俺はもしかして全国の男達に謝らなければいけないほどの極悪人かもしれない。
私は大ウソつきだ。
しかもこの嘘は私の身ならず、日本中の男達を苦しめているかもしれないと思うと慙愧の念に堪えない
今日はこの愚か者の行為を一つ白日の下にさらしていこう
私はお昼の日替わりランチA定食を持ちながら、珍しくテレビが一望できるベストポジションに座ることができた。
「あっどうも」
私が稀勢の里の引退についての熱い討論に集中していると一人の女性が隣に座る。
私の三つ右の席に座ってる男がいる。
その選択で彼女は私の隣を選んだ。
彼に申し訳なく思う反面、なんとなくほのかな喜びに包まれていると女性が私に声をかける。
「○○さん隣いですか? ここテレビ見れていいですよね」
よく見れば彼女は私のいる部署に配属された。女性の一人だった。
三つ隣の男が知り合いならこの勝負はノーカンだ。そうニヒルな笑いを浮かべていた。
彼はこの食堂でなぜか私とエンカウントする確率が非常に高い男、なぜかスマホを見てるわけでもテレビを見てるわけでもないのに、ふと頬を引き付けて皮肉気に笑うことから、私は心の中で彼をニヒルと勝手に名前を付けていた。
「いいですよ、あぁ場所を広く取ってすみませんね」
わが社の男女比はかなり女性も多い、それ故というべきか元来の気の小ささか過剰に私は席を横にずらした。
「ここの席当たりですよね、テレビ見ながらご飯を食べるのが好きなんです。だからここら辺が都合よくて」
お互い当たり障りのない会話をしながらランチを食べる。
子供のころは家族とテレビを見ながらご飯を食べてたからそうしない家庭もあるとしって驚いただの、仕事の進捗具合がどうだの、場をつなぐが不快ではないラインの会話を続ける。
互いの会話で感情は一切動いていない、いや動かす必要もないのだ。相手もそれを心得ているので逆に気持ちがいいぐらいだ。
そんな風にしているとテレビのニュースが切り替わる。
そうしてみると未成年の女子高生に立場があり年を食った大人が淫らな行為を行い捕まったという実にありふれたニュースだった。
「どう思います」
それは安定していた球の打ち合いが初めてぶれた瞬間だった。
「どうって?」
「いい大人がこんな事……」
明らかに感情がのった声、私は早くニュースが切り替わることを願った。
だというのにテレビのコメンテーターたちが淫行を犯した男に対する非難を声高に唱えだしてしまう。
その雰囲気が彼女の背中を押してしまう
「ほんとに気持ち悪いですよね、こんなこと普通します?」
「全く、いい大人の男が女子高生に興奮するなんてありえないね」
よどみない回答は一秒以内
模範解答である。
沸騰石を入れる理由を答えよ(10文字以内)
答え(突沸を防ぐため。)
これぐらいの正しい模範解答を私は答えた。
「そうですよね!」
気をよくした彼女はそのまま食事を再開する。
その隙に私は周りをちらりと見やる。
昼時の食堂は本来かなり混む、客は多い、もちろん男も多くいる。
直接目の合うものはいなかった。
しかし分かる。
食事に戻ろうとするときの視界の端、こちらを見る心底冷たい目がある。
裏切者め
そう彼らは私を罵倒していた。
あぁ許してくれ、本当は嘘だ。女子高生に興奮しないなんて真っ赤な嘘だ。
どう考えても興奮しない方が少数派であることは分かってる。
むしろ女性は分からないのか?これだけ女子高生ブランドが根強い世の中で女子高生に興奮する男が少数だって本当に考えているのか?
興奮するに決まってる。
世の男は皆女子高生が好きなんだ!
私は強くお米を噛みしめると惨めに自己弁護を行う。
だがあの状況じゃ仕方なかった。
他に逃げようのない質問じゃないか、あれが模範解答なのはみんなが知ってるはずだ。
私が悪いのか? 私がああ答えるのは必然だった。私以外だってきっとそうした。たまたま私だっただけじゃないか
私は震える箸を何とか抑えながら里芋を掴もうとするがお盆に落とす。
体の右側におちた里芋を追いかけ、目線を滑らす。その先にはニヒルがいた。
その隣は同僚だろうか、いつの間にか女性社員がニヒルとテレビを見て会話しながらランチを食べてる。
「いい大人が子供襲うんだから怖いよねー」
「世の男は皆女子高生が好きなんですよ」
一言一言、区切るように力強く話すニヒル
私は里芋を拾うのも忘れて彼を凝視してしまう。
あの質問ならまだ避けられたはずだ。何もそんなストレートを返す必要はない
「あっうん、男って結局若い人好きですもんねー」
女性社員が気まずそうに自分のランチを食べることに集中する。
ニヒルはこちらを見ずに、しかし確かに笑った。
私はもう二度とニヒルの顔を見ることはできなくなった。
私は自分のした。取り返しのつかない悪行を言い訳することなどできなくなっていた。
自首しよう
そう素直に思えたのだ。
私は取り返しのつかないことをした。
この裏切りは極刑でも裁けぬ大罪であり、人類の半分に対する裏切りだった。
私は今も心の牢獄に捕らわれながら、この書をしたためている。
これを見た男たちよ
私のようにはなるな。
わが身可愛さに仲間を売るような卑劣漢にだけはなってはいけない。
仲間を貶めてはいけない
それだけがオレに言えることだ。