第6話
カラオケ店から出たところで、自然と立ち止まった。みんなで円になる。
「可能性が高いというだけで、留さんが事件に関わっているという、しっかりした証拠はありません。そんなに落ち込まないでください。」
一言も話さない俺たちに気を遣ったのか、メイナが口火を切った。
「そうよね。可能性があると分かっただけでも対策はできるわ」
結里が胸の前で両手を握りしめて、励ますようなポーズをとった。
「私、同じクラスの委員長として、もう少し留くんと話してみます!」
りんもやる気だ。
「じゃあ、あたしも。この前ちょっと喧嘩しちゃったけど、それを謝って許してもらう。そして出来るだけ傍にいてみる」
「恋人みたいだな」
俺がからかうと、奏音の顔がさっと赤くなった。
「違うもん、メイナちゃんのためだもん。別にトドメくんのことなんか」
「はいはい分かってますよ」
「……分かってないくせに」
奏音が小声で言う。
「とりあえずみなさんで出来る限りのことはしましょう」
「そういえば、その事件ってのはいつなの?」
俺が問うと、メイナが淡々と答えた。
「三日後です」
俺は唾を飲み込んだ。
「頑張りましょう」
結里が少し上ずった声で言い、その場で解散になった。
次の日。家を出ようと支度をしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「おはよう!」
出てみると奏音が立っていた。
「おはようございます」
その後ろからメイナも顔を出す。
「おはよ。どうしたんだ二人そろって」
奏音がメイナのいる方を指差した。
「さっきそこで会ったの。ちょうどいいから四人で学校に行こうかと思って」
「四人?」
「そう! あたしと、メイナちゃんと、わっくんと、トドメくん」
奏音が元気よく言う。
「朝っぱらからうるさいんですけど。静かにしてくれないかな」
声の方を振り向くと、寝ぼけた顔の留がいた。目をこすりながら歩いて来る。
「あ! トドメくんおっはよー」
留は顔を上げて、相手が奏音だと分かった瞬間に、慌てて下駄箱の後ろに身を隠した。
「珍しく眠そうだな」
「うるさいな。亘には関係ない」
顔を洗ってくると言って、留は駆け足で洗面所へと向かった。
「変だねえ」
奏音が不思議そうに呟く。
「やっぱそう思うよな?」
洗面所の方を見つめたまま答えた。ばしゃばしゃという水音だけが聞こえてくる。
「昨日何かあったのですか」
「いや、特になかったと思うけど。留と話してないからな、何とも」
「最近、わっくんの能力は発動してないの?」
「それが全くなんだよ。自然には見えないし、意識しても見えない」
「使えませんね」
メイナは口の中で言ったが、しっかり俺の耳には届いている。
「どうしようもないだろ! 能力なんて使い方分かんねえし」
「まあ、わっくんが当てにならないなら、あたしが聞き出してみるよ」
「それがいいかもしれませんね。どうやら土岐亘は留さんに敵対心をもたれているようですから」
真顔で言い切ると、メイナがこちらに手のひらを伸ばしてきた。
「さあ、行きますよ」
「え? まだ留来てないけど」
「貴方はどこまで頭が悪いのです? 土岐亘と私がいたら、留さんは三浦さんに話しかけづらいでしょう?」
「そうかなあ」
「そうです!」
俺はメイナに強引に引きずられながら家を出た。
引きつった顔で、奏音が「行ってらっしゃい」と手を振ってくれた。
「留を頼んだぞ」
と言うと、奏音は親指を立てた。




