プロローグ
11/7 プロローグ追加いたしました。
少女は、上空から爆発の瞬間を見ていた。
生徒用昇降口に投げ込まれたと推定されている爆弾は、小型ではあったがその威力は十分だったらしい。このことは先ほどの授業で習った。
大きな爆発音とともに、何かが飛び散り、辺りが真っ赤に染まった。
「土岐!」
「亘くん!」
声が聞こえる。泣き声。叫び声。
爆風によって、肩のあたりで切りそろえられた少女の髪は逆立ち、制服のスカートはめくれあがっている。
校舎は赤々と燃え続けている。
朝の登校の時間帯だったこともあり、死傷者は多かった。
犯人も巻き込まれて死亡したという。
少女はきつく拳を握りしめた。
授業で、少女はこの爆発事件のことを聞いていた。
「三十年前の今日、みなさんのように前途有望な生徒たちがたくさん亡くなりました。今後このようなことがないように、能力の暴発には気をつけてくださいね」
歴史を担当する女性教師が悲しそうに言った。
話を聞いた生徒たちも一様に顔を曇らせていたが、少女はどんどんと心拍数が上がっていた。
どうしてもこの事件を見てこなければならない。
強い思いが脳裏をよぎった。
どうしてそんなことを、と考えるのと同時に、自分にはタイムスリップの能力があることを思い出した。
きっとこのために使う能力なのだろう。確信する。
少女は授業が終わると即座に自分の力を使って、三十年前の今日へと向かった。
そして冒頭へと至る。
少女はもちろん事件の概要は知っていたはずだった。
死傷者数、建物への被害、復興のための資金。
しかし、被害は数字だけでは測れないということを、今の瞬間に悟っていた。
悲惨さは、目の前で起こってみないと気づけないのだ。
少女は唇をかみしめた。
そして、自分の役目を理解した。
「私はこの事件を防ぐために、タイムスリップの能力を持って生まれてきた。そうに違いない」
涙が左目から滑り落ちた。
少女は現場に背を向けると、再び元の世界へと戻っていった。
「とき、わたる」
この世界に小さな呟きを残して。