第6話
「……観察?」
「はい」
「監視とかじゃなくて?」
「はい。観察です」
「えーと。勝手にすればいいんじゃないかな」
「ありがとうございます」
メイナが口角を少しだけ上げた。
もしかして笑った、のか?
「なんですか」
俺が面食らっていると、唇を突き出して不服の表情。
声の調子が平坦だから気付かなかったけど、意外と表情豊かな人なのかもしれない。
「まあいいです。じゃあ、帰りましょう」
「そうだな」
「そういえば部活はいいのですか?」
「あー、俺、部活入ってないんだ」
「分かりました。じゃあ一緒に帰りましょう」
そう言われて、俺は結構動揺したのだけれど、そんな俺がおかしいとでも言うように、メイナは首を斜めにしている。
「どうしたのですか? 観察させていただけるのでしょう」
「いや、そうなんだけど、初めて会った女の子と二人で帰るのはちょっと……」
「何が問題なのですか?」
ずいっとメイナの顔が近づいて来て、俺は慌てて顔を背けた。
「噂になる、というか」
「噂ですか? どんな」
「ほら、あの、つ、付き合ってる、とか」
「はあ」
メイナが大きなため息をついた。
「そんな誤解、されるわけないじゃないですか」
「いや、でも、現にさっき、メイナに呼び出されたわけだし。告白、とかされて付き合ったって思われても仕方ないというか……」
「土岐亘の脳内では、『男女が二人で話す』という行為が『告白』に結び付くわけですか。分かりました。ずばりあなたは、妄想力豊かな童貞ですね」
「なっ……」
俺は言葉を振り絞った。
「初対面の男相手に言う言葉じゃねえだろ」
「思ったことを言ったまでです」
間髪入れずに答えるすまし顔のメイナを見ていると、無性に腹が立った。
こうなったら噂になってやる。
俺は、転校生から初日に呼び出しを受けてカップルになった人間として、一日にして英雄になるだろう。
損はない。まあまあ綺麗、だし。
ただメイナは、童貞だと思っている相手に自分から告白したことになる。屈辱だろうな。
メイナに恥をかかせてやる。
俺はにいっと口角を引き上げた。
きょとんとしているメイナに向かって、言った。
「気が変わった。一緒に帰ろうぜ」
 




