ダンジョン探索
「えっ! キイロさんがアルスの結婚相手ってどういうこと!?」
マリアの声がダンジョン内に響き渡る。
俺たちは今ダンジョン1階をマッピングをしながら探索をしていた。
「いや、まだ決まったわけではないから」
「えっ私にあんな格好をさせて責任とってくれないんですね」
キイロは若干半泣きになっている。
「いや、そういうわけじゃないけど、今はまだ学生のうちはね」
「わかりました。別に私は側室でも問題ありませんので」
そういうとキイロは嬉しそうに小声で
「既成……事実を少しずつ……ゴニョゴニョ」
何か聞こえた気もするが今はそれどころじゃない。
俺たちはこのダンジョンを1番初めに探索することになった。
Sクラスの人間がいるグループから探索を始める権利があり、アスリアはクラスから最初に潜るように言われたそうだ。
Sクラスでダンジョンに入る順番をもめなかったのか聞いたら、アスリアのグループが始めに潜るのは決定事項であり、2番目以降を決めていたらしい。アスリアは
「私友達少ないんできっと気を使ってくれたんだと思います」
少し寂しそうに言っていた。
全学年がいっきにダンジョンに入ると混雑して観光名所のような渋滞にになってしまうため、時間を分け入る。危険なことはないので先生の引率などはないが、もしもの時は外部との連絡ができる魔法道具を持たされている。
今は学園ダンジョンの1階を探索中だ。
1階から10階までは購買で地図が売っているが、俺たちはあえて買わないことにした。
ほとんどの生徒は1階から10階まではろくに調べもせずに素通りしていく。
噂では1階から10階にはロクな宝がないとなっているが、実は浅い階にこのダンジョンのクリアを目指す上で必要な情報があるのではと俺は思っている。
実はこの学校の卒業時に50階最速到達5組と最下層まで到達組を表彰するというのがある。
ただ、不思議なことにこの最速到達と最下層到達までが必ずしも一致するわけではないのだ。
そしてもう一つ最下層到達者はEクラスの方が確率が多かった。
Eクラスは途中脱落組がいるのにもかかわらずだ。
Eクラス出身者はどの年代でもダンジョンの浅い階でレベル上げをする必要が多い。
その理由としては、従魔が弱いということもあるがテイマー自身も弱いのだ。
学力、魔力、実技、平均よりも下の人間が3年間努力をしたからといって最下層まで行けるレベルに到達できるのか?
普通に行ったらできるわけがない。
それが例えば1組くらいなら行く可能性もある。
でもそれが毎年数組はでているのだ。
つまり、何かこの浅い階層にこのダンジョン攻略のヒントがある。
そしてそのヒントは数が限られている。
まぁあくまでも可能性の話だが。
それにこの学校を作ったエルガドフ元学長が生徒を楽させて素通りさせるようなダンジョンにするわけがなかった。
ここのダンジョンは別名恋愛修羅場ダンジョンだ。
元学長が本当に言っていたかどうかわからないが、しっかりと異性とのコミュニケーションをとれって言っている人間ならばきっと思わぬところにいろいろなトラップや仕掛けをほどこしているに違いない。
従魔の訓練とともに、卒業生の話でこのダンジョンをアトラクションだと言っていた先輩もいた。
存分にこのアトラクションを楽しもうじゃないか。
俺たちは1階ダンジョンをくまなく歩きまわる。
1階の魔物はビックアントという巨大な蟻1種類だ。
この蟻は噛む力がものすごく強く、噛まれると指がちぎれる。
蟻の身体は鉄の剣では切れず、防具としての需要もあり持ち帰れば素材として買い取ってもらえる。
ただダンジョン1階の魔物なだけはあり弱点もある。
身体の関節と魔法での攻撃にはめっぽう弱いのだ。
関節に剣をあてると簡単に倒せる。
従魔のレベル上げも兼ねているので今回は主にマリアとアスリアの従魔が狩りを担当している。
頭とお尻の部分は売れるため倒したビックアントは王からもらったマジックボックスにどんどん収納していく。
後で素材として学園に引きとってもらうだけで学費の足しになる。
そんな感じでダンジョン内を散策していくと大きな広間にでた。
これが世間でいうボス部屋というやつなのだろうか。
1階からボス部屋があるなんて珍しいと思っていたところ、そこにいきなり魔法陣があらわれ一本の角の生えた虎があらわれた。
「GURUUUU」
その虎の身体は幌馬車のように大きく、牙は見るからに鋭い。
こちらを見て激しく威嚇している。
「嘘でしょ?一角タイガー!?」
一角タイガーは1匹でも街を滅ぼすだけの力があるとされる魔物だ。
こいつの怖いところは特有のスキルに仲間を呼ぶというのがある。
その仲間はこいつの魔力がつきるまで呼ばれ、人を弱らせてから狩る。
一角タイガーが唸ると同時に魔法陣があらわれ他の魔物たちが姿をあらわす。
その数は……どんどん増えていく。
なんだこの数は、こんなのに俺たちだけで手に負える数じゃない。
俺たちだけではなく、下手をすればこの学校、この街を滅ぼせる勢いだ。
俺だけでは全員は守り切れない。
あたりを確認する。
幸いにも入り口は一つだ。
通路に誘い込めば挟まれることはない。
少しでも時間を稼いで……
「一度撤退しよう。俺がここで引きつける。キイロ!アスリアとマリアを連れて逃げろ」
そこにさらに追い打ちをかけるように不気味な兎の仮面をした男があらわれた。
「ククク、逃げるなんて許しませんよ。お楽しみはこれからです」
男の手には魔物を操る笛が握られていた。




