第7話
奏音がお昼を持ってきていないということで、学食に行くことにした。
財布を取りに、みんなで奏音のクラスに向かう。
教室に着くと、一番前の出入り口に近い席で、留が文庫本を片手に弁当を食べていた。
「トドメくんのお弁当は今日もおいしそうだねえ」
奏音が声をかける。瞬時に真っ赤になった留が、ためらいがちに言った。
「あ、よかったら、食べる?」
箸で黄色い卵焼きを持ち上げ、顔を上げる。
そして、俺と目が合った。
「残念でした。奏音ならもうあっちだよ」
にやりと笑いながら、窓際の真ん中のあたりを指差す。
奏音は、隣の席に座る三つ編みの大人しそうな女子と談笑していた。
留が無言でにらんでくる。
「おお、こわっ」
俺は両手で肩を抱え込んで、大げさに怖がって見せた。
「土岐亘、この人は誰ですか?」
メイナが俺のブレザーの裾を引っ張ってくる。
「そうだな、紹介するよ。俺の双子の弟の留。そしてこっちが転校生の天翔メイナ」
後半は留に向けて言った。
「あ、今朝の」
留は無遠慮にメイナの全身を見ている。
「今朝ですか? お会いした覚えはありませんが」
「窓から見えた。ふうん。ところできみは亘の彼女?」
「彼女ではありません」
きっぱりと否定されて、少しショックを受けている俺がいる。
「あっそう。まあいいや。それで、何の用?」
「今日は留さんに用はありません」
留はむっとした表情を浮かべた。
「じゃあ誰?」
「あの人です」
メイナは奏音を指差した。奏音は、財布を片手にこちらに向かってくるところだった。
口の形で「あたし?」と言いながら首を傾げている。
「あの人は、土岐亘とすごく仲が良さそうでした。SHRの前に二人で飛び出していき、一時間目の途中まで戻ってきませんでした。私は、土岐亘に会いに来たので、土岐亘のことを知っている人に話を聞きたいのです。今日はあの人に決めました」
「お前もか……」
留はボソッと呟いたのに、俺にははっきりと聞こえた。
「留?」
俺は心配になって留の目をのぞき込んだ。
何となく、嫌な予感がしたのだ。
その時、視界がブラックアウトし、ある言葉が頭に飛び込んできた。
『どうして。めちゃくちゃになってしまえ』
何だこれと思う間もなく、気付いたら、隣に立っている奏音のスカートに手を伸ばし、めくり上げていた。
レモン色。デジャブだ。
……いや、そうじゃない。下着はきちんと上下揃えるタイプなんだなとこの場にそぐわないことを考えていると、乾いた音と共に、頬に衝撃を受けた。
「最っ低!」
右手を振り上げたまま涙目の奏音が吐き捨て、教室から飛び出して行った。
「土岐亘、何をしているのですか」
メイナの声も怒りを含んでいる。
否定しようと口を開きかけたが、スカートの少しざらりとした感触がこの手に残っていた。
留は、呆然と俺を見つめている。
「どうしてこんなこと……」
俺は両手で顔を覆った。
突然、ドアに何かがぶつかる音が静寂を破った。音の発信源を見る。
「事件ね! あら、また会ったわね」
そこには、痛そうにおでこをさする結里の姿があった。




