やっと修行を始める
この北の大陸には、過去に文明を築いた種族が居た。
エトルリア族と言うらしく、長い寿命に高い知性と魔法力、背が高く青白い肌に尖った耳。
それって……。
「似たような伝承が、複数の世界にあっても不思議ではないの」
大魔導師ビンチは、エルフの話を聞いてもさほど驚かなかった。
「じゃが、エトルリア族の残した遺跡は残っておるし、それほど古くもない。二千年ほど前の書物には、存在が確認できる」
「それなら、この二千年で滅びたのですか?」
確証はないがと、ビンチは続けた。
「更に北へ去ったとの伝説もあるが、元々数の少ない彼らは、わしらと混血して緩やかに減ったようじゃ。この国の者には、その血が強く出てるかも知れるな」
そういえば、ルシィの姉弟子であるラミアは、耳が長ければエルフと言われても納得の美貌にスタイルで、しかも天才的な魔法使いだったな。
そこへ、妹弟子の方がやってきた。
「師匠、出来ました! 精霊に目標を教える魔法陣を、飛ばすことが出来るようになりました!」
得意満面のルシィは、どちらかと言えば小柄で、少しタレ目の丸い顔。
エルフからほど遠いが、魔法の才能はある。
「これはどうなんです?」
彼女を指さして聞いてみた。
「いやーどうじゃろうな。エトルリア族以外にも古代種族はおったからのう」
ならルシィの祖先にはエルフでなく、ドワーフが居たのかな……。
最初は頭の上に『?』を浮かべていたルシィも、からかわれてる事に気付いたのか、俺とビンチを相手に暴れだした。
この生命力の強さも、儚げなエルフとは遠いなあ。
どうどうと彼女をなだめてから、やっとビンチが本題に入った。
「それでじゃな、この付近のエトルリア族の遺跡に『支配の角笛』というものがある。それを取ってきて貰いたい」
支配の角笛とは、これまた大仰な名前だ。
手にするだけで世界征服が出来そうだが。
「いや、そこまでの物ではない。文献によれば、一時的に魔物を操れる道具で、この危険な大陸に住むには必須の物だったらしいな。西から来る連中が魔物を使うなら、是非欲しいところじゃ」
ほー、熊笛の発展強化版か。
「はい、師匠!」と、ルシィが手を挙げる。
「じゃあそれで、操られてる魔物を奪い取るんですか?」
「惜しい、残念ながら違う。魔法の常として、より強く上書きするのは難しい、解除するほうがずっと簡単じゃ。音だけで支配出来るなら、少し改造してやれば音だけで解放することが出来る」
おお、なら数百って魔物と戦う心配はないわけだ。
「それも、わしくらいにしか出来ぬがの」
ほっほっと自慢げに笑うビンチにつられて、流石師匠とルシィも笑い出す、まあ遺跡の探検に行ってみますかね。
だがその前に、多少なりと技量の向上を目指して、リーザと修行に励む。
王女に貰った乗馬服、赤地に金の縁取りをした衣装は、赤竜の彼女にとてもよく似合い、物語から抜け出たような神秘性とかわいさがあったのだが。
子供の体格になったとしてもお主の百倍は強いとの言葉は、それはもう紛れもない事実だった。
目も勘も反射神経も恐ろしく良く、対峙して打ち合っても当たらない。
それどころか、こちらの動き出しに合わせたカウンターで一瞬で勝負が付く。
その度に、『かっかっかっ』と楽しそうに笑う。
だがまあ、百回もぶん殴られるうちに、徐々にスキを見せないと言うことが分かってきて、互いの剣が何度かぶつかるようになった。
数日後には、遂にリーザのスキを捉えて初の一本! かと思ったのが、次の瞬間には剣は空を切り、真横に回り込んだリーザが俺の腕を掴んで、三十メートルは投げ飛ばした。
また『かっかっかっ』と笑う、どうやらスキを見せて誘い込むというのを覚えたようだ。
「こりゃ修行にならんのう……」
ビンチの指示で、多少は手加減をしてもらい、まずは互いに十手ずつ基本通りに打ち合う事から始める。
毎日ボロボロになるまで殴られて、それもマナが体を守ってくれるから出来ること、回復魔法をかけて貰いメシを食って寝る。
そんな日々を一ヶ月も過ごすと、やっとリーザの十手を全て受けきる事が出来た。
大喜びで跳ね回る俺の頭にリーザが飛びつき、一緒になって喜んでくれる。
「そうか嬉しいか、ありがとうな。お前のお陰だよ!」
肩車してはしゃいでいると、頭をバンバンと叩きながら赤竜の化身が喋った。
「サガ!」
おおう? 今なんて、もう一回言ってくれ。
「サガ、サガ!」なんと、俺の名前を呼んだ。
みんなー! 聞いてくれ、リーザが始めて言葉を喋ったよー!
そう叫びながら、肩に担いだまま走りだした。
それからしばらくは、皆がリーザに名前を教えることに熱中した、あの大魔導師さえも。
そろそろ良かろうと、ビンチの許可が出て、遺跡に挑むことになった。
行くのは、俺にルシィにイリスにリーザ、それにアデリナ。
イリスはすっかりここに居着いて、晴耕雨読の日々を満喫している。
アデリナは、少し前にアグレスへ手紙を届けた時に付いてきた。
アグレスの教会に居たのだが、王女が王都へ行ったきりで暇だったとか。
「ほら私ってさ、王女のお声掛りでしょ? 教会も殿下との関係改善を期待してるんだけど、この状況だとお会いする機会もなくてねえ。せっかくだから付き合うよ、回復役が要るでしょ?」
支配の角笛がある遺跡がどれか、正確には分からない。
なので、ここら一帯の遺跡をしらみ潰しに探すことにする。
長距離の移動も、万が一にとんでもない怪物が出たとしても、今ならなんとかなるだろう。
俺もルシィも、少しずつだが階段を昇っているし、なんと言ってもこいつがいる。
「頼むぞ、リーザ」
ドラゴンの背の上から、ぽんっと叩くと、リーザは任せなさいとばかりに一鳴きしてから、翼を広げた。




