表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/81

こっちの世界

 朝も早く、世間と同じくらいに目が覚める。

 だらだらしてたここ最近、なかったことだ。

 さっそくと思ったが、あちらと時間がシンクロしているのか分からない。


 時計か、時計を持っていけば売れるのか?

 ただ、精密機械を持ち込むのは気が引ける、世界を乱したりしないだろうか。

 

 結局、昼前まで待って、穴に潜り込む。

 空いた時間で、近所の洋菓子屋で買って、ケーキ、チョコ、スフレ、エクレアなどを土産にしてカバンに詰めた。

 ルシィが喜んでくれるかと思ったら、少し奮発してしまった。


 荷物を先に通そうとすると、穴は閉じたかの様に受け付けない。

 自分で抱えていないと通り抜けられず、ぎりぎりのところで穴を抜けた。


 三度目の訪問。

 見慣れてきた魔法陣の部屋に、見慣れる物が立っている……人の背丈ほどの木の人形、これがポンペイさんかな?

 ポンペイさんは、こちらの姿を認めると、そのまま扉から出て行った。


 凄い、本当に動くんだ。

 ルシィに報せに行ったと思うが、一応ランプも捻っておく。

 きちんと目を閉じたが、その光が収まらぬ内に、ルシィが飛び込んできた。


「いらっしゃいませ! お昼は済んでます? 一緒にいかがですか?」

 歓迎されてる事が、とても嬉しい。

 

 豆の浮いたスープに、干し肉と昨日のパンと果実のジュースをご馳走になる、これまた素朴だが美味しい。

 食後に、用意してきたデザートをとカバンを開けるが、中身がおかしい。

「な、なんだこれ?」

 どうしましたと、ルシィもカバンを覗く。

 詰めてきた菓子が、全て溶けたような黒い物体になっていた。


「いや、これは、お土産に食べ物を……」

 しどろもどろになった説明に、ルシィがあっさりと答えをくれた。


「探索陣で、果実とかを採るとそうなるんです。生ものとか、直ぐ腐ったり痛む物を通すと崩れるらしいですよ」

 ならば、生鮮食品の持ち込みは駄目なのか、缶詰や乾物はどうなんだろう。


 この世界に通じる穴、ルシィの作った失敗した探索陣は、直径は成年男性が通れるほどで、抱えるか背負うかしないと運べない、ついでに生ものは無理。

 人が通れるから、生き物は可能かも知れないが、試すのはちょっと怖い。


 こうなると、持ち込める物は限られるのだが、その為にルシィを誘った。

 欲しい物を見つけてくれれば、それを運べば良い。

 デートではない、あくまで視察だ。


 二人揃って通るのは無理なので、先に戻って待つ。

 ルシィには、穴を通ることへの、不安はなさそうだった。

 この穴を作った本人なわけだし、何か自信や確信があるのかも知れない。


 床から浮かび上がるように、ルシィの頭が出てくる。

 次に腕、片手に杖を持っていて、大変そうなので手伝う。

 手を握って引き上げるが、軽い! これが女の子の軽さか!

 掴んだ手も小さくてかわいいが……小さすぎないか?

 

 現れたルシィは、縮んで、いやあきらかに若返っていた。

 何年分だろうか、どう見ても小学生くらいにしか見えない。

 だぶだぶのローブに、大きな杖がとても可愛い。


 いやいや、眺めてる場合ではないと、話しかけようとして気付く。

 ルシィが何か言ってるが、まったく分からない。

 その為に、翻訳ペンダントは付けたまま戻って来たのに。

 

 穴を指さした小ルシィが勢いよく飛び込んで、慌ててそれを追いかける。

 追いかけた先のルシィは、元の大きさに戻っていた。

 ペンダントを外してとジェスチャーされたので、外して渡す。

 そのペンダントを、小さな魔法陣から繋がる別の魔法陣に置いて、小さい方には、部屋にあった宝玉を一掴み。

 それから、ルシィが詠唱を始めた。


 この世界に来て、初めて見る、魔法を使う場面だった

 宝玉が光り始め、徐々に光が小さくなり、その分だけペンダントが光る。

 説明が無くとも分かる、これが彼女の言っていたマナの供給なんだ。

 最後に、光がペンダントに飲み込まれてから渡された。

 

「分かります?」

 わかる、今度は言ってる事が分かる。

「びっくりしました、だってマナが凄い勢いで杖から抜けるんですもの!」

 いや、それじゃなくて。


「この杖のマナが全部なくなったら、詰め直すだけで幾らになるか!」

 やっぱりマナって高いんだ。

「体も縮んでましたし、ちょっと待っててくださいね、準備してきます!」

 そう言って、ルシィは部屋から出て行った。


 体が縮んだり、大きくなるのは、よくある事なのだろうか。

 この世界の魔法については、まだ知らないことだらけだ。

 それにあれは、縮むというより、幼くなってたと思うのだが。


 ひょっとして俺もと思ったが、この部屋には鏡がない。

 他の部屋や、街中でも見てない、これは大きなヒントになるかも。


「お待たせしました!」

 ルシィが鞄を抱えて戻って来た。

 これは聞かなくても分かる、着替えだろう。


 今度は、ペンダントも杖も置いていく。

 やっぱり小さくなったルシィを引き上げて、着替えの間は外で待つ。

 ここで変な気を起こすと、台無しだ。


 ノックの合図で部屋へ戻ると、木綿の生成り色のスカートに、毛質の茶色の上着、紐でなく革のベルトをきちっと締め。

 長いウェーブのかかった髪には、簡素な木製の髪留めと、麻で編んだ肩掛け鞄、これぞ天然素材といった可愛い女の子が立っていた。

 とりあえず拍手をすると、少し照れくさそうに一回転してくれた。


 同じ部屋に二人きりで居ると、まずい気がしたのでさっそく出かけることにする。

 準備の良い事に、革製のサンダルまで持ってきていた。

 彼女の身に付けてる物は、全て自然素材で恐らくは手作り、むしろこっちの世界で高級品だろう。

 ただ、あっちの世界でも安物とは限らないが。


 今日が土曜日で良かった。

 平日に、異国の小学生っぽい女の子を連れてたら、必ず警察に咎められる。

 それも美少女と、冴えないおっさ……お兄さんとか、犯罪臭この上ない。


 ジェスチャーでしか意思が通じないが、小ルシィは表情も豊かで助かる。

 まずは、電車に乗って繁華街へ行こう。


 こっちと合図すると、とことこと付いてくる。

 楽しい一日になりそうだ。

5話の4500字を分割しました。

一話2000前後が主流っぽいので。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ