の手続きは終了したことになりますが、最終確認として言質をとります」
「わかったよ」
そして俺は大きく深呼吸をして、決意のこもった声音で言った。
「俺は、今から、女神シトレンの頼みに従って、異世界へ転生することを承諾する」
すると、シトレンは強張っていた顔からとても嬉しそうな表情に変貌して。
「はい! 承諾とりました。 30秒後、あなたは私の世界、ガリアスに勇者として転生します!」
シトレンがそう言うと、目の前にまるでゲームに出てくるようなカウントダウンの数字が浮き出た。
30、29、28────
その数が、刻刻と減っていき、俺は緊張と不安に背中を強ばらせる。
しかし、俺の脳裏に最後に浮かんだ疑問は、本当に些細なことだった。
「なぁ、なんで召喚じゃなくて、転生にしたんだ?」
今となってはもはやどうでもいい質問に、シトレンはこともなげに笑って答える。
「召喚の手続きってすごく面倒なんですよ。 転生だと、記憶のリセット作業を省くだけでいいので、簡単なんです」
10、9、8、7─────
俺はぽかんと、口を半開きにしながら、苦笑いして呟く。
「お前、それでも神様かよ……」
最後の疑問は、シトレンの怠惰という結論で幕を閉じた。
そしてみるみるうちに視界がぼやけて行く。
微睡みの中に沈んでいくような脱力感と浮遊感に襲われる中、シトレンが呟いた。
「それでは、お願いします」
それを耳にしたのを最後に、俺のプツリと意識は途絶えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「全員、行ったみたいですね……」
そう呟いた後、白の女神、シトレンは表情を一変させて振り向いた。
そしてそこに立っている黒い影を鬼の形相で睨みつける。
「嫌がらせのつもりですか」
すると、黒の神クルガレンは腹を抱えて嗤う。
「ははは、ただの余興だ。 それよりもあの人間は、どんな顔をするかね」
シトレンは、クルガレンのそんな態度に激昴し、歯を食いしばり、固く拳を握りしめた。
「この下郎が!」
「そんなに怒るなよ。 せっかくの美貌が台無しだぞ?」
「あなたのようなものに見せる美貌など、カビた雑巾で顔を拭いた後の美貌くらいで十分です!」
「おー、それは汚い」
侮辱するように嗤うクルガレンに、シトレンは負けじと啖呵を切った。
「彼は必ず、あなたの下衆な野望など芯から砕くでしょう」
「ほう、それは楽しみだ。 とくと見せてもらおうではないか」
こうして『大聖戦時代』はより苛烈さを増していくのである。
最後まで読んでくださり有難うございます。
ランキングにも載れましたので、毎日投稿か、2日に1回は更新したいと思っております。
クラス転生譚に引き続き、こちらも応援いただけると有難いです。
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