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五話 魔法屋さんへ


 一緒に金儲けをやらないか? 簡単に言うとこれに尽きる。

 損したから責任取って手伝え! と言うのだけは避けよう。


 「そんなに上手くいきますか? お話では、サガヤさんの世界の方が豊かな気がしますし、お互いに欲しい物がないと」

 痛いところを突かれた。

 実のところ、この魔法の世界に、何があるのかさっぱり知らない。


「それなら、この街を見て回りませんか? 夕飯のお買い物に、行きたかったところですから」

 はぐらかされた気がするが、ネットも無い世界では、買ったり売ったりするなら街に出るしかない。

 品定めも兼ねて、付いて行くことにしよう。


 ――フェアン。

 ルシィが教えてくれた、この街の名前。

 焼き煉瓦を敷き詰めた大きな道路が、街の真ん中を貫いている。

 ここは、南北に伸びる街道の、宿場の一つなんですと教えてくれた。


 街道と並行して伸びる路地に沿って、住宅や商店が並んでる。

 穀物を量り売りしてる店、どでかい肉をぶら下げた店、赤や黄色の果実や野菜を並べた店、陶器屋、金物屋、雑貨屋に宿屋らしきもの。


 想像してたよりも、ずっと沢山の物があった。

 ルシィは、ハムを一つ、卵と黒っぽいパン、赤い果実を買って歩く。

 付いて回るこちらを見て、店の人から声をかけられた。


「お、彼氏かい?」

 遠くから来た商人さんですと答えていた、まあ間違ってはない。

 商店街の外れまできて、一軒の店に入った。


「ジエットさん、こんにちわー」

 店の奥に声をかけると、ローブに杖を持った、ルシィと似た格好の老人が出てきた。


「ほう、ルクレツィアかね。そしてこちらは……」

 俺の胸にかかった、翻訳ペンダントを見る。


「あの時の坊やかね、元気になったようで何よりじゃ」

 坊やって歳でもないけどなあと思いつつ、自己紹介をした。


「それで今日はどうしたんじゃ?」

「サガヤさんは商人さんで、自分の国でも売れそうな商品を探してて、それでお店を見せてもらおうと思って」

「それは商売熱心じゃな。ゆっくり見ると良い」


 ジエットさんは、快く許可をくれ、どっこらせと椅子に腰かけた。

 興味というより、値踏みといった感じで見られている。

 店内には色々な物があるが、こうも見つめられると落ち着かない。

 思い切って、声をかけることにした。


「あの、ジエットさんは魔道士なんですか?」

 そうじゃ、と簡潔な答え。


「なら、ルシィとは商売敵になるんじゃ……?」

 疑問に思ったことを、素直にぶつけてみる。

 ほっほ、と軽く笑い、ヒゲを撫で付けながらジエットさんは語りだした。

 これは、年寄りの長い話のパターンだ。


「わしとアンリエッタ、ルクレツィアの師匠じゃな、わしらは同じ魔道士に師事したんじゃよ」

 遡れば同門なのか。


「五十年は前になるか、その頃はこの街もまだ小さくての、魔道士と二人の見習い魔術師で余るくらいじゃった。それから周りの開拓が進むにつれて、わしとアンリエッタが独立しても忙しいくらいでの。まあそんな訳で、商売敵と言うほどのものではないぞ。この街に、パン屋は七件もあるからのう」

 それにな、とジエットさんは続ける。


「ルクレツィアが、この街に来た時のこともよく覚えとる。大姪に筋の良さそうなのが居るから、預かってみると言っておったな。無事に魔術師まで育ったというに、その矢先にぽっくり逝きおって……」


 ルシィもジエットさんも、しんみりとしてしまった。

 こんな空気の時は、どうすれば良いのだろう。


 上手く話を継げずにいると、よいしょとジエットさんが立ち上がり、目の前に来た。

 正面から見つめられて目が泳ぎ、愛想笑いが出そうになる。

 これは面接かなと覚悟を決めて、睨まないように静かに見つめ返す。


「ふむ、まあ良しとしよう。ルクレツィアを騙そうとしたり、ひとり暮らしの娘のとこに転がりこもうとした訳ではなさそうじゃな。で、お前さんは、何処から来た?」


 バレてたようだ、観念してここまでの成り行きを話す。

 話した限り、この爺さんは悪い人ではなさそうだし。


「なるほどのう……遠隔地や知らぬ世界から、生きた動物を呼び寄せたというのは、それなりにある事じゃが、行き来が出来るとは珍しいの。この世界の中でも、人を移転させるような魔法は完成しとらんのに」


 魔法といっても、何でも出来る訳ではなさそうだ。

 何か珍しい物を持って帰りたい、そう恐る恐る聞くと、あっさりと許しが出た。

 ここの魔法は、大仰な秘密主義とは無縁のようだ。


 店の商品を一つずつ見て、尋ねてみる。


 書物や絵に置くと、丸ごと転写してくれる紙や皮紙

 一粒で水の汚れを吸い取り、飲めるようにする石

 息を吹き込むと火が出る、呪文の掘られた中空の棒


 手のひらサイズの水晶球

 日の昇る方角と日の位置が分かる、つまり磁石と時計か


 一揃いの鐙と鞍

 荷を軽くして振動を減らす、早馬に必須の高級品、これは凄い

 暖かく発熱する外套、入れたものが腐らない袋、空気から水を集める水筒


 しかし、便利グッズの延長のようなものばかりだ。

 岩を吹き飛ばすような魔法は無いのか、と聞いてみた。

「この街は旅人が多いのでな。そういう事がしたければ、ほれ」

 つるはしを渡された。


「もう聞いたであろう? この世界はマナに満ちておる。岩や大地もそうじゃ。強くマナを込めれば、簡単に砕けるんじゃよ。わしらは、人の作った道具にマナを込め、暮らしを楽にするのが仕事じゃ」


 魔法頼みでなく、技術や人力を補完するのが、この世界の進歩なのか。

 だがそれだけでは困る、もっと派手な、わかり易い物が欲しい。

 もう一度見回すと、刀剣や盾が目に付いた。


「これは、魔法の剣や盾だったりしますか?」

 あまり期待はせずに聞いてみたが。

「そのとうりじゃ」

 えっ!? あるんじゃないですか。


「どちらも、軽くなる魔法がかかっておる。残念ながら、火を吹いたりはせんがな。あとはマナを込めれば、軽くて切れ味の良い剣になるぞ。そうすれば、魔物や竜種とも戦えるやもしれん」

 やっぱり居るんだ、ドラゴン……。


「戦うなんて駄目ですよ! そんな危ないこと!」

 それまで黙ってたルシィの声が響いた。

 身の上話を思い出す、ルシィの父は魔物に襲われたのだった。


 魔物は、マナの濃い場所で育ったか、元々蓄えて生まれるか、その両方。

 頑強で素早く、また巨体で、普通の人間の手に負えるものではない。

 武具にマナを込めることで、何とかそれらを追いやり居住圏を拡大しつつある。

 それが、この世界の人の歴史だそうだ。


「直接、人を強化することは出来ないんですか?」

 ふと湧いた疑問に、ルシィが答えてくれる。

「人の体にもマナは流れてるんですが、魔物に比べるとずっと弱いです。しかも、貯め込むことがほとんど出来ません。マナとの親和力、吸収と持続が、大きく違うんです」

 持っている杖をかざして、ジエットさんが引き継ぐ


「この杖、これはドリュアスの杖と言って、オークの芯材から作る。大量のマナを、長期に蓄える優れものじゃ。鉄などはマナをよく吸収するが、流れ出るのも早く、年に一度は補充にくるもんじゃ。それがわしら、田舎に住む魔道士や魔術師の、主な仕事じゃよ」


 ルシィの家に転がっていた農具はその為か。

 想像してたよりも、ずっと地に足の付いた仕事だな、魔法使いって。


「サガヤとやら」

 まだ話は終わってなかった。

「お前さんの体には、マナが流れておらぬ。最初は動く死体かと思ったが、違う世界から来たのなら納得もいく。普通の者には分からぬが、魔術をかじった者が見れば、すぐに分かる」

 ジエットさんは、俺とルシィと双方を見ながら、最後に付け加えた。


「異世界から来たと、あまり大っぴらにせぬ事じゃ。特に、教会の連中には明かさぬようにな」

 そこで話は終わった。

 お礼を言って店を出る時に、困ったことがあればまた来なさいと言ってくれた。

 商品を見るよりも、話を聞く方が長かったが、色々と知ることが出来た。


 ただ、売れそうな物が見つからなかった。

 どれも一品物か数が少なく、更に値段は金貨で数枚から数十枚はする。

 こうなると残された手段は、現実世界で買って、こちらで売るしかない。

 幸いにも、魔法道具の売買が成り立つくらい、貨幣経済が機能してる。


 あとはこの世界で売れる物を探すだけだが、それには、ルシィに協力して貰うしかない。


次から、二人の話が動き出します。

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