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第4話

「それでメイナちゃんは、ワタルくんの名前を誰かが呼ぶのを聞いて、この世界に来た。そういうことなのね」


 結里が話をまとめてくれる。

 メイナが頷いた。


「あの……ずっと気になってたんだけど」


 誰かが話していたら聞こえなかったであろう、か細い声でりんが言った。


「過去を変えてしまったら、未来に影響はないのかな?」

「それについては問題ありません。ここは、私がいた世界とは別の世界なので」


 えっ、と声をあげたのは、りんではなくて俺だった。


「どういうこと、なの?」


 俺の代わりにりんが質問を続けてくれる。


「私の能力は、確かに過去に行けるものです。ですが、自分が過ごしている時間軸とはずれた世界の過去になります。分かりやすく言えば、パラレルワールドです。つまり、世界線が違うわけなので、お互いに干渉することはありません」

「ちょっと待ってくれよ。じゃあメイナは何しにここに来たんだ? 俺はてっきり、過去を変えるためだと思ったんだが」


 俺が言うと、みんなの口から疑問が溢れだした。


「そうよ。メイナちゃんが『事件』に興味を持ったことは分かったけれど、それを何とかしなければと思う理由が分からないわ」

「うんうん。自分の住んでいる世界に関係ないんだったら、もう放置しちゃえばいいじゃん。もしあたしがタイムスリップを使えたって、織田信長を助けてあげようなんて思わないもん」

「わ、私もそう思います。どうしてそんな大変なこと……」


 メイナが手を叩いた。二回。

 部屋にそれが響いて、一斉に口をつぐんだ。


「みなさん、私が答えていないうちに喋らないでください。誰の疑問から解消するべきか分からなくなるじゃないですか。……まあいいです。答えは一つです。決まっています」


 メイナの回答を、四人が固唾をのんで待った。


「一言で言います。『分からない』です」


 俺は椅子からずり落ちそうになった。

 他の三人も、そこまではいかないまでも、拍子抜けしたようで、首を傾げてまばたきを繰り返している。


「そんな顔をしないでください。からかっているわけではなく、私にも分からないのです。来るべきだ、この事件はなかったことにすべきだ、という直観に基づいて動いただけで、私も、自分がこの事件に関わってどうなるのか、ということははっきりと分かっていません。ただ、私はみなさんに出会えました。これは、私の使命や定めに大いに関係があることだと思います。みなさんの能力もそうです。だから、こうして集まっていただいたわけです。ここにいる五人の能力を整理してみれば、事件に関して何か分かるのではないでしょうか。これは私の仮説に過ぎませんが、やってみるだけ価値はあると思います。いかがですか?」


 一気に言うと、メイナはグラスに口をつけた。お茶を飲み干すと、ふう、と息を吐いた。


「分かったような分からないような……」


 俺が呟くと、メイナに睨まれた。

 私だって分からないまま喋ってるんです! とでも言いたいのだろう。


「そ、そうね。メイナちゃんの言う通り、やってみましょうか」


 結里がメイナに同意するが、少し声が上ずっている。


「あ、私ノートとペン持ってます!」


 すかさず、りんが鞄をあさる。


「あたし、喉乾いちゃった。ちょっと飲み物取ってくるね。他に欲しい人いる?」


 奏音が席を立った。メイナがグラスを突き出した。


「お茶お願いします」

「了解!」


 俺は座ったままその光景を眺めて、何かが始まってしまうんだなあとぼんやり考えていた。


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