第1話
「いよいよですね」
メイナがいつものように家に迎えに来て、開口一番に言ったが、何のことなのか一瞬わからなかった。
何の問題もなく一日が過ぎ、二日が過ぎたため、このまま何も起こらないんじゃないかと安心しかけていたためだ。
「そもそもメイナがこの世界にいるってこと自体が、事件があった時と違うわけだし、もしかしたら事件はもう防いでるのかもな」
へらへら笑って言う余裕があった。
「おはよう」
奏音が手を振りながら駆け寄ってくる。
「トドメ君いる?」
「今来ると思うぞ」
言いながら振り向くと、留がこちらに向かって歩いて来るところだった。
奏音の姿を認識すると、気まずそうに目を逸らしている。
『なんであんなこと言っちゃったんだろう』
「奏音は深く考えてないみたいだし、気付いてないから、留も気にすんなよ」
そう言って留の肩を叩いたところで異変を感じた。
奏音は、俺を気味悪そうに見ている。
メイナは頭を抱えている。
留は、俺を睨みつけた後、奏音を何か言いたげな表情で見つめている。
そういえばさっき、留の口は動いていなかった気がする。
もしかしてテレパシー? そう気付いたのと、留が踵を返すのが同時だった。
「トドメくん、どこ行くの?」
「ちょっと忘れ物。追いつくから、先に行ってて」
留はこちらを見ないで階段を昇っていった。
姿が見えなくなったのを確認して、俺はその場にしゃがみこんた。
「やらかした!」
「え、ちょっと、わっくんさっきのどういうこと?」
「土岐亘、もしかするとあなたは致命的なミスを犯したかもしれません」
「そんな……」
「何が起こったの?」
「土岐亘は、能力で知り得たことを、現実で話していることだと勘違いして返答してしまったのですよ」
状況が分かっていない奏音に、メイナが説明する。
「それでなんであたしの名前? 気付いてないってなんのこと? 一体何が見えたの?」
「ここで話していたら、留さんをさらに苛立たせてしまうかもしれません。学校に行きながら話すことにしましょう」
メイナが小声で言う。分かった、と奏音が応じた。俺も立ち上がる。
「そうだな、どうせ何かあるとしても現場はあっちなんだから」
しばらく歩いていくと、強烈な頭痛に見舞われた。頭を押さえ、道路にうずくまる。
「どうしたのです?」
「わっくん大丈夫?」
「大変大変!」
いつの間にか一人増えている。驚いて顔を上げる。
「結里先輩……どうして」
「事件の匂いよ!」
「ということは、何かが起こるということ?」
奏音が身震いする。
「土岐亘、何か見えますか?」
メイナの声を聞き、俺は目を閉じた。
『ああ、そうか。あいつは僕を裏切ったんだ』
『僕と仲良くする振りをして、本当は亘と一緒に僕を馬鹿にしていたんだ』
『こんなの、こんな世の中、ぜんぶ』
「なくなってしまえ!」
「え」
「は?」
「へ?」
三人の声がそろう。
その様子を見て、最後の言葉は、自分の口から出たのだと分かった。
「いきなりどうしたのよ」
「留が」
言いかけたところで痛みが襲ってきて、俺は呻いた。
「救急車!」
奏音が叫ぶ。
「だめだ!」
「なんで! このままだとわっくん死んじゃう」
「大丈夫だ、これくらい。それよりも、留がやばいんだ。止めに行かないと」
俺は足に力を入れて、立ち上がろうとした。
上手く力が入らず、再び倒れ込んでしまう。
「みんな勢ぞろいしてどうしたの?」
通りすがりのりんが駆け寄ってくる。
「事件……」
俺が呟くと、それだけで何かを察したようで瞬く間に真っ青になった。
「とりあえず、留さんのところに戻りましょう」
メイナが皆を見回した。俺以外の全員が頷く。
「土岐亘。立てますか?」
メイナが手を差し出してくる。俺はそれを握り返した。
強い力で引っ張られ、地面に立ち上がることが出来た。
「ありがとう」
力なく答えると、メイナがふん、と笑った。
「言ったでしょう、私が守るって」
こうして、みんなで俺の家に戻ることになったのだった。




