こっちの世界へ
帰り道、気になっていた事を聞いた。
「ジエットさんが、最後に言っていた、教会って?」
あれですよ、とルシィが指差す。
十字架も無いので教会だと分からなかったが、石造りの大きな建物。
「別に、悪い組織とかではないんです。この街の神父様は良い方ですよ。ただ、魔法の捉え方が、わたし達とは違うんです」
宗教と魔法の確執か、ありそうな話だが。
「魔法使いは、これを学問や理論として学んでます。教会の方々は、精霊やマナも含めて神与の奇跡と信じてます。そのせいで、長いこと仲が悪くて」
まるで、ルネサンス期みたいだ。
ただ、教会も否定するだけでは無いとルシィは言った。
末期の者や重態の者、そういった人々を受け入れ、魔法も使って痛みを和らげて、看取り、葬儀をもって送り出す。
千年以上、そうして民衆の間に、根付いてきたそうだ。
「大叔母様も、きちんと式を執り行って頂きました」
生まれる時の産婆と、死ぬ時の坊主が欠かせないのは、この世界も同じか。
家に戻ると、ルシィが夕御飯をごちそうしてくれる。
肉と野菜に卵を落としたスープと黒パン、炙ったチーズとぶどう酒を水で割ったもの。
二人分にしては多いくらいで、栄養も充分。
食材はありふれた物でも、火の通った食事を女の子と食べるのは、一人で食う弁当とは比べものにならない。
楽しく、とても美味しいものだった。
食後に、是非とも、自分の世界にも招待したいと伝えた。
ルシィが、この商売に乗り気ではない気がしていたので駄目元、いや商品なんか選んでくれなくても、来てくれるだけでも嬉しい、気がする。
ルシィは少し考えて、実は……と打ち明けてくれた。
「最初にお話を聞いた時は、上手くいくかよりも、いきなりでその……信用出来るか、分からなくて。ごめんなさい」
まあそれは当然だな。
「今日、色々と見て回ったり、ジエットさんと話してるのも見て、悪い人ではなさそうだと思って。それで、あの……お金儲けは、大歓迎なんです!」
あれ?
「魔法の勉強って、凄くお金がかかるんです、素材や本とか。マナだって、マナが詰まった宝玉や魔物の骨、そういう物を買ってから、他の道具に移転するんです。だから、その仕入れに先立つものが要るんです。あとは魔術師ギルドの割当金や税金やら、実はかつかつで……」
これまた、思っていたのと違う。
それに加えて、彼女は口にしなかったが、俺の使ってる翻訳の魔法道具に、結構な大金を支払ったはずだ。
そこまでぶっちゃけると、彼女はすっきりとした顔になっていた。
これは何としても、ルシィと妹と自分の為に稼ぎたい。
「なら、俺の世界を見に来てよ。気に入ったり、売れそうな物があれば、ここの店で売ろう。儲けは折半で良いから、きっと上手くいく!」
我ながら、かつてない強気と積極さが出てきた。
「はい、わかりました。お願いします」
ルシィも決心してくれた。
不思議と心が躍る、デートの約束って訳でもないのに、浮かれそうだ。
明日が待ち遠しいが、一度帰らねばならない。
来た部屋へと戻り、やって来た魔法陣の前に立つ。
「ところで、これ本来は、何の為の魔法陣?」
「その魔法陣は、遠く離れた場所の、魔法に使う素材や竜の骨、そういった物を探す探索陣と呼ばれるものです。上手くすれば、買うよりずっと安いので、思い切り遠くに設定したんです……」
それが俺の尻の下に繋がったと。
この子、天才なんじゃなかろうか。
「それで、どれくらいの期間、繋がってるのか、分かる?」
ルシィは、探索陣と並んでいる、小さい方の魔法陣を指さして言った。
「こちらからマナを供給してやれば、しばらくは大丈夫です。普通は魔法陣が徐々に縮むんですが、まだその兆しもないので」
小さくなり体が通らなくなる、それがタイムリミットか。
今でも、そう大きくはないので、これを通る商品を見つけねば。
聞いておきたい事は、あと一つ。
「明日、また来るけど、来たらどうすれば良い?」
「そうですね、またあのランプを使ってください」
目潰しに使えそうな、失敗作のランプか。
「この家には、他人が入ると分かる魔法をかけてあります。けど、サガヤさんは、体にマナが無いので感知出来ないみたいです。あのランプは、わたしの魔法がかかってるので、家の中で使えば気付きますから」
流石は、魔法使いのセキュリティってところか。
「それじゃ、また明日」
「はい、それではまた明日、お待ちしてます」
戻ったら、急いで部屋を片付けよう。
それから、明日は何処を巡るか調べなくては。
こんなにわくわくするのは、何年ぶりだろう。
この街は、基本いい人ばかりの田舎街です
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