第2話
家に着くと、玄関の前で立ち止まる。見た感じでは出てきた時と変わりはない。
扉に耳をつけて中の気配を探るが、何も聞こえない。
俺は後ろを向いて、言った。
「今のところ、特別変わったところはなさそうだ。入ってみるからみんなはここで待ってて」
「でも、体調は大丈夫なの?」
不安そうに奏音が俺に歩み寄る。
「平気、心配しないで」
「私も行きます。土岐亘は私が守るんです」
メイナも一歩前に踏み出した。
「だめだよ。メイナは何かあった時のためにここにいて。指示を出せる人がいた方が、俺も心強い」
メイナはしぶしぶ頷いた。
後ろでガチャリと扉が開く音がして、驚いて振り返る。
「亘、学校に行ったんじゃないの? あら、この子たちは……?」
「母さんか、びっくりさせないでよ。ちょっと理由があって戻ってきた。留は?」
「いつも亘がお世話になっています。……留? てっきり学校に行ったんだと思ってたけど、違うの?」
前半は後ろの女の子たちに、後半は俺に向かって言った。
「分からない。ちょっと俺見てくるよ」
ちらりと後ろを見る。四人とも力強く頷いてくれた。
「あら、そう? お母さんはキッチンにいるから、何かあったら呼ぶのよ」
二人で家の中に入っていく。
俺は階段を駆け上がった。留の部屋の前に着く。
コンコン。二回ノックをする。返事がない。
「留、いるのか? いるなら返事してくれ」
突如、頭痛が襲い、俺はくずおれた。
『うるさい。うるさいうるさい!』
「留!」
喉から声を振り絞る。
「開けてくれ」
目の前の部屋からの反応はない。
俺は左手で頭を庇いながら立ち上がると、ドアノブに手をかけた。
すんなりとノブが回る。そのまま引っ張ると、机に向かう留の背中が見えた。
「留?」
俺は一歩ずつ近づいていく。留は微動だにしない。
肩に右手を置いたとき、留がすごい勢いでこちらを振り向いた。
「邪魔するな」
それは聞いたこともない低い声だった。焦点は全く合っていない。
「大丈夫か?」
いつの間にか頭痛は治まっており、俺はゆっくりと左手を下ろした。
留の向こうの机の上にある、黒い塊に目が留まる。
「それはなんだ」
俺はコードが複雑に絡み合っている「なにか」を指差す。その伸ばした指が震えていることに、気付く。
「え?」
留はまばたきをする。いつもの声に戻っていた。
後ろを向き、「それ」を確認すると、両手で顔を覆い、小刻みに震え始めた。
何やらぶつぶつと呟いている。
耳を澄ましてみると、ようやく何を言っているか聞き取れた。
「どうして、どうしてこんなものを、いつの間に、どうしよう」
「お、おい、大丈夫なのか?」
俺は両手で留の肩をゆする。
びくり、と体が震え、ゆっくりと顔を上げる留。
「許さない」
さっきも聞いた低い声。焦点の合わない目で俺を見据える。
その視線から逃れるように、俺は後ずさりする。
「どうしちゃったんだよ」
留は無言で黒い塊を持ち、後ろに振りかぶった。
「全部なくなっちゃえ。僕が必要とされない世界なんて。僕がバカにされる世界なんて、全部、消えろ」
黒い塊を俺にめがけて投げる。辛うじて避けると、それは開きっぱなしのドアから外へ出て、向かいの壁に当たった。
こつんと「それ」がぶつかる音がしたかと思うと、大きな爆発が起こった。
轟音。衝撃で吹き飛ばされる。まばゆい光。
痛い。熱い。でもそれが本当の感覚なのか分からない。だけど確実に何かが起こっている。
閃光に包まれ、俺は意識を手放す。
外から大きな悲鳴が聞こえた気がした。




