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3.決断





「あなたは勇者に選ばれました!!」



妙な声が唐突に聞こえて来た。



当然初めて聞く声なのだが、不思議とすんなり心の内に入ってくる。



そして声を意識した途端、目の前に純白の女性が現れた。



髪まで真っ白で、汚れ一つない純白のドレスを身にまとう。



神秘的なまでの美貌を持つ、この女性の第1印象は、聖女、だ。



あぁ、そうか。

俺は夢を見ているんだな。



夢ならば、どれほどばかげた状況に陥っても、なんとなく冷静でいられるわけだ。



俺は特に考えることも無く、聖女もどきに対して質問する。



「勇者に選ばれたってのは、どういうことだ?」



「あなたの魂が、ぴったり勇者の器にはまったので、ここへお呼びさせていただきました」



「勇者の器ってのはなんだ?」



「言葉通りの意味ですよ。 勇者となりうる素質のある魂を、あなたは持っているのです」



「ふーん、なるほど。 とりあえずわけが分からないことだけはわかった」



「え、今の説明で分からないんですか!?」



「いや、今の説明で分かれという方が頭おかしいだろ?」



「んー、そうですねぇ。 もっと簡単に説明しますと、あなた方のいう異世界に勇者として転生して欲しい、なんて言ったら分かりますか? 流石にわかるでしょ、わかりますよね!?」



「だー、鬱陶しい! この夢いつになったら覚めるんだよ!?」



「あなたが決断してくれれば覚めますよ? ただ決断しなければ覚めませんがね」



「は? 決断ってなんだよ!?」



「だから、勇者として転生して欲しいと先程から申しているのですが」



「それが意味わからんって言ってんだよ! さっさとこの夢終わらせろよ!」



「なぜそんなに夢から覚めたがるのです?」



なぜ夢から覚めたいか、そんなもの最初から決まっている。



「この後は、美羽の、妹の誕生会をするんだよ! だからさっさとあっちに返せ!」



俺が怒声を、奇妙な声に向けて放つと、何かに気づいたような含んだ笑みをこぼし、脅迫じみた口調で言ってきた。



「あー、妹さん。 そうですかぁ。 それじゃあ、その妹さんもこの夢の中にいる、と言ったらどうです? まぁ、というか勘違いを正すと、これは夢ではないんですけど」



わけが分からなかった。

美羽もこの夢の中にいる?


というかそもそもこれは夢じゃない?


彼女の姿など、どこにも見当たらないし、一緒にいたはずの陽介や彩乃も、どこにもいない。


全てが俺の理解の範疇を遥かに飛び越えている。



「お前、そろそろ本気でキレるぞ。 美羽はどこだ!」



「まあまあ、落ち着いてください。 あなたの決断次第では会わせることもできますよ」



「まさか、妹を人質にとる気か!?」



俺がそう叫んで、鋭く睨みつけると、こいつは驚いたことに、態度を一変させて頭を下げてきた。



「これも戦略なのです。 ご理解ください」



きっとこいつに何を言っても、戦略です、の一点張りなのだろう、と俺は諦めたように溜息をついた。



「とにかく、俺が決断すれば、妹に合わせてくれるんだろうな?」



そうだ。 初めから、俺が決断をすれば妹に会わせると言っておけば、これが夢であろうがなかろうが、こんな口論にもならずに済んだはずなのに、と内心愚痴りながらも、こいつの催促する決断とやらを待つ。



すると、彼女は先程まで大人しくなっていたのに、再びあの腹立たしい態度に戻った。



「妹さんのことになると、話が早いですね。 結構結構」



「だからさっさと言えよ」



「まぁまぁ、そんなに急かさなくても大丈夫ですよ。 それでは単刀直入にいいますよ」



俺は、どんな決断を迫られるのかと少々構えた。



そして、一拍間を開けると。



「勇者として異世界に転生して、魔王を打ち滅ぼしてください」



俺はそんな支離滅裂なお願いに固まってしまった。



長い長い沈黙がすぎて、ようやく聞き返した。



「………はい?」



間の抜けたような声でそう返してやると、お願いした本人は大きな溜息をつく。



「いや、そろそろ理解できてもいいはずなんですが。 もう一度言いましょうか?」



「いや、理解できているから余計に困っているんだが」



転生、つまりは生まれ変わるということ。

それも彼女曰く、勇者に生まれ変われとのことだ。

そしてあろう事か、魔王とかいう訳の分からない存在をいきなり滅ぼせと来たもんだ。


理解出来たところで、困惑するに決まっている。



しかし、こいつはどうやら相当早く話を進めたいようで、俺の困惑などお構い無しに続ける。



「おお、理解できているのなら問題ないですね。 それではイェスかノーか決断してください。 私の願いを聞くか否か。 さてあなたの決断は?」



「いやいや、その前にもう少し状況説明をしろよ」



「んもー、不断なお人ですねー。 それでは噛み砕いて説明しましょう」



それでも噛み砕いて説明しようとするこいつは一体どこまで怠惰なんだ、と思わずにはいられなかったが、彼女は1つ咳払いをすると。



「ここに神様が2人います。 仮に白と黒の神様としましょう。 白の神様は、人間を。 黒の神様は魔族を生み出しました。 ある時、黒の神様が世界に魔王という最強の存在を転生させ、人間族を滅ぼそうという計画を企てました。 それに気づいた白の神様は、対抗するためのある秘策を思いつきます。 それが勇者転生でした」



それを言い終えて、へへん、と自信ありげな吐息を漏らした。



そんな態度に苛立ちを覚えるが、めっちゃ理解しやすかったので責めることができない。



「くそ、意外と分かりやすい説明なのが悔しい」



「そうでしょう、そうでしょう。 私は神様ですからね。 こんなのお手の物ってわけですよ」



ここで俺は、ずっと引っかかっていたことについて言及した。



「その、神様ってのはなんだ? というか忘れていたが、お前は一体何者なんだ?」



この状況で、こいつの存在を問いただすことを忘れてるとか、バカだろ俺、と自分にツッコミを入れた。



そんな質問に「おっと、これは失礼しました」と呆けたように言うと、一息分おいて。



「私の名は、シトレン。 ガリアスという世界を創造した白の女神。 どうです、すごいでしょう?」



なおもしたり顔で言うこいつを見て、腹を立てながらも、俺は自分なりに整理した内容を短くまとめる。



「まぁ、とりあえずお前が神を自称してると仮定して話を進めるぞ」



俺がそう言ってやると、不満足そうに、ぷくっと頬を膨らませる。



「自称じゃなくて、本物なんですよ。 私が光の部分をつくり、黒の神が影の部分をつくる。 そうやって世界を構築した偉大なる────」



「わかったわかった。 お前は神様だ、すごい。 これでいいか?」



そろそろこいつの長い自慢話にも苦痛を覚えてきたので、途中で遮った。



しかし、彼女は俺の言葉に激しく納得したようで、強く頷いていた。



「分かってもらえて何よりです!」



「そんで、お前が白の女神ってことは、つまり、黒の神に対抗するために、俺を勇者として転生させたい、と?」



「その通りです!」



「とりあえず、魔王とやらを倒したら元の世界に返してくれるんだろうな?」



俺は1番重要なことを問いただす。

これを抜かしては、決断など到底出来るはずもない。



「はい、もちろんですとも。 そして、なんと、色々特典がついてくるんです」



「特典?」



「はい。 あちらで手に入れた力や、出会った人もひとつだけ持って帰ってくることが出来ます」



「へぇー。 でも、あんまり興味はないな」



すると、シトレンは肩をがくりと落とす。


多分、俺が驚いて、大喜びするようなことを期待していたんだろう。



「まぁ、特典とかはどうでもいいとして。 とりあえず美羽に会わせてくれよ」



「ど、どうでもいい、ですか……。いえ、まだイェスかノーか決めてませんので、会わせることは出来ません」



くそ、こいつしっかり覚えてやがった。

そう内心で愚痴って、ついつい表面上の態度にまでその感情が溢れてしまった。



「ちっ」



「あー、今舌打ちしたでしょ。 舌打ちしましたよね?」



「なんのことだ?」



面倒くさいので俺は、何事も無かったかのように、白を切って誤魔化す。



そんな態度に、シトレンは溜め息ついて、疲れたように頭を抑える。



「はぁ、分かりましたよ。 それで、イェスかノーかどっちなんです?」



いや、いきなり連れてこられて、疲れたのはこっちの方なんだが、とツッコミを入れたくもなったが、一刻も早く妹と合流するために、俺は決断した。



「どうせ、今更何を喚こうと、妹を返す気はないんだろ?」



最後に確認するつもりで、俺はシトレンの方を睨みつけるが、無言のままにこっと笑う。



なにも言わないが、俺の予想が正しいということだけは、シトレンの顔を見れば一目瞭然だった。



それに諦めるように溜息をつきながら、ついに俺は答えを出す。



「わかった、その話にのってやる。 当然丸腰というわけじゃないんだろ?」



「もちろんです。 それじゃないと勇者として転生する意味ゼロじゃないですか。 なので、色々とご用意させて頂いてます」



そう言って、女神は空中に不思議な文字列を並べ始めた。


なんで空中に、というのはこの際放っておくことにしよう。



「ここにあるのは、ありとあらゆるスキルです。 スキルとはガリアスでそのまま、ご自身の力となるもの、つまり強力なスキルを持っていけば、あなたはガリアスでは最強を誇ることも出来ます」



「へぇー、スキルか。 なんかゲームみたいだな」



そう呟きながら、俺はまじまじと空中に浮かんでいる文字列に目を通してみるが、一体、何が良くて、何が悪いのか検討もつかない。



「恐らく、黒の神も、魔王に強力な力を付与しているはずなので、こちらも強力なスキルを持っていくのが普通ですね」



「じゃあ、お前のおすすめのスキルを付与してくれよ。 俺にはさっぱりだ」



お手上げとばかりにそう言うと、シトレンは「そうですねぇ」と、並べたスキルを見て回った。



そして少し考えると、あるスキルのところに指をさして言う。



「このスキルなんてどうです? かなり強力だと思いますよ」



俺はシトレンが指さしたスキルの方に視線を持っていく。



『全知:世界の理を全て読み解くことが出来る力』



「うわ、胡散さ!」



俺はそのスキルの説明欄を見て、ついそんな声が漏れた。





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