第3話
通学中の道でも、昇降口に入る時でも、ちらちらと刺すような視線は感じていた。
そしてそれは、教室に入った瞬間にピークに達した。
後ろのドアから入ったため、まずはメイナが席に着く。
水田が俺とメイナを交互に見比べて、口をあんぐりと開けていた。
メイナは相変わらずすまし顔だ。
「おい、呼び出しの次は一緒に登校か?」
お調子者の男子がからかう。
「許せない。私とは一言も喋ってくれなかったのに、亘は天翔さんと話してるなんて」
女子が拳を握りしめる。
俺の背中を一筋の汗が伝った。
想像と違う。こんなはずじゃない。メイナに恥をかかせる予定だったんだ。
なぜ俺が責められて、メイナが平然としているんだ。
「俺のせいじゃなくてあいつが勝手に」
「わっくん。彼女出来たってホント?」
ガラガラという扉を開く音とともに大声を出す女子に、言葉を途中で遮られた。
クラス中の視線がそちらに注がれる。
ふんわりとウェーブがかかった少し茶色い髪の毛に、パッチリ二重でくりっとした目。
ボタンがはじけ飛びそうなほど豊かな胸。
手足もすらっと長くモデル体型。
身体能力もよく、成績は常に女子で学年トップ。
そんな、俺の幼馴染の三浦奏音だ。
才色兼備の学年一の美少女、と言われているが、小さい頃からの付き合いがある俺からすれば、そんな綺麗なもんじゃない。
俺は頭を抱えてため息をついた。寄りにもよってこんなうるさいやつに嗅ぎ付かれるとは。
俺の様子やクラスの雰囲気など気にも留めず、奏音は小走りで近づいてくる。
「ねえねえ。わっくん、ホントに彼女出来たの?」
俺は見せつけるように大きく息を吐いた。クラスメイト全員に聞こえるくらいの声で答える。
「出来てないっつーの。だいたい、あいつが勝手についてきただけで」
ちらりとメイナの様子をうかがう。前を向いて微動だにしない。
なぜだか胸が痛んだ。
「ふーん。そうなんだあ」
奏音はがっかりしたようなほっとしたような表情を浮かべている。
「そういやお前違うクラスだろ。誰から聞いたんだよ」
「ん? トドメくんだよ。今日登校中に会ったんだあ」
「あいつ……」
奏音にまで喋ったのかよ。早く誤解を解かないと。
「あのね、わっくん」
どうやって弁解しようか。とりあえず、ここではメイナとの関係は否定できたし、とそこまで考えたところで、周りの空気が最初と違うことに気付いた。
「今日の昼休みさ……」
メイナとのことを疑われている時は、好奇のまなざしだったが、今は確実に睨まれている。
主に男子に。
ハッと気づいて隣を見る。奏音の真ん丸な目が俺を見ている。
「なんであいつが奏音様に……」
「気安く話をするなど、許されぬ行為だ」
……うちのクラスに熱心な親衛隊がいることをすっかり忘れていた。
「あー。ちょっと用事思い出したわあ」
今後、平穏な日常を送るためには、逃亡するに限る。
「えっ、わっくん突然どうしたの? 棒読みだし」
「それでは三浦さん、さようなら」
「ちょっと、え、待って。どうしたの。三浦さん? えっ、わっくん!」
俺は奏音に背を向けて、前のドアから飛び出した。全力ダッシュだ。
「待ってよー! まだ話し終わってない」
奏音が追いかけてくる音がする。さすが身体能力ナンバーワン。差がどんどん詰まっていく。
「あ、トドメくんおっはよー!」
擦れ違う人にあいさつする余裕まである。
その時だった。一瞬カメラアングルが切り替わるように、俺が奏音に追いかけられている映像が見えた。そして。
「廊下は走るな!」
担任のゴリラマッチョの叫びと共に、聞こえた。
『どうしてあいつばかり。ずるい。許さない』
映像と声に気を取られて前を見ていなかった。曲がり角で何かに躓いた。
「わっ、急に止まらないでよ!」
追いついた奏音が、速度を落としきれずに背中に衝突した。
そのまま前のめりに倒れ込む。俺の視界は真っ暗になった。




