6話
「おい、それよりな、もうあまり話しかけるんじゃあないぜ。夜のおおかみは怖いんだ、俺の『気分』がかわったら、お前を食っちまうぞ」
「おなかが一杯のくせに、何を言って……」
赤ずきんちゃんは、途中で言葉を止め、はっとしました。
夜のおおかみ?食っちまう?
え、うそ、やだ、そういういみだった?
赤ずきんちゃんは、きゅうにてんぱってしまい、どきどきがとまりませんでした。
「ね、ねえ、お、おおかみさんは、どういうときに、そういう『気分』になるの?」
赤ずきんちゃんは、思い切ってしつもんをしました。
「食いたいと思ったら食う。自分の気持ちにしたがうのが、俺の生き方だからな。それはつらぬくつもりだぜ」
「今は『気分』じゃないだけだ、じゃあな」
そう言って、おおかみさんは、去っていきました。
おおかみさんが、そういう『気分』になったら、私はおおかみさんにおそわれてしまうのかしら。
赤ずきんちゃんは、そんなことを考えながら自宅へかえりました。
――
数日後。
赤ずきんちゃんの待ちに待った、しょにんきゅうの日がやってきました。前金で少しへっていましたが、それでも十分すぎる額です。
赤ずきんちゃんは、いそいで帰って、おばあさんにそれをみせて、よろこばせました。
赤ずきんちゃんは、そのしょにんきゅうから、ひっそりと、こうすいを買っていました。自分のみりょくが上がれば、おおかみさんが来てくれるかもしれない。そんな想いを心にひめていました。
「ねえ、赤ずきんちゃん、さいきんやけにおしゃれになったねえ」
しょくばで、女性に声をかけられました。
「ほら、かみがただってかわっているし、ふくも前とはちがうじゃない」
「そ、そうかしら、そんなにたいしたことじゃ……」
「にあってて、可愛いわよ」
「う、うん……ありがとう」
赤ずきんちゃんは、はにかみながら、笑顔を見せました。
「そう、それ、いいわね、その笑顔。ねえ、赤ずきんちゃん、覚えてなさい。女のいちばんの化粧は笑顔なのよ。あなたの笑顔なら、どんな男でもいちころよ」
「お、男? いや、そんなんじゃな……」
赤ずきんちゃんは、あわてて否定をしようとしましたが、その時、ふと今の自分を振り返ってみました。
今の自分、ちょっとまえからしたら、考えられない。
いえの手伝いをして。おしごとが楽しくて。ちょっと、おしゃれなんかしちゃったりして。まいにちが、じゅうじつしていて。
そして、ようやく、ちょっとずつだけど、自分が好きになれてきていて。
「え、えへへ、へへ」
赤ずきんちゃんは、そんなことを思うと笑顔が、あふれ出てきて、止まりませんでした。
――ねえ、おおかみさん。
私、今生きてる、生きてるよ。
その日のかえりみち、自宅の近くで再びおおかみさんとそうぐうしました。
「はっ、今日はおまえを食いに来たぜ」
お、おおかみさんが、来てくれた。しかも、食う、とか言っている。
赤ずきんちゃんは、心の中でおおはしゃぎしました
「しかし、ぶようじんだったな、いぜん見つかった道を、おなじ時間にそうなんども通るもんじゃないぜ」
ちがうのよ、待っていたの。あなたに見つかるように。
しかも、なんて幸運なんでしょう。
「今日は、家にだれもいないの、よかったらこない?」
赤ずきんちゃんは、顔をまっかにしながら、おおかみさんをさそいました。
「おい、何を言っているんだ、お前は。俺はお前を食いにきたんだ。友達じゃあないんだぜ」
「うん、だから……外じゃあ、いやなの」
赤ずきんちゃんは、まだ顔がまっかです
友達じゃない。そんな言葉にむねがときめきました。
次話すぐに投稿します