第1話
「おい、起きろ」
激しくドアを叩く音と、留の声で目が覚めた。
スマホで時間を確認すると、朝の七時。
制服のまま、夕食も食べずに寝ていたらしい。
「どうしたんだよ、朝から大声出して」
頭を右手で掻きながら問いかける。
「迎え来てる。あとは知らない」
「は? どういうことだよ、答えろよ」
言い切る前に足音が遠ざかっていった。
「もう、なんだよ。訳分かんねえ」
ベッドから起き上がって、カーテンを両手で一気に開いた。何気なく外を見て、一瞬で閉め直した。
なんで。どうして。
家の前にメイナがいるんだろう。
しかも母さんと立ち話をしていた。
制服の乱れを整えながら、バタバタと階段を降りる。
「留! どういうことだよ」
「だから言っただろ、迎えだって」
キッチンで優雅にトーストを口に運んでいるのがムカつく。
「亘、若い頃の失敗なんて失敗じゃないからな。大丈夫だ。ドンとぶつかっていけ」
この、ニコニコしながら的外れなことを言っているのが父さんだ。
「亘はさすがだね。転校生を一日で口説き落とすんだからさ」
留がコーヒーをすすりながら、こちらを一瞥もせずに言った。
「うるせえ」
「ほら、待たせてるんだから早く行った方がいいよ。“兄さん”」
「うぜえ」
俺は留の皿の、まだ手が付けられていない方のトーストを掴むと、キッチンを出て玄関を飛び出した。