クラウドが……
「マリア様のことはお任せください」
そう声が聞こえてきた。
いったいどこから?そう思ってあたりを見渡すと自分の影が動く。
「マスター遅くなりました。あなたのコボルト十勇士です」
影からあらわれたのはコボルトたちだった。
「マリア様は今助けにいきました」
「お前たちどうやって?」
「あのじじい……あっいや……リドルド王の父上から影渡りなど色々学ばせてもらいました。あまり時間がありませんでしたが、最低限の守りはできますのでここは私たちにお任せください」
そういうとコボルトはクナイのような武器をかまえ甲冑をきた男に向き合う。
「犬っころ1匹が調子にのってるんじゃねぇよ」
「は? 当たり前だ! 1匹でお前らになんか勝てるわけないだろ! こっちは最弱と呼ばれるコボルト様よ!いくぞお前ら」
俺の影から4匹のコボルトたちがでてくる。
残りの5匹はいつのまにかマリアのまわりで戦っている。
「犬っころが何匹でてきても一緒だよ!やっちまえ!」
コボルトたちは正面から戦うのではなく影に入り常に敵の死角から攻撃する。
「この! くそ! この犬畜生が!」
「弱い奴には弱いなりの戦い方があるんだよ」
甲冑を着た男たちの間を小さな身体ですり抜けながら戦っている。
あれはまるで異世界冒険譚にでてくる伝説の職業忍者のようだ。
「マスターここは俺たちが足止めしますので」
「よし任せた!」
まわりを見渡す。マリアはコボルトたちが守っている。
アスリアはキイロが守ってる。
大丈夫だ。あいつだけに集中すればいい。
まわりの景色が段々とスローモーションになっていく。
まずは仮面の男からどうにかしよう。
妖精の剣で切りかかる。
俺の剣は思いっきり空を切る。
「ふっどこを狙っている」
「お前の笛だよ」
「なっ」
空を切ったと思った剣先は笛を傷つけ真っ二つに割れ地面に『カラン』と落ちた。
次は一角タイガーの隷属の首輪を切り捨てる。
「お前、それを外したら誰も言うことを聞かなくなるぞ」
「大丈夫だよ。俺はテイマーだから。お前らとは違う」
一角タイガーの鼻先に手を置く。
「ごめんな。『睡眠魔法』」
大きな巨体が眠り横倒しに倒れ地響きが部屋中に響き渡る。
「嘘だ! そんな簡単に一角タイガーが眠るわけはない」
「普通ならな。ただお前はコイツのことを考えずに消耗させ過ぎた。これだけの魔物を召喚するなんてコイツには本来できる量じゃないんだよ。次はお前だ」
「お前ら! こいつをどうにかしろ!」
甲冑を着た男達に命令するも男達はコボルトたちに翻弄され、身動きができない。
「もう降参しろ。お前たちの目的は達成できない」
「俺がそう簡単に負けるわけにはいかないんだ。俺は優秀な悪魔の子孫! こんなところでつまずくわけにはいかないんだ! 俺は悪魔のエリートになるんだ!」
仮面の男の手から怪しい赤黒く光る魔法が貴族の男へと放たれる。
あんな光の魔法なんて見たことがない。
ただ、見ているだけで気分が悪くなる。
「お前たちがいけないんだ。俺の思い通りにならないから。こんなボンボンだって俺の役に立てて喜んでいるに決まっている。そうだ。俺が世界で一番の悪魔になるんだ」
「やめろ!」
仮面の男の赤黒い魔法が貴族の男を覆っていく。
「おいっ! これなんなんだよ! 俺をどうするつもりだ。俺はアスリアさえ手に入れば……」
目の焦点があわなくなり、身体が変形していく。
「そうだ。ここからが第2戦だ。楽しもうじゃないか。俺が今日この国を滅ぼしてやる。俺は世界一の悪魔になるんだ。」
先ほどまで貴族だった男はミノタウロスのような姿に変えられている。
身長は元の3倍になり皮膚は鋼のように黒く光っている。
『獄炎』
黒い炎がミノタウロスの手から放たれる。敵味方関係なく黒炎に飲まれていく。
このまま分散したままだと全員を守り切れない。
「コボルト全員を1カ所に集めろ」
「「「「「了解」」」」」
他の魔物たちは黒炎に巻き上げられ、あっという間に魔物の群れを焼き尽くされる。
ミノタウロスの意識が混濁しているのか、動くものを狙ってただ攻撃をしているだけだった。
一端全員を避難させミノタウロスから距離をとる。
「クラウドここでみんなを守ってくれ」
「ピギゥー」
クラウドは首を振り俺の肩にのってくる。
「わがままを言っている暇はない。頼むよ。クラウド」
それでも降りようとしないクラウドを無理矢理アスリアに預ける。
「アスリアさんクラウドをよろしくお願いします」
「ピギゥー!」
アスリアの腕の中で暴れるクラウド。
いつも言うことを聞いてくれるのに。
クラウドに後ろ髪引かれながらも戦闘に集中する。
大丈夫。さっきよりも落ちついてる。
落ち着けばこんな敵問題ない。
淡々とこなすだけ。
妖精の剣をしっかりと握り直しミノタウロス相手に切りかかる。
ミノタウロスは十字ブロックで防御する。
俺の剣は薄皮1枚切っただけで肉まで到達していない。
ミノタウロスはそのまま丸太のような腕で殴りつけてくる。
直撃はさけたが、風圧で吹き飛ばされる。
俺がいた場所は……直径1mにもなるクレーターになっていた。
逃げ遅れたらかなり危ない。
ただ、急激な進化にミノタウロスの身体が追い付いていない。
殴った手は潰れ、そこから出血している。
『……コロシテクレ』
ミノタウロスの目からは涙が流れている。
『コンナスガタ……アスリアに……キラワレル』
ミノタウロスの言葉とは裏腹にミノタウロスが動く。
その大きな巨体が突進してきた。
ダメだ手数をださなければ。
右手から炎の龍を放つ!
一瞬ミノタウロスがひるむが、ミノタウロスを止めるまでの威力はない。
大丈夫。それでもゆっくりと相手を見ながら攻撃をかいくぐる余裕がある。
俺はまだいける。
ミノタウロスが口から黒炎の塊を飛ばしてくる。
威力はありそうだが、攻撃が単調なため軌道を把握しながら回避する。
当たらなければ意味はない。
『コロセ……コンナスガタ……イヤダ』
ミノタウロスの後ろにまわり、首筋に剣を切りつける。
硬い皮膚に弾かれるがそれでも衝撃で少しふらついている。
遠巻きに炎の龍を放ち、接近しては首筋に剣を叩きこむ。
「何をしているんだ! そんな奴すぐに殺してしまえ」
そう叫んだのは仮面の男だった。
ミノタウロスは男の声に反応する。
1発では仕留められないと思ったのだろう。
ミノタウロスのまわりに赤黒い槍がいくつも浮かんでいく。
ただ、相当無理をしているのかミノタウロスの身体にもヒビが入っていく。
そろそろ決着の時だ。
自分自身に魔法障壁をはりタイミングを見ながら氷の龍を作る。
温められた鋼のような身体を急激に冷やすとどうなるか。
すでにヒビが入って来ている状態ならば確実にダメージを与えられる。
魔法障壁をはったままミノタウロスの放つ槍をギリギリでかわしながら進む。
そして最後の一発。
この軌道ならば魔法障壁に当たっているうちに避けて……
そう思った瞬間だった。
「マジックキャンセル」
仮面の男の声が部屋に響く。
やってしまった。頭の中では用務員のおじさんに言われた言葉が思い出される。
「魔法障壁はっていても破られるから常にそのことも頭にいれて行動しないとダメだよ」
ダメだ。この位置はよけきれない。
「ピギゥー」
その時クラウドが俺の身体に体当たりをしてくる。
なんでクラウドが!?
クラウドの身体をゆっくりと槍が貫通していく。
嘘だ。
右手の氷の龍をミノタウロスに放つ。
ミノタウロスは凍りながら少しずつ割れていきやがて動くのをやめた。
「クラウド―!」
ありったけの魔力で回復させようとするが、回復魔法がきかない。
嘘だ。大丈夫だよね。クラウドとは明日も一緒に掃除するんだから。
なぁクラウド目をあけてくれよ。
一緒に帰ろう。
また『ピギゥー』って鳴いてくれよ。
なぁクラウド頼むよ。
クラウドの身体から力が抜けて行く。
俺の目からは涙がとめどなく溢れ、クラウドの身体に涙がぽたぽたと滴り落ちる。
「クハハハ。ついにやってやった。お前もすぐに送ってやるから安心して死ね」
その時クラウドのつけていた宝石が赤く輝き出す。
『奇跡の指輪』。つけている本人が心の底から願った願いを叶えてくれる指輪。
クラウドの身体が金色の光に包まれ、そして巨大な龍の姿にかえる。
「おっお前は!?」
そこには金色に輝く翼竜の姿があった。




