第5話
「え?」
「どうして土岐亘が驚いているのですか。驚いたのはこっちです」
「淡々としてて、びっくりしたようには見えないけど」
「そうですか」
真顔で首を傾げる。
「とにかく、詳しく教えてくれ」
「詳しくもなにも、これ以上言うことはありません」
「だからっ」
俺が大きな声を出すと、彼女は肩をすくめた。
「私は未来から土岐亘に会いに来た。それだけのことです」
「理由は?」
「来ることになっていたからです」
「それって、誰かに決められたってこと?」
「いいえ」
「ならどうして」
「定め、でしょうか。私たちは、つまり私がいた時代の人間のことですが、全員生まれつき自分の能力を自覚しています。そして、それがなんのために備わっているのかは成長過程において理解します」
「つまり、メイナに置き換えるとどういうこと?」
「私はタイムスリップの能力を持っています。好きな時代に飛べる能力です。高校で『ある事件』について学び、とても興味を持ちました。それは、土岐亘がいる今の時代に起こったことです。私は土岐亘に会う必要があると思いました。そして、この学校に来ました」
「どうして俺なの?」
俺はつばを飲み込んだ。
「もしかして、その事件に俺が関わっているとか?」
「それはどうでしょう。それに、知っていたとしても話していいものか分かりません」
「あー。もうめんどくさいからいいや」
「そうですか」
「つまり、あれだ。メイナは『定め』とやらによってこの学校に来て、俺に会うことになっていた」
「はい」
「よく分からないな」
「そうですよね」
彼女が下を向いた。と思ったら、何かを決意するかのように小さくうなずいた。
「土岐亘。お願いがあります」
俺を仕留めるように大きく目を開いた。
「土岐亘を観察させてください」