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四話 二度目の訪問

 無事に戻れたまでは良かった。

 しかし、手遅れだった。


 丸一日の出遅れは、致命傷になった。

 直ぐに売りたい人、他の暗号通貨に換えた人、新興通貨が使えるまで待つ人、底値まで待つ人。

 

 今直ぐに買いたい人は居らず、ストップ安も無いからどんどん下がる。

 チャートが垂直降下したあとに、売れた時は買い値の半額だった。

 どうしよう、胃がズシンと重い、頭もふらふらで泣きそうだ。


 妹よ、不甲斐ない兄ですまん。

 あと1年余りで大学の学資はとても……ちらっと、床の穴が目がについた。


 あの奇妙な体験の後、変わった事はなくて、起きて穴がなかったら、夢だと思っただろう。

 直ぐに消えると思っていた穴は、今も黒々と口を開けている。


「こうなっては、やるしかない。リスクを恐れては何も出来ない」

 詐欺師か情報商材屋みたいなことを呟いて、穴に手を伸ばす。


 あの魔法世界とこの世界を、自由に行き来出来るなら、チャンスがあるかも知れない。

 この世界の物なら、何でも売れるのではないか。

 いや、魔法の文物をこちらで売り捌けば、幾らになるか見当もつかない。


 独占販売だ、数百万円どころか、数千万円だって稼げるかも。

 やるしかない、このままではジリ貧だ。

 それに、あの穴のせいで損害が増えたのだ、責任をとって貰うべきではないか。


 そして今度は、自分の意志で穴をくぐる。

 とりあえず、上半身だけ抜け出してあたりを見回した。

 彼女は居なかったが、見覚えのある魔法陣の部屋へと、転がり出た。


 扉の前で、ここに入った時を真似て、右手をかざしてみたが開かない。

 軽くノックをしてみるが、外に人の気配もなくて、よくよく見ると、扉にはドアノブや取っ手もない。

 どうやって開ければ良いのか、『開けゴマ!』無駄だった。


 大きな窓はなく、暖炉も消えているが、煙突から出るのは無茶ってものだ。

 それに、無理をしなくとも、待っていればここに来るだろう。

 セキュリティがしっかりしてると言うことは、大事な場所だから。


 待ってる間に、ゆっくりと部屋を見てまわる。

 不思議なものが沢山あるが、勝手に持ち出して売ったら駄目だよなあ。

 彼女に協力なしには、右も左も分からない世界で、物を売ったり買ったり出来ないもの。


 室内には、小さいがとても明るいランプがあった。

 手に取ってみると、その勢いで炎が揺らいでも明るさが変わらない。

 これなら夜に本を読んだって、目が悪くならないだろう。


 ランプの側面に、小さなダイヤルのようなものが付いていた。

 好奇心に負け、少しねじってしまう。

「うわっ!」 

 一気にランプの光量が上がった。


 反射的に目を閉じてしまい、危うくランプを落としそうになる。

 何とかランプを床に置いて、その場で半回転。

 目に入った光が暴れ終わるまで、しばらく待つしかない。

 その時、扉の開く気配がして、女性の声がした。


『・・・・・・・・・!』

 この声は聞き覚えがある。

 声の主が後ろに立つ気配がして、首に何かをかけられた。

 良かった覚えててくれた、このペンダントがないと、話も出来ない。


「あのー大丈夫ですか?」

 のんびりした問いに、大丈夫と答えて、まばたきを何度か繰り返す。

 ようやく視力が戻ってきた。


「あのランプをいじったんですね。光の調整が出来ない、失敗作なんです」

 少し笑いながら教えてくれる。

「あれも失敗作なんだ」

 我が家に通じた魔法陣とランプ、失敗作しか見てないのだが、これは余計な一言で、悲しそうな顔にしてしまった。


「すいません。まだ未熟なもので、半分くらいは失敗するんです……」

 魔法を教えてくれる人や、魔法学校とかないのかな。

 彼女の事も聞きたいけど、他に話したいことや、聞きたいことがある。


「えっと、良ければ話をしたいんだけれど」

「はい、もちろん構いませんよ。実はわたしも、遠くから来た人と、お話をしてみたかったんです」



 家の奥にあった魔法陣の部屋から、キッチンらしき場所へ案内された。

 机と椅子に食器棚、そこまでは見慣れた物だが、ここにも暖炉がある。

 ルシィの格好は、青く染めた長衣にローブを羽織って、手には杖。

 その杖を暖炉に近づけるだけで火が付いた、魔法かな?


 何から切り出そうか、まずは差し障りのなさそうな事から聞こうか。


「えーっと、また勝手に来て、すいません。頼みがあって来たのだけど、魔術や魔法の道具ってどんなものがあるの?」

 唐突な質問だったが、秘密です、と言われることもなく教えてくれた。


「魔術は、マナで道具や自然の物を強化するだけ。魔法は、魔法陣で特別な役割を与えることです。似た様なものですが、この業界では別けられてます」

 うむ、よく分からない。

 それに業界とは、俗っぽい。


「貴方の付けてるペンダントには、言葉が通じる魔法が使われてます。さっきのランプの炎は、魔術で強く安定させてます。ちょっと強くなり過ぎましたが……」

 複雑な事は魔法、簡単な事は魔術なのかな、それなら。


「魔術師も、その魔法を使えるようになるの?」

「もちろんです! 修行と経験を積めば、順に覚えていけるもので、今でも簡単な魔法は使えますよ!」

 魔術師から魔道士に、クラスアップするのか。


「いえ、そうではなくて。魔道士は、魔法の商品を作って売っても良いんです。魔術師は、マナを使っての、基本的な仕事だけが許可されてます。どちらも同じ魔法使いで、ぶっちゃけると、資格の違いなんです」

 なるほど、まずは魔術師になって、それから魔導師の資格を取るのか。


「そうです! 魔法ギルドの魔導師試験に受かれば、晴れて一人前の魔法使いなんです。」

 独占資格や、昔の医師とインターンのようなものか。

 これは確かに業界だ。


「ところで、魔術師の仕事って?」

「一番多いのは、道具の強化ですね。この辺りだと農具です」

 農具とは地味だなあ。

 想像してたのと違う、派手な魔法の道具を、売りさばく計画だったのだが。


「魔術で強化した農具は、全然違うんですよ! 半分の力で、二倍は深く土を掘れますし、草木の根にも邪魔されません。魔術を使った農具の普及で、耕地も収穫も何倍にもなって、飢饉が減ったんですよ。わたし農家の産まれだから、よく知ってるんです!」


 がっかりしたのが顔に出たのか、力説されてしまった。

 だがルシィの言う通りに、良い道具は生産力を向上させて、余剰人口を産みだし、社会の発展を可能にする。

 食料が少ないと、全員で畑を耕すか、奪い合うしかない。


 それにしても、出会ってからまだ短いのだが、魔術師のルシィは、何でも楽しそうに話してくれる。

 性格もあるのだろうが、会話に飢えてたみたいだ。

 気になっていた事を聞いてみた。


「この家には他に誰も? この間から、誰も見かけないけど」

 不躾な質問だったが、ルシィに意に介す様子はなかった。

「私の他にもう一人、ポンペイさんが居ますよ」

 ポンペイさん?


「ええ、師匠の残してくれた、木製のゴーレムです。失神した貴方を、ベッドまで運んでくれたんですよ、覚えてません?」

 もちろん記憶にない。しかし、残してくれたということは。

「師匠の……遺品?」

 その言葉に、何かを思い出すように視線をめぐらして、ルシィは語り始めた。


「そうです。この家も、師匠が残してくれました。師匠は、わたしの祖母の一番上の姉、大叔母様にあたるんです。十年ほど前に、わたしがまだ故郷の村に居た時に、父が魔物に襲われて亡くなったんです」

 魔物、人を殺すような魔物が出る世界なんだ。


「それからしばらくして、母が再婚する時に、連れ子にするよりも手に職をと、この街で魔道士をやっていた大叔母様にお願いして、弟子にして貰ったんです。その師匠も、二年前に亡くなりました。老衰の大往生でしたけどね」


 意外とハードな生い立ちだった。

 師匠が亡くなってから二年間、ゴーレムと二人でこの邸宅に住んでたのか。

 こういう時、なんて声をかけて良いか分からない。


 沈黙になる前に、ルシィが会話を促す。

「さあ今度は、サガヤさんの番ですよ! ところで、サガヤさんって呼んで良いですか?」

 もちろん構わない。


「俺も、ルシィと呼んでるわけだから、サガヤでもサガでもサガットでも、好きなように!」

 変なのと呟いてから、ルシィは少し笑いながら付け加えた。


「ルクレツィアは、祖母と同じ名前なんです。師匠は、祖母をルシィと呼んでたから、お前もそう呼ぶねって。わたしのお気に入りの愛称なんです!」


 それから俺は、魔法のない世界に住んでることや、代わりに発達してる科学技術のこと、妹が一人居ることなどを、ルシィに話した。

 彼女は興味深そうに、相づちや質問を挟みながら聞いてくれた。

 そして最後に、今回の用件を切り出した。


「この世界の物を俺の世界で売ったり、あっちの物をこっちで売ったりしたいのだけど、手伝ってくれないかな?」

説明回でテンポが悪いです。

段々とテンポも良くなるので読んで下さい

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