第1話
俺たちは三人で相談して、留と奏音への接触は放課後に決めた。
メイナと連れ立って教室に戻る。
教室の前で、顔を見合わせて頷いた。
ガラリと扉を開ける。
ひんやりとしたクラスメイト達の視線が突き刺さる。
誰も何も言わない。聞いてくれた方が弁解もできるのに。
仕方ない。
「あーあー。三浦さんの恋愛相談に付き合うの大変だったなー。俺だけじゃあ心もとないからメイナについて来てもらって正解だったわー」
大きすぎる独り言を口にした。メイナがいぶかしそうに俺を見る。
「でもさ」
教室の後ろから震えた声がした。水田だった。
「さっき、隣のクラスで奏音様のスカートを亘がめくったって……」
俺は絶句した。こいつも奏音の親衛隊だったのか。……じゃなくて。
このクラスにもさっきの騒ぎは伝わっていたのか。
きもい、そんなやつだったなんて、と声が広がっていく。
どう答えようと考えあぐねていた時、隣で大きな声がした。
「土岐亘ではありません」
時が止まった。もちろん本当に止まったわけではないが、そう思うほどの静寂が訪れた。
「土岐亘はそんなこと、しません。私は転校してきたばかりですが、この人が自分の意思でそんなことをできる人間だとは思いません。何か、手違いが起こったのです」
メイナは一旦そこで言葉を止めて、歩き出した。
「いいえ、土岐亘だけではありません。この時代の人間は、能力を自制することができていません。きっとそれが能力の暴発の原因でしょう。だからこそ私が……」
最後の方は聞き取れなかった。
そして、話し終えるとメイナは自分の席に着いた。
「な……」
クラスメイトは、突然流暢に喋りはじめたメイナに面食らったようだった。
「よく分からないけど、亘のせいじゃないってこと、だよな?」
水田が俺の顔を見た。メイナがじっと俺を見つめている。
「ああ」
教室の中の空気が弛んだのを感じた。
「亘がそんなことできるわけないよな」
「よかった、嘘だった」
「てか、天翔さん面白いね」
「うける。何言ってるのかさっぱり分かんなかったけど」
俺は男子に、メイナは女子にあっという間に囲まれた。
「今朝から変だったけど、転校生に何か脅されてんの?」
お調子者が声を潜めて冗談を言う。
「本当は転校生と付き合ってんだろ、隠さなくていいんだぜ」
「奏音様の恋愛相談とは、どのようなものでしたか? 教えてください」
愛想笑いを浮かべながら、横目でメイナの様子をうかがう。
「私もメイナちゃんって呼んでいい?」
「天翔さんって、ラノベ好きなの?」
「わたしも思った! 話し方も話してる内容も、アニメキャラっぽかった」
「友達になって!」
メイナの少し引き上げた口角が、ぴくぴくと動いていた。
思わず下を向いて吹き出してしまう。
「あ、こいつ、俺たちの話に答えないで、天翔さん見てる!」
「メイナちゃん、顔真っ赤だよ」
「やっぱり付き合ってるんだろ」
「ひゅーひゅー。おめでとう」
反論しようと口を開いたとき、始業のチャイムが鳴り、後ろからドスの利いた声が聞こえた。
「何の騒ぎだ。席に着け」
大きな世界地図と教科書を抱えたゴリラマッチョだった(こう見えても担任は世界史の先生だ)。
慌ててみんな席に戻る。
こうして俺とメイナは、否定することができずに、クラス公認カップルになってしまったのだった。
そして、メイナはオタクと決めつけられ、そういう友達がたくさんできるのだが、それはまた別のお話。




