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3/7

3話

――

 数日後。

「おいばばあ、ふざけんな!」

 家には、いつものように赤ずきんちゃんのどなり声が、ひびきわたります。

「水くみは、私がやるって言ったでしょ。かってにやらないでよ」

「ごめんね、ごめんね」

 くそっ、あいかわらず、むかつくばばぁだ。すぐにあやまりやがって。

 だいたい、足をいためているんじゃあないのかよ。わたしがやるっていったら、やるんだから、やらせなさいよ。

 赤ずきんちゃんは、その日、ばんご飯のじゅんびも手伝いました。ほうちょうを使ったり、火をたいたり、赤ずきんちゃんは、ほとんどやったことがありませんでしたので、おばあさんが一人でやるよりも、ずっと時間がかかってしまいました。

「さあ、いただこうかねえ」

 けっきょく、ごはんを食べはじめるのが、いつもより、ずうっとおそくなってしまいました。

 赤ずきんちゃんは、自分が足手まといだったことを自覚していましたので、むすっとしていました。

 なによこれ。ごはんを作るのって、こんなにたいへんだったの?

「今日は、手伝ってくれて、ありがとうねえ」

 おばあさんは、にこにこしながら、言いました。

「おかげで、とっても助かっちゃった」

 何言ってるのよ、このばばあ。そんなわけないじゃない。私が手伝ったせいで、ばんご飯がこんなにおくれてしまったのよ。

 赤ずきんちゃんに、おばあさんのやさしさが、しみわたります。

 赤ずきんちゃんは、ご飯がおくれたせいで、おばあさんにどなりつけた過去を、思い出して、むねがいっぱいになりました。

「今日はもう、ねる」

 赤ずきんちゃんは、いそいでご飯をたいらげると、そういって、じぶんの布団にもぐりこみました。

 赤ずきんちゃんは、おばあさんのかおが見れませんでした。

 赤ずきんちゃんは、頭まで、すっぽりと布団をかぶりました。そして、ひとばんじゅう、つぶやきました。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 今まで自分がどんなことをしていたか。おばあさんが、どんなにやさしかったか。

 それに、しょうめんから向き合っていました。

 外からは見えませんが、赤ずきんちゃんのかおは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃでした。


 次の日、赤ずきんちゃんが目を覚ますと、いえにおばあさんはいませんでした。

 しかし、いつもどおり、赤ずきんちゃんの分の朝食が、いつものばしょにおかれていました。

「あのばばあ、いったい、何時に起きているんだ」

 赤ずきんちゃんは、小さな声で、つぶやきました。そのことに気が付いたのも、初めてです。

 赤ずきんちゃんは、この時間おばあさんは、近くへ野草をつみに行っていることが分かっていたので、帰って来るまでに、自分のしょっきをあらっておくことにしました。

 当たり前のことのようですが、赤ずきんちゃんにとっては、そうではありませんでした。洗いおわると、赤ずきんちゃんは、そわそわしながら、おばあさんが帰ってくるのをまちました。

 しかし、いつまでまっても、おばあさんは、帰ってきません。赤ずきんちゃんは、ようすを見におばあさんの居そうな所へ行ってみることにしました。



――

 おばあさんは、しゃがみながら、せっせと野草取りにむちゅうになっていました。

 「おや?」

 おばあさんは、近づいてくる赤ずきんちゃんに先に気が付きました。立ち上がって、赤ずきんちゃんの元へ歩いて行こうとしたところ、つまずいてころんでしまいました。

「あいたた……」

 おばあさんは、ずっとしゃがんでいたので、足がつかれてしまっていたのです。

「おい、ばばあ、おい!」

 そのタイミングで、赤ずきんちゃんが大声をだして、かけよってきました。

「くそ、こんなところでたおれてやがって。立てるか、おい」

 赤ずきんちゃんが、あわてたようすでおばあさんに声をかけます。

「ああ、ごめんねえ」

 おばあさんは、うっかりつまずいただけでしたので、すぐに立とうとしましたが、それより前に、赤ずきんちゃんが、おばあさんに向けてうしろむきにしゃがみました。

「ほら、はやくのっかりなさいよ」

 赤ずきんちゃんは、おばあさんが、説明する間もなくごういんにおぶっていきました。

 おばあさんはびっくりしました。まさか、この子に、おぶわれる日が来るなんて。いつの間に、こんなに大きくなって。

 おばあさんは、赤ずきんちゃんのせなかのぬくもりの心地よさを、かんじ、ただつまずいただけ、ということはだまっていることにしました。

 ごめんね、家まで、このままでいさせて。

 おばあさんは、心の中で、もう一言、あやまりました。

 あなたは、本当はやさしい子。おばあちゃんは、ずっと分かっていたんだからね。

おばあさんは、赤ずきんちゃんのせなかで、涙をながしていました。


 家につくと、赤ずきんちゃんは、おばあさんを布団にねかせました。

「あ、あのね、実は……」

「うるさい、だまれ、ばばあ」

 おばあさんが、ほんとうのことを話そうとすると、赤ずきんちゃんに一喝されてしまいました。

「いいから、今日はもうだまってねてなさい。いえのことは、ぜんぶ私がやるから、指示だけだしてくれればいいの」

 赤ずきんちゃんのあまりのたのもしさに、おばあさんはふたたび、涙をながしてしまいました。それをかくすように、頭まで、すっぽりとふとんをかぶったせいで、打ち明けるきっかけをうしなってしまいました。

「とりあえず、おきっぱなしにした野草を取ってくるから、もどってきたら、やることをおしえなさいよ」

 おばあさんは、思い切って今日は赤ずきんちゃんに頼ってみようかと思いました。

 とりあえず、赤ずきんちゃんが戻ってくるまでに、おばあさんは涙でぐしゃぐしゃになったかおを、どうにかしなければなりませんでしたので、おおいそがしです。


――


 赤ずきんちゃんが、いきを切らせていえにかえってきました。

「はい、野草もってきたわよ、あと今日は何をすればいいのかしら」

「ごめんね、今日は、これを村に売りに行こうとおもっていたの。おねがい出来るかい」

「はあ? 何これ、だいじにしていた時計じゃない。何でこれを売るのよ」

「これを売らないと、しょくりょうが買えないんだよ、ごめんね」

 赤ずきんちゃんは、この時はじめて自分のいえの、けいざいじょうたいに気が付きました。


 赤ずきんちゃんは、考えごとをしながら、村へと向かいました

 はあ? しょくりょうが買えないって、何よそれ。いみわかんない。

 だから、あんなにがんばって、野草をあつめていたの?

 だから、あんなにやせてしまったの?

 だから、今日たおれて……。

 赤ずきんちゃんは、あるきながら、涙をながしていました。今日は、おばあさんが過労でたおれたものだとかんちがいしたままでしたから、ざいあくかんでいっぱいになりました。


次話またすぐに投稿します

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