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第5話

本編最後です。

丁度よく切れるところがなく、いつもよりだいぶ長めです。

「私は帰らなくてはいけません」


 事件を防いでからしばらく経ったある日、メイナが突然そう言った。

 その日は、いつものメンバーに留を加えた面子でファミレスにいた。


「どうして!」


 ほとんど悲鳴に近い声で奏音が言う。


「せっかく仲良くなったのに、イヤです」


 りんが涙目で訴える。


「このまま、この時代の人間だってことにすればいいじゃない。誰も気づかないわよ」


 結里がぴょんぴょん跳ねる。


「やっと普通に話せるようになってきたところだったのに……」


 留が俯く。


「いつ?」


 俺は一言だけ絞り出した。


「制限が切れたらすぐ帰りたいと思っています。……つまり、今日です」


 メイナが淡々と答える。


「何でそんな急に」

「私の中では急ではありません。決めていたんです。三十日経ったら帰ろうって」


 メイナが苦しそうに笑った。


「事件は解決したことですし、私はもう用なしです。それに、あちらに家族や友達を置いて来てしまいました」

「用なしなんかじゃないよ! でも、家族とか友達と会えないのはつらいよね」


 奏音が、寂しさをこらえきれないような声で言った。


「あっちの世界でも、こっちと同じだけ時間は流れてるのか?」


 留が興味津々という様子で聞く。


「まあそうですね。私がこちらに来た日に戻ることも出来なくはないですが、そうすると別の時間軸に移動してしまうので、私が永遠に行方不明になった世界がパラレルワールドで生まれることになってしまいます」

「……よく分からないけど、大変そうだ」

「分からなくて構いません」


 留が難しい顔で考えていると、メイナが言った。


「分からなくていいので、じっくり考えてください。なぜ時間は流れるのか。どうして能力というものがこの世にあるのか。多分、留さんならできるはずです」


 一瞬面食らったような顔をした留は、やがてにこりと微笑んだ。


「ありがとう。天翔さんに会えたおかげで、自分に自信が持てたよ。能力っていうのも、まだイマイチつかめてないんだけど、僕が変なわけじゃないって分かっただけですごく進歩だった。来てくれてありがとう」


 それを聞いて、メイナはさっと顔を赤くした。


「留! 別れ際のかっこいいセリフ取るなよー」


 何となく面白くない俺は、留を茶化す。


「かっこいいセリフって。そんなつもりじゃない、本心だ」

「だからムカつくんだよ」


 俺は留の肩を小突いた。今までだったら、こんなことをしたら秒速で払われていたが、されるがままで笑っている。

 留は変わった。本当にメイナが来てくれてよかったと思う。


「じゃあさ、みんなで言っていこうよ。わっくんが言う『かっこいいセリフ』とやらを!」


 奏音が手を挙げて立ち上がる。


「え! 恥ずかしいのでやめてください」


 メイナが両手を顔の前でぶんぶん振って拒否するが、奏音はそれには応じない。


「じゃあ、あたしからね。最初は、わっくんに彼女ができたって聞いてびっくりしたし、色々起こってパニックだったけど、メイナちゃんに会えて楽しかったよ。この日々は忘れないよ。ありがとう。じゃあ次はりんちゃん!」


 いきなり指名されたりんが、あたふたしながら立った。


「え、指名制なの? まだまとまってないんだけど……。えーと。メイナちゃんが来てくれて、こんなに学校に友達が出来て、同じ委員長の留くんともこうして話せるようになって、本当に現実なのかな、って不安になるときもあるけど、どうしても耐えられない時には『ループ』がある! って思えるようになったのは、本当にメイナちゃんのおかげです。今まで何もないのに泣きたくなったり、胸が痛かったりしたのは、きっと能力のせいなんだって思えたらほっとした。メイナちゃんが教えてくれなかったら絶対不安なままだった。感謝します。……うーん。まとまらないのでこの辺で。次は先輩でお願いします」


「わたしね。分かったわ。ちょっと時間頂戴ね」


 結里が、グラスのお茶を一口飲んでから立ち上がって、話し始めた。


「わたしも、能力だって分かってほっとしたわ。そしてそう自覚したら、必要な情報とそうでない情報が分かるようになったり、事件が起こる前に駆けつけられるようになった。それで事件も未然に防げたわけだしね。これは本当に、メイナちゃんと出会わなかったら無理だったこと。今後は、この能力があるのはなぜなのか考えて、生き方を決めるわ。あと、メイナちゃんと会わなかったら絶対に一つ下の子たちとは仲良くなれなかった。機会を作ってくれてありがとう。……最後はワタルくん。びしっと決めて頂戴」


 結里が俺に向かって親指を立てた。


「えー、ご紹介にあずかりました、土岐亘です」


 俺は緊張して頭を掻いている、と言うポーズでそろそろとその場に起立した。


「そういうのはいいから」


 ちょっとボケてみただけなのに、留から鋭いツッコミが入る。


「では、本題です。メイナが転校してきてからの一か月間、色んなことがありました。……あー。なんか恥ずかしいな、これ」


 照れ笑いをしてみるが、みんな真剣な顔つきでこちらを見ていて、茶化せそうな雰囲気はない。

 俺は覚悟を決めた。


「メイナ。今までありがとう。俺が大人になった頃には、メイナもギリギリ生きてるだろうから、また会えるよな? 遊びに来てくれよ。メイナが事件を解決して、平和になった世界を見にこい。お前が変えたんだ。お前が世界を救ったんだ。また会おう! 以上」


 俺は言い切る前に素早く座り、飲み物をストローで勢いよくすすった。

 顔が熱かった。きっと赤くなってしまっている。

 ずずっという音が聞こえ、いいスピーチが台無しだ、と留が笑った。


「ギリギリとは失礼ですね。私も貴方と同い年ですから、しっかり生きていますよ」


 言葉とは裏腹に、声には覇気がない。

 メイナを見ると、左目からぽとりと涙が落ちて、テーブルの上で跳ねた。


「大丈夫?」


 結里がレースのついたハンカチを取り出し、メイナに差し出す。

 メイナはそれを受け取り、目頭を押さえた。


「すみません。留さんにはあんなことを言っておいて、私は自分の価値を低く見積もっていました。事件を解決するという目的で来たはずが、思いがけずみなさんに色々もたらしていたのですね」

「メイナは、俺たちに『能力』を教えるために来たのかもな」


 何気ない言葉だったが、メイナははっとした顔をした。

 そしてそれからゆっくりと笑顔になった。


「そうかもしれませんね。……そうだといいですね」


 自分に言い聞かせるように、言った。


「みなさん、色々とありがとうございました。荷物をまとめて帰ります。それでは、お先に失礼します」


 メイナが一万円札をテーブルに置き、立ち上がった。


「こんなにもらえないよ!」


 奏音がそれを押し返そうとする。


「いいんです。どうせ向こうでは使えません。それに、これは、私の生きる目的と、能力の価値を教えてくださったみなさんへの、お礼です。取っておいてください」


 メイナが俺たちのテーブルにお辞儀をして、店の出入り口に向かおうとした。


「約束!」


 俺が声を張り上げると、メイナがこっちを見た。ついでに他の客も俺に注目しているが、仕方がない。


「約束だから。絶対会いに来いよ」

「分かりました」


 メイナがにっこりと微笑んだ。


「楽しみにしていますね」


 そういえば、すっかり笑顔が自然になったな。

 そんなことを考えていると、不思議と幸せな気持ちになった。

 メイナが店の外へ出て行くのを、みんなで見守った。

 全員無言だった。




 やがて店の出入り口のベルが鳴り、完全に店内からメイナが出て行ったことを確認すると、奏音が口を開いた。


「ねえ、これからどうする? いい機会だから将来の話でもする?」

「いい機会、かな? まあ、でも、今度メイナちゃんに会った時に、絶望されたくないし、考えといた方がいいかも」


 りんはそう言うと、以前カラオケボックスでそうしたように、ノートとペンを取り出した。


「では、至急会議を開きます。議題は、将来何になりたいかについて」

「なにそれ、唐突! りんちゃんって面白いわね!」


 結里が笑い、みんなも笑う。


「てかさ、ほんとにメイナ帰るのかな? 明日も学校来てそうな別れ方だったじゃん!」

「そうだね。でも、そんな冗談言わないよ、きっと」

「そんなことはどうでもいいから、将来の話しましょうよ」

「なんでそんなに結里先輩は聞きたいんですか?」

「進路に悩んでるのよ……。今年受験生だし」

「そういえば。結里先輩って三年生だった。かわいいから年上ってこと忘れるよね」

「こらー。先輩って呼んでるじゃない。それはおかしいわ!」


 時間は流れていく。

 まだ見ぬ将来に希望を抱きながら。

 メイナは色んなものを俺たちに残してくれた。

 きっとまた会える、そう信じて俺たちはまた、生きていく。

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