パートナーの卵選び
その昔、この世界が剣と魔法の世界だと言われていた時代。
魔王は世界を征服するために魔物を支配下に置き、世界を滅亡させようとしていた時代があった。
世界中の人々は魔王に恐怖し、眠れぬ日々を過ごした。
そんなある日、異世界から来たと言う勇者があらわれた。
勇者はこの世界に異世界の知識を持ち込み、チートと呼ばれる能力によって世界に変革をおこした。
そして強い仲間たちと共に魔王を討伐し世界に平和が訪れた。
魔王は、
「必ず、復活しお前の子孫を根絶やしにしてくれる」
という不吉な予言を残し亡くなったといわれる。
その魔王が倒されてからおよそ500年。
世界は勇者が残した異世界の産物で大きく変わっていた。
人型の魔物だったゴブリンやオークなどに教育をした結果、有能な新しい亜人として認められ、街中でも住むようになり、かつて敵対していた種族も一部を除き交流が盛んに行われるようになった。
いまだに言葉の通じない魔物などの被害などはあるが、魔王がいたときに比べれば格段に減少していた。
ただ、魔王の脅威がなくなり、街同士の交流が盛んに行われるようになった結果、今までのように町中が知り合いという感じではなくなり個人間での交流がなく孤独に悩まされる人が多くなった。
そんな時、人気になったのが魔物のペット化だった。
魔物は多種多様なものがおり、クモの魔物の糸は織物で使われ、犬型の魔物は番犬やパートナー、馬型の魔物は荷物運び、鳥型の魔物は高速郵便など、多方面で優秀な力を発揮した。
これはそんな平和な異世界でテイマーを目指す平凡な男の物語。
★★★★★★★★
その日は朝からついていなかった。
朝いつも同じ時間にけたたましい声で鳴くため、目覚ましがわりに使っていた鶏獣がその日に限り鳴かず。
急いで学校へむかう途中で、おばあさんが転んでいたので助けると実は呼吸困難に陥っていたため病院へ連れていき。
やっと学校へ行けると思ったら今度は目の前で落とし物をしたお姉さんがいたので届けようとしたらストーカーと間違われ兵士のお世話になり(誤解はとくことができた。)急いで向かうと街中の開発工事のためかなりの遠回りをさせられることになった。
その日俺達テイマー見習いにとってはある意味運命の日だった。
テイマー養成高校であるアルフグレイド学校は3年制の学校で、卒業と同時に王様に仕えるテイマーになったり、軍隊でのテイマー養成所の職員になったりと名門と呼ばれる学校だった。
ただ、その中で一番大切なのが3年間のパートナー選びだった。
パートナーは先生たちが準備した魔物の卵を魔力で孵化させるところからはじまる。
これには、貴族や王族などもまったく関係ない。
昔貴族の長男が最弱の代名詞のスライムの卵をひいてしまい、親が権力でなんとかしようとしたものの結局くつがえることはなく、その貴族は陰でスライム貴族と呼ばれ恥をかいて終わったという話が残っている。
テイマー次第ではスライムも最強種になることがあると言われているが、基本的にスライムはスライムだ。
そして、その日はそんなパートナーを選ぶ大事な日だった。
俺は前日から気合をいれて睡眠をよくとり、寝坊しないように気をつけていた。
それなのに結果は散々だった。
基本的に卵は成績優秀な人間から選んでいく。
もちろん、この卵の選び方にもコツがあった。
まず、大切なのが卵の色だ。弱い魔物から白、青、黄色、緑、赤、虹色の順番で強さが変わる。虹色の卵などはさすがに学生に渡されることはないが、基本的に赤か緑を選べればそれだけで成績優秀者の中に入れる。
これはもって生まれた種族の優劣の問題だ。
例えばいくらテイマーとして優秀ならスライムでも強くなると言われても、ドラゴンを育てた方が楽ができるのは間違いない。
ごくまれに白でも虹色と同じくらいすごい魔物がいたりするが、人生を10回やりなおして出会えるかどうかというかなりのレアなパターンだ。
その卵の選び方は完全に受験時の成績順だった。
成績優秀な人間はスタート時から優秀な卵を得ることができ、それがほぼそのまま卒業の時の成績になる。
俺も遅刻さえしなければ黄色から緑くらいの卵を選べる位置にはいたはずだった。
でも、俺が遅れて学校に到着すると残されていたのは白い卵のみだった。
もちろん言い訳も弁明の機会も与えられることはなかった。
この学校ではいかなる理由があっても卵の交換は許されない。
それは魔物との出会いは運命であり、外見に騙されるなという創始者の学長の教えだった。
「遅かったですね。アルスくん。あなたが最後ですよ。あなたのフィーリングに合う卵を選んでください」
そう俺にうながしたのは担任のエルシア先生だった。
エルシア先生はエルフで、もとこの学校の卒業生でもある。
首席卒業で就職先は選び放題だったのにも関わらず、
「私はテイマーを育てることが一番楽しい」
と言って学園に残った変わり者だった。
ちなみに先生の育てたのはドラゴンの亜種で未だに先生の残した記録は誰にも破られていない。
俺は白い卵を見比べる。
その中で一つだけなぜか色が少し変わって見える卵があった。
「これは……」
そう思って触ると、
「ドクン」
何か脈打つ感触がする。
念のため他の卵も触ってみる。
他の卵では全然何も感じないがこの卵だけなにか自己主張などをしている感じがした。
「先生ここにある卵って全部同じ卵ですか?」
「ごめんね、それは私にもわからないの。ただ卵との出会いは運命だからなにか直感で感じるものを選ぶといいわよ」
そう言われたが、先生の時とは選べる卵の数が違う。
それでも、少しでも元気な卵の方がいい。
俺はその脈うった白い卵を相棒にすることにする。
もうどのみち、どんな魔物でも一緒にやっていくしかないのだ。