第1話
留視点です
僕は亘のことが嫌いだった。
母は常に言っていた。
「妊娠中は一人だと思ってたんだけど、産んでみたら二人いたのよね。もしかしたら生まれる直前に亘と留に分かれたのかもね」
きっと、見えなかったもう一人の方は僕だ。根拠はないけれどそう思う。
僕は昔から、自分の名前が嫌いだった。「亘」と比べて、「留」はすごくネガティブな感じがする。だから、両親は僕よりも亘の方が好きなのだと思う。
亘は自由奔放でも怒られなかった。むしろ、元気でいいと褒められていた。
僕は鍵を預けられていた。しっかりしているからという理由だったが、体のいい押しつけだったのだろう。
それこそ小学生になる頃までは、亘のことが好きで、ついて回っていた。
ただ、病気で寝込んだ時に来てくれた友達の数が全然違ったことで、嫌いになった。
始めに亘が風邪で学校を休んだ。一緒に遊んでいた十人ほどがそれぞれお見舞いのお菓子を持って訪ねてきてくれた。
亘が再び学校に行き始めた日に、今度は僕が熱を出して休んだ。お見舞いには誰も来てくれなかった。亘も、元気になったのをいいことに、遊びに行ってしまった。
僕が遊んでいたのは、僕の友達ではなくて、亘の友達だったと悟った。
「トドくん」と呼ばれていたのは、愛称ではなく蔑称だったのだと気付いた。
そこから僕は、亘の友達とはつるまなくなった。
クラスでも孤立するようになったが、本を読んでいれば何も考えずにいられた。
ある時突然気付いた。二ページ目を読んでいたはずなのに、いつの間にか百ページ目になっていたり、作りかけだったはずのプラモデルが完成していたりした。
指にチョークのような白い粉が付いていた時もあった。
しかし、眠っていたのかと思って時計を見てみると、一分も経っていないのだ。
少し怖くなったが、相談できる相手もいない。僕はどんどんふさぎ込んでいった。
そんな僕にも分け隔てなく接してくれる人がいた。それが奏音だった。
奏音は優しい。でも奏音は亘のことが好きみたいで、そこは不満だった。
何でみんな亘ばかり構うんだろう。
あいつなんて、運動しかできない馬鹿なのに。
僕は勉強ができるのに。頭がいいのに。
……なんで僕には友達がいないのだろう。
不満が募っていった。
人に求められたい。いつしかそれが僕の願いになっていた。




