5話
――
次の日。
「ちょっと、お姉ちゃん、注文まだかー」
「さっきたのんだのと、ちがうものがきてるぞー」
赤ずきんちゃんは、軽いパニックじょうたいにおちいってました。
「えっと、えと、次はどうしたら……」
「おい姉ちゃん、はやくー」
「ひ、は、はい」
赤ずきんちゃんは、てんやわんやのお店にたいおうできず、てんぱってしまっていました。
「はいよー、ちょっとまってね、お客さん」
すかさず、昨日の女性がフォローに入ってくれます。赤ずきんちゃんは、くやしくてしかたがありませんでした。
このお店の、女性の、恩にむくいたい。
そんな気持ちでがんばろうと思っていましたが、自分の力のなさに、あこがれの女性との力の差ときょりの遠さに、なさけなくなってしまいました。
「え、えっと、次はどうしよう……」
その日の終わり。
とっても長い一日のしごとをおえた、赤ずきんちゃんは、ひそうかんでいっぱいでした。
私って本当に何も出来ないのね。
赤ずきんちゃんのあたまの中はそんな考えで一杯でした
「や、お疲れさん、赤ずきんちゃん」
あの女性が、声をかけてくれましたが、赤ずきんちゃんは、恥ずかしくて目を合わせることができませんでした。
「ごめんなさい、私、せっかく雇ってくれたのに……ぜんぜんだめで……」
そんなことを言う赤ずきんちゃんを見て、女性は笑い出しました。
「はっは、何言ってんだい、さいしょからいきなり出来る訳がないだろう。いきなり出来たら、なんねんもやっている、私の立場はどうなるんだい」
女性のとびっきりの笑顔を見て、赤ずきんちゃんは、いっきに心がかるくなりました。
「そうだね、しいて注意するとすれば、あんたは笑顔が足りないね」
「え、笑顔?」
「そう、笑顔は女のさいだいのぶきなのよ。ミスなんて、どうでもいいから明日は笑顔ではたらいてみなさいよ」
女性はそういって、また思いっきり笑ってみせました
なんだろう、あの笑顔を見ると、なんだって平気な気になるわ。
私にも、できるだろうか。
私も、あんなふうになれるだろうか。
――
次の日。
「い、いらっしゃいませー」
赤ずきんちゃんは、笑顔で、お客さんにあいさつをしました。
すると、おきゃくさんも、笑顔でえしゃくをしてくれました。
「お、いい笑顔じゃないか」
お店の女性が赤ずきんちゃんに声をかけてくれました。
たったそれだけのことなのに、赤ずきんちゃんは、急にはたらくことが、たのしくなってきました。
わ、ほめられた、どうしよう。ちゃんと笑えていたのかな、私。
「おーい、こっち注文たのむー」
「は、はーい、おまち下さい」
赤ずきんちゃんは、とびっきりの笑顔でお客さんの所へ向かいました。
――
数十日後。
「おつかれさまでしたー」
一日のしごとをおえた赤ずきんちゃんは、笑顔でしょくばをあとにしました。
赤ずきんちゃんは、はなうたをうたいながら、かえりみちを歩いていきます。さいきん、しごとがたのしくて仕方がないのです。
まだまだミスをするし、お客さんからどなられることだってあるし、たいへんだけども、なんだかじゅうじつしているのです。
しょくばにあこがれの人がいることや、お客さんからひそかに人気がでてきたことも、げんいんでしたが、なによりも、『自分が何かの役に立っているかんかく』がうれしくって仕方がないのです。
その日、家へと帰るとちゅう、なんと、再びおおかみさんとそうぐうしてしまいました。
「あ、おおかみさん、こんばんは」
赤ずきんちゃんは、よゆうであいさつをしました。
「え? ……あ、おう」
赤ずきんちゃんのあまりのへいぜんとしたたいどに、おおかみさんはとまどった様子でした。
「……お前、どうして俺をこわがらないんだ?」
「だって、そんなにお腹がふくれているんだもの。今はおなかがすいていないんでしょう」
「う……」
おおかみさんは、自分のお腹に手をあてました。
「『にくしょくどうぶつのほこり』があるものね、ふふふ」
赤ずきんちゃんは、たのしそうに笑いました。
「あー、お前、前ここで会った赤ずきんの娘か」
「そうよ、赤ずきんちゃんて呼ばれているの。久しぶりね、元気だった?」
赤ずきんちゃんは、おおかみさんにとびっきりの笑顔を向けました。
明るく笑いかける赤ずきんちゃんを、おおかみさんはふしぎそうな顔で見つめています。
「なあに、顔になにかついている?」
「いや、なんか前といんしょうがちがうかな……と」
いんしょうが変わった、と聞いて、赤ずきんちゃんは少しうれしくなりました
「ねえ、それよりきいて。私もね、『自分の生き方』について考えてみることにしたの。おおかみさんに言われてから、いろいろ考えたのよ」
「う、うるせえ。なれなれしいんだよ、お前!」
プライドが許さなかったのでしょうか。おおかみさんは本当におこったようなひょうじょうを見せました。
「大体な、自分の生き方なんて、自分で決めるもんだ。いちいちだれかのしょうだくを得ようとするんじゃねえ」
その言葉で、赤ずきんちゃんは、自分の心がみすかされた気になって、急にはずかしくなりました。
「自分が本当に良いと思った生き方なら、だれに何を言われようが、つらぬけばいいだろう」
「お、おおかみさんは、出来ているの?」
「俺は、それが出来るつよさを、ゆうきだと思っている。自分ではできていると思いたいな」
赤ずきんちゃんは、思いました。
このおおかみさんは、自分がなやんでいるもんだいなんて、ずっと前に通りこして、今はもっと先のところにいるんじゃないだろうか。
何このおおかみ、かっこいい。
赤ずきんちゃんは、そのことで頭が一杯になりました。
次話すぐに投稿します