第6話
短めです。すみません。
授業に遅れたことは少し咎められたものの、奏音とのことは特に追求されることはなく、昼休みになった。
授業が終わり、伸びをしながらあくびをしていると、背後から声が聞こえた。
「土岐亘。一緒にご飯を食べましょう」
後ろ手に弁当袋を持ったメイナだった。
俺は、飛び上がって椅子から落ちそうになった。
「メイナか。気配消して近づいてくんなよ……」
「消した覚えはありませんが」
メイナは不思議そうに首をひねっている。
「ああ、そうだろうな。ところでさ」
周囲を見渡してみる。
昼休みに入ったばかりということもあって、俺たちに注目している人はいない。俺は声を落とした。
「お昼って二人で?」
「いえ」
メイナが教室の出入り口を指差す。
「あの方も一緒です」
そちらを見ると、奏音が扉に手をかけて、半身でこちらを覗いていた。
「約束したのか?」
いつの間にそんなこと、と動揺していると、メイナが言った。
「いいえ。これから約束します」
言い返す間もなく、メイナは奏音の方につかつかと歩み寄り、対峙すると立ち止まった。
例の通る声で、言い放つ。
「そこのあなた。私と土岐亘と一緒にご飯を食べましょう」
奏音は大きく瞬きを二回すると、無言のまま固まった。
クラス中の視線が二人に集まる。
「あ、あたし……?」
恐る恐るという感じで奏音が答えると、メイナは頷いた。
「はい。私はあなたのことを知りません。ですが、今朝の様子を見ると、土岐亘と深い関係にあるように見えました。土岐亘に会いに来た私としては、いろいろとお聞きしたいことがあります」
動揺の波が、奏音からクラスメイトへと伝わっていく。
「土岐が奏音様と『深い関係』……?」
「『土岐亘に会いに来た』って言ったよな?」
「亘は否定してたけど、やっぱり付き合ってるの?」
「天翔さんはあいつのどこがいいんだろう」
「三浦さんに嫉妬?」
このざわめきはあの二人にも聞こえているはずだ。
メイナはともかく、奏音はどう思っているのだろう。
しばらくの沈黙の後、奏音が口を開いた。
「分かった。ちょうどよかった。あたしも、わっくんと話がしたいと思ってたんだ。三人でご飯食べよう」
奏音がこちらを見た。それにつられて、メイナも振り向く。
「さあ、行きましょう」
メイナが一歩前に踏み出し、俺のいる方向に右手を差し出した。まるで王子様みたいだ。
奏音を見返すと、力強く頷いている。
俺は仕方なく弁当箱を取り出すと、クラス中の注目を浴びながら出入り口へと歩き出した。




