第2話
「あら? みんな学校は?」
制服姿で家に戻ってくる俺たちを見て、母さんが首を傾げた。
「忘れ物!」
「ふうん。遅刻しないようにね」
俺だけではなく全員が靴を脱いで家の中に上がろうとしているのを、母さんは訝しげに見ていたが、それ以上は突っ込むことはせずにキッチンへと引っ込んだ。
全員で留の部屋の前に立つ。
「おーい、留。いるんだろ? 学校遅刻するぞ」
何度かノックしても反応がない。
ドアノブを回す。すんなり扉が開いた。
「入るぞ」
一応声をかけてみるが反応がない。
「たくさんいるとびっくりするだろうから、俺だけで行く」
ついて来ようとするみんなを右手で制し、ゆっくりと留に近づいた。
留は机に向かって座っている。
机の上には、何か部品のようなものが散らばっている。
もっとよく見ようと一歩近づき、まばたきをした瞬間、部品は全て消えた。
代わりに留の手の中に黒い塊が現れる。
「うわっ」
思わず出してしまった声に留が反応し、振り返る。
「うるさいなあ。入るときはノックしてよ」
「したよ。それよりも、それ、何だよ……」
留が持っている「なにか」を指差す。指先が小刻みに震えているのが見えた。
「これ? 内緒。ここにいるってことは、組み立ててるところ見てたんでしょ? 何なのか当てられるはずだよ」
「見てない。部品が一瞬でそうなったんだ。マジックか何かか?」
「まさか、冗談だよね。僕はちゃんと組み立てたよ。あっ」
何かに気付いたのか、留は時計を見る。
「一分も経ってない……」
ボソッと呟くと、手の中の黒い塊を見つめた。
「やっぱり、僕おかしいのかな」
「どうしたんだ。何か悩んでるのか? 俺で良かったら話聞くぞ」
「何にも分かってないくせに兄貴面すんなよ!」
留が、「なにか」を持っていない方の拳を机に叩きつけて立ち上がった。
俺を正面から睨んでくる。
「亘はいいよね。何もしてなくても両親に愛されて、友達も多くて、女の子にも好かれて。そんなのおかしい。僕が間違ってるっていうの? 努力して、勉強も頑張って、それでも亘の方が優れてるっていうの? どうして亘は何も努力してないのに、友達ができるの? 僕にはいないのに。僕は何をしたって愛されない人間なんだ。こんな不平等な世界、もうなくなってしまえばいい。これを投げたら終わる。僕も、そして、お前も。一緒に死のう。そしたら楽になれるはずだ」
留が振りかぶって「なにか」を投げようとする。
俺が左腕で顔を庇おうとしたとき、黒い人影が見えた。
パチンという乾いた音がして、俺はゆっくりと腕を下ろした。
メイナが右手を伸ばした状態で留の目の前に立っており、留はというと、呆然と立ち尽くしている。
その頬が赤く腫れていた。
「どう、して」
留の口から声が漏れる。
「貴方、バカですか」
メイナが肩を怒らせて吐き捨てた。
留は気迫に負けたのか、口を閉じ、俯いてしまった。
「とりあえず、その物騒なものをどこかに置いてください。見たところ、衝撃で爆発するようになっているのでしょう?」
留はこくりと頷くと、黒い塊を机の上にそっと置いた。
「ありがとうございます。少し、話しませんか?」
メイナが言うと、留は椅子にすとんと座った。
「他にもいるんだろ。入れば?」
留がドアの方に向かって声をかけると、俯き加減で結里と奏音とりんが入ってきた。
留はぼんやりとその様子を見ていた。




