第3話
そこからは特に何も変わったこともなく一日が終わり、今に至る。
「あなたが土岐亘ですか?」
「二人で話しましょう」
彼女の声が蘇る。
今日俺は、一度も彼女と話をしていないのだ。
それなのになぜ、彼女は俺の名前を知っているのだろう。
俺を呼び出す理由は何だろう。
疑問は尽きないが、一人で考えても答えは出ない。
俺は意を決して教室の外へ彼女を探しに行った。
「わあっ」
彼女はすぐそこにいた。
教室から横に一歩分離れたところだ。
つまり、扉の横の壁にぴたりと背中をつけて立っていた。
あまりにも動かないから、一回彼女の目の前を素通りしてしまった。
「何してるの」
彼女は、たった今俺の存在に気付いたように、びくりと肩を震わせた。
「私、どこに行けばわかりません」
「は?」
「私は今日転校してきたばかりなんです」
「どういうこと?」
「察しが悪いですね」
彼女が俺をにらんだ。
「だから、この学校の中で、二人きりで話せる場所が分からないと言ってるんです!」
よく通る声で語気を荒げるものだから、周囲の視線が俺たちに突き刺さる。
「分かった、分かったから。落ち着いて。みんな見てるし」
彼女は周りを見渡した。自分たちが注目されていることに気が付いたらしい。
すみませんと口の中で言って、俯いてしまった。
これ以上好奇の目に耐えられる気がしない。
「とりあえず、行こうか」
俺が提案すると、彼女は顔を上げた。
口は真一文字に引かれていたが、やっぱり綺麗な顔だなと俺は思った。