第7話
「りんちゃん、具合は大丈夫?」
机に座り、手を叩いて笑っているギャル集団の横を通り、奏音が席について俯いている三つ編み少女に駆け寄っていった。
「う、うん」
奏音の後ろからついてきた俺たちに戸惑った様子で、りんと呼ばれた少女が答えた。
「……泣いてるの?」
「え? 泣いてないよ」
ぽろり、と両目から涙がこぼれる。
「あれ? どうしてだろう」
それを手で拭いながら、不思議そうに奏音を見上げた。
「三浦さん、この人は?」
メイナが奏音に聞いた。
「私の隣の席の、輪島りんちゃん。トドメくんと一緒に委員長をしているんだよ」
「ど、どうも」
どもりながらぺこりとお辞儀をする。
「俺は土岐亘。留の兄だ」
「覚張結里よ。よろしくね」
「天翔メイナです。ところで貴女、先ほど能力を使いましたね?」
自己紹介もそこそこに、メイナはりんを問い詰めた。
「へ?」
事情を知っている俺でさえ、一瞬理解が遅れたのだから、初めて聞いたりんが戸惑うのも無理はない。
「いいえ。使ったというよりは、防衛反応で発動したのでしょう。何か嫌なことでもあったのではないですか?」
「そんな……私覚えてない」
「さっきカノンちゃんが言ってたことが、時間が巻き戻る前だとしたら」
結里は記憶をたどるためか、右上を見つめている。
「りんちゃんは、濡れ衣を着せられたのかもしれないわ」
その言葉を聞いて、りんの目から再び涙が溢れだした。
「あ、あれ……? 私なんで、泣いてるんだろう」
「とにかく、何かあったのは間違いないようですね。そして、時間が巻き戻った。これは能力以外の何物ではありません」
「……さっきから能力、能力、ってどういうことなの?」
奏音が小さく手を挙げている。
「さっき、みんな持ってるって言ってたけど……正直よく分からないよ」
素朴な疑問を口にする奏音。その隣で、りんが高速で頷いている。
「そうですよね。まだきちんとお話ししていませんでした。きっと、この短期間でこれだけの人たちが集まったということは、何か意味があるのでしょう。今日の放課後、時間を取ってお話しします」
メイナが言った。
ちらりと時計を見ると、次の授業が始まるまであと五分だった。
そろそろ戻らないと、とメイナに声をかけようとしたとき、後ろから肩を叩かれた。
びくりとして振り返る。
「あのさ」
机に座っていたギャルだった。
「あんたがいると着替えらんないんだけど。一応ここ、女子の更衣室その二だから」
周りを見渡すと、確かに男子はいない。廊下から男子の声が聞こえるから、恐らく女子が着替え終わるのを待っているのだろう。
「し、失礼しました!」
俺は慌てて教室の外へと向かった。後ろからギャルの笑い声が追いかけてくる。
「亘じゃないか。うちのクラスから出てきてどうしたの? もしかして堂々としたのぞき?」
扉を出たところで留に呼びとめられた。
「断じて違う! そもそも、どうして更衣室があるのに、女子が教室で着替えてるんだよ」
「それは、あいつらが権力を持っているからさ」
留が遠い目をした。これ以上は聞かない方が良さそうだ。
「そうか。じゃあな」
俺が踵を返して立ち去ろうとすると、留が俺の肩に手を置き、耳元で囁いた。
「これ以上、変態行動を起こしたら、学校にいられなくなっちゃうね。兄さん」
「お、おいっ!」
振り向いて言い返そうとすると、そこにはもう留はいなかった。
「土岐亘、行きますよ」
代わりにメイナと結里が立っている。
「ワタルくん、どうかした?」
結里が俺の前で手のひらを上下に振った。
「大丈夫です、何でもありませんよ。授業に戻りますか」
俺は大きく伸びをした。なんだか疲れた。
「覚張さん。放課後、昇降口に集合ですよ」
「分かったわ。また会いましょう」
結里がポニーテールを揺らして、自分のクラスへと戻っていった。
「……放課後まで何も起こらなきゃいいけど」
ぼそっと呟くと、メイナがこちらを一目見て言った。
「きっと大丈夫ですよ。あと、何か起こったら、私が守りますので。ご安心ください」
拳を顔の前で握りしめ、ドヤ顔をするメイナ。
「はは、頼もしいな。でもそれは、男が言うセリフだ」
「土岐亘では頼りになりません」
メイナは口をとがらせている。
「ひどい!」
こんな日常が続けばいいなと俺は思った。




