第3話
下を向いた俺に、メイナが耳打ちした。
「土岐亘、大丈夫ですか?」
相変わらず抑揚のない声だが、俺のことを心配してくれているらしい。
「まあ、何とか。実際やったのは俺だから仕方ない。とはいえ結構来るな」
乾いた笑い声を交えて答える。
頭を上げると、口をへの字にして眉を下げているメイナの姿があった。
「そんな顔するなよ。俺たちも帰るぞ」
「わかりました」
お騒がせしました、と教室に向かって一礼すると、メイナは廊下へと歩みを進めた。
「どうにかして土岐亘の潔白を示せないでしょうか」
しばらく無言で歩き、昇降口にさしかかった頃、メイナがようやく口を開いた。
「もう完全に嫌われちゃったからな。話も聞いてくれないかも」
「私が説得します」
「どうやって?」
「……それは、後で考えます」
メイナが俯いた。
「気を遣ってくれてありがとうな。そういえばさっきの話だけどさ。俺の能力、テレパシー、だっけ」
「はい」
俺はメイナを見る。
「留の思考が見える、って言ってたけど、じゃあ『ずるい』とか『めちゃくちゃになってしまえ』とかは、あいつの感情だってことか?」
「まあ、そうなりますね」
「そうか……」
留は俺のことを恨んでいるのだろうか。
全くと言っていいほど思い当たる節がなかった。
俺から見て、留はとても優秀な弟だ。
テストの成績で学年一位を逃したことがないし、先生や両親からも信頼を得ている。
実際、今は学級委員長を任されているのだ。小さい頃から、母親から鍵を預けられるのは留の方だった。
そんな弟が俺に対して「ずるい」という感情を抱くとは思えない。
「俺に流れこむ留の思考は、俺に向けられているものだとは限らないんだよな?」
「普通は『定め』に関係があるときにだけ、能力が発動するはずなんですが、この時代の人は自分の能力を認識していないようですし……。まだ完全にコントロールできていない状態では『定め』と関係ない時でも、能力を発揮することもあるのかもしれませんね」
黙って考え込む俺を見て、メイナが首を傾げた。
「土岐亘、どうしました?」
「留が俺に『ずるい』って言うのは考えられないから、一体誰に対する感情なのかなと思ってさ」
「そうでしょうか」
メイナが下駄箱から靴を取り出しながら言う。
「隣の芝生は青い、と昔の言葉で言うでしょう?」
「どういう意味?」
「自分で調べてください」
呆れ顔でため息をついている。
「どうせ俺はアホですよ」
一拍置いて、メイナが俺の顔を見た。
「そういうところだと思いますよ」
「どういうこと?」
「……自分で調べてください」
「調べても出ないだろうが。どうやって調べればいいんだよ」
俺が言い返すと、メイナがかすかに笑った。
「元気になってよかったですね」
突然の言葉に戸惑う。
「なるようになる。いや。なるようにしかならない、ですよ」
よく分からないが励ましてくれているらしい。
「ありがとう」
校舎から一歩外に出ると、夕日に染まった空が見えた。
「今日も一緒に帰るのか?」
「土岐亘がそう言うなら、一緒に帰ってあげないこともないですよ」
「お前めんどくさいな」
「メイナです。お前じゃありません」
「やっぱめんどくさい」
「うるさいですよ。明日も迎えに行きますから。今度はあまり外で待たせないでくださいね」
夕日によって染められたメイナの横顔は、とても綺麗だった。




