1話
※推敲前のこの作品を2chに投稿したことがあり、その作品がいくつかの2chまとめサイトに載っているようです
「さぁ、どうぞ召しあがれ」
赤ずきんちゃんはそう言うと、するするとふくをぬいでいきました。
「ちょ、ちょっとまって」
おおかみさんは、あわてた様子でした。
「お、おい、『食べちまうぞ』って、そういういみじゃあ……」
おおかみさんの、べんかいをよそに、赤ずきんちゃんは自分のぬいだふくを一枚ずつだんろにくべていきました。
「お、おい……え?」
服がもえていくようすを見て、おおかみさんはあぜんとしてしまったようでした。火にあてられたからではなく、赤ずきんちゃんの、ほおが赤くなっていきます。
赤ずきんちゃんは、おとなしそうに見えて、とんでもないだいたんさを、かねそなえていました。
赤ずきんちゃんは、トレードマークの赤ずきんも外してしまっていました。
今日は、私を『赤ずきんちゃん』とよばないでほしい。私はわたし。
赤ずきんちゃんは、おおかみさんにはありのままの自分を見てほしかったのです。
少し前の赤ずきんちゃんなら、こんなことをするなんて考えられませんでした。
そもそも『赤ずきんちゃん』とは、ニックネームであり、本名ではありません。なぜ、そう呼ばれるようになったのか。
赤ずきんちゃんは、その理由とともにかつての自分のすがたを思いかえしてみました
――
「おいばばあ、めし!」
赤ずきんちゃんは、おばあさんにいつもの様にどなりつけました。
「ごめんね、ごめんね」
おばあさんは、あやまるひつようもないのに、あやまってしまいます。そんなようすが、赤ずきんちゃんをどんどん調子づかせます。
赤ずきんちゃんは、いらいらしていました。毎日ごはんがでてくるのが、あたりまえだと思っているのです。
「おい、ばばぁ、はやくしろ」
そもそも何で、自分が言う前にごはんが出てこないのか。赤ずきんちゃんは、それすらはらだたしかったのです。
「ちょっと何よ、今日はこれだけ?」
「ごめんね、うちもきびしいのよ、ごめんね」
赤ずきんちゃんは、したうちをすると、しぶしぶ食べはじめました。
ごはんをよういしてくれた、おばあさんよりも先に。
「かけいがきびしいなら、はたらけよ、ばばあ!」
赤ずきんちゃんはごはんを食べながら、日に日にやつれていくおばあさんに向かって、どなりました。
「ごめんね、ごめんね」
おばあさんは、またあやまってしまいます。
そういう赤ずきんちゃんは、いわゆる、『何もしてない娘』でした。おばあさんを、どなりつけるだけの毎日です。
家には、おばあさんと赤ずきんちゃんの二人だけです。ざいげんがありません。どうやってせいけいを立てているのか、赤ずきんちゃんはあまり気にしたことがありません。
赤ずきんちゃんに対して、おばあさんはいつもやさしくたいおうしていました。きびしく叱ったことなど、ほとんどありません。こんな赤ずきんちゃんでも、おばあさんは宝物のように思っているようでした。
「ごめんね、ちょっと買い物に行ってくれないかい?」
ある日、おばあさんが赤ずきんちゃんに思い切ったようすでたのみごとをしました。
「はあ? 自分で行けよ、ばばあ」
赤ずきんちゃんは、きれました。
「ごめんね、足をいためてしまって、ちょっと今あるくことが出来ないんだよ」
おばあさんに、日ごろのむりがたたってしまったのでしょうか。
「このまま、かいものに行けないと、今日はごはんが食べられないの、ごめんね」
ごはんが食べられなくてはこまると、赤ずきんちゃんは、しぶしぶかいものに行きました。
「あなたは本当は、やさしい子。おばあちゃんは、分かっているからね」
家を出ていく赤ずきんちゃんのせなかを見送りながら、おばあさんはそっとつぶやきました。
「くそっ、あのばばあ、ころしてやろうか」
ふきげんな赤ずきんちゃんは、そんなことをつぶやきながら、とことこ道を歩いて行きました。赤ずきんちゃんの住んでいるはなれから、お店のある村までは、一時間くらい歩かなければいけませんでした。
「へい、いらっしゃい!」
店に入ると、お兄さんが元気よくあいさつしてくれました。
「あ、え、あの、う……」
赤ずきんちゃんは、きょどうふしんになってしまいました。ことばが、上手くでてきません。
赤ずきんちゃんは、ほしいもの指でさして何とか買い物をおえました。たったこれだけのやりとりでも、おおしごとです。
「そうそう、さいきんは『人食いおおかみ』があらわれるらしいから、お姉ちゃんも気をつけてかえりなよ」
かえりぎわ、お店のお兄さんがこんなことを言ってくれました
まあ、私はだいじょうぶだろう。そう思い、赤ずきんちゃんは特にふかく考えずに店をあとにしました。
『とにかく早くかえろう』
赤ずきんちゃんは、もうそのことしか頭にありませんでした。まわりを見ずに、早あるきでかえろうとすると、男女の二人ぐみとぶつかってしまいました。
「あら、ごめんなさい」
こいびと同士でしょうか。あちらからあやまってくれましたが、赤ずきんちゃんの耳には入りませんでした。
くそっ、しあわせそうにしやがって。
赤ずきんちゃんは、自分からぶつかったにもかかわらず、何にも言わずにそのばを、走り去ってしまいまいした。
赤ずきんちゃんは、あらためて、村の人たちを見わたしてみました。
『楽しそうにあそぶ子供たち』
『仲良くすごしているかぞく』
そんなこうけいが、やたらと鼻に付きます。
くそ、こいつら、私のふこうも知らないで。
こいつらが、あわてふためく姿を見てみたい。
そんな思いから、赤ずきんちゃんは、あるアイデアを思いつきました。
赤ずきんちゃんは、村のいちばん人が多い所へやってきて、赤ずきんで顔をかくしました。そして、お店の人と話した時の小声からはそうぞう出来ないような大声で、こうさけびました。
「おおかみが、来たぞー」
さあ、逃げまどえ。赤ずきんちゃんは、にやつきながら、ようすをながめていました。ふだんは、外界から『かくり』されて生きているので、周りの人たちに、えいきょうをあたえるのが、楽しみで仕方がありませんでした。
次話すぐに掲載します。