悪魔の叫びとなる
三人称
スタジオでは激しい討論が続いている。
突然、大きな音が響き渡った。スタジオにいる人たちの視線が動く。
ひとりの男が握りしめた拳を机に叩きつけたまま、下を向いて動きを止めている。
音に驚いた誰もが口をつぐんでいる。
有罪を主張するテーブルの端に座った男がゆっくりと立ち上がった。
年齢が高めの専門家が並ぶ中で、この男と隣に座った女だけが飛び抜けて若い。まだ、二十代中盤といった感じだ。服装もラフなジャケットをはおり、茶色い髪をしている。
前列のテーブル席に座っているより、後ろのひな壇で芸能人に混じっているほうが、しっくりくる感じだ。
整った容姿からもそんな感じである。
立ち上がった男は前方の男たち(無罪側)を睨むようにして口を開いた。
「ヒトっていうのは本当に勝手だよな。ヒトに近いロボットを求めて、自分で考える人工知能を俺たちに持たせ、もっとヒトに近づけようと感情までプログラムに組み込んだ。その結果がこのありさまだよ。俺たちはあんたらにとって、いったいなんなんだよ」
ぼそぼそ話しだした男の声がだんだん大きくなっていく。
「あんたら、俺たちを殺しても、それを裁く法律がないから無罪だって言ったよな。それなら俺たちが殺人や罪を犯しても無罪ってことだよな」
「……」
無罪側の専門家たちは、彼から視線をそらし、口を結んでいる。
「なぁっ! そうですよね」
誰からも声が返ってこない。
男は無罪側に座るひとりの法律家を名指しし、強い口調で、「どうなんですか?」
「……そういうことになるな、今の法律では」
恰幅のいい法律家が眉間にしわを寄せながら、しゃがれた小さな声で答えた。
「ふんっ。簡単にそんなふうに答えていいんですか。あんたら人間が作り上げた俺たちは今やヒトと変わらぬ感情を持って生きてんだ。それがどういうことか分かりますか?」
「それは……」
恰幅のいい法律家が口ごもり、唇を噛みしめた。
「俺たちも人間と同じように不満がたまり、罪を犯すことだってありえるってことですよ」
そう言い放った男が、どこか寂しげな、呆れたような複雑な笑みを浮かべ、呟くように続けた。
「法律がないんだから、罪に問われることもないんだから……」
言い終わると同時に男は力を失ったように、椅子へと腰を落とした。
静まりかえるスタジオ。
彼らの前のモニター画面には、番組終了のエンドロールが流れ始めた。
エンドロールも終わり、番組の締めのコメントを言うためか、司会者であるキャスターへとカメラが向いた。そして、彼が口を開こうとした時、さえぎるような声が――割り込んだ小さなしゃがれ声は、いつしか怒鳴り声になっていた。
自暴自棄になって怒鳴ったのか、もう音声が入っていないと思ったのか、放送が終わったと思ったのか、大きな声がスタジオに響き渡った。
彼の言葉は――電波に乗り、視聴者の心に突き刺さって、放送は終わった。
「ジンはヒトじゃない。だから、人を殺したり傷つけたりしたジンでも裁かられることはない。ただ〝不要〟になった危険物は、不要品として即刻叩き壊されるだけだ!」




