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ダイエットや~めた  作者: Futahiro Tada


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ダイエットや~めた

二人は歩いて、溝の口の丸井へ向かうことになった。臺と理沙が通っている図書館から丸井までは徒歩で二〇分ほどである。それほど遠くないが、少し歩く。理沙は丁度良い運動になると思い、一生懸命歩いた。横を歩く臺はぜぇはぁと息を荒げながら歩いている。やはり太っていると歩くのも辛いのだろうか?

 午後三時半――。二人は丸井に到着する。平日の昼ということもあり、そんなに混雑はしていない。二人は直ぐに地下にある食料品売り場へ向かった。

 目当ての桑の葉ソルトは直ぐに見つかった。塩が売っているコーナーにひっそりと売っていた。小さな瓶に入っている。恐らく五十グラム程度だろう。それで五百円だからなかなか高い。塩というと、普通は白だが、桑の葉が混ざっているということもあり、桑の葉ソルトはこげ茶色をしていた。

「これが桑の葉ソルトですね?」

「そうだよ。この近くだとここでしか売ってないから貴重なんだ」

 臺はそう言うと、塩売り場から離れて行き、一人惣菜コーナーへ向かって行った。理沙は桑の葉ソルトを手に取りながら、臺の背中を追う。臺は惣菜コーナーに置いてあるおはぎに目を留め、それをまじまじと見ている。まさか、あれだけ昼ご飯を食べたというのに、おやつまで食べようというのか?

「う、臺さん」理沙は言った。「何してるんですか?」

 すると臺はあんこときな粉がたっぷりとついたおはぎを手に取りながら、

「何って、おやつを買うんだけど」

「おやつって、臺さんはダイエット中ですよね?」

「う、うん、まぁね。一応ダイエットをしているよ」

「ダイエットしていたら、こんなカロリーの高いお菓子食べちゃ駄目ですよ。おはぎって一個一八〇キロカロリーあるんですよ。それに臺さんは昼に二〇〇〇キロカロリー近く摂ってますから、明らかにカロリーオーバーです」

「君はほんとにグーグルみたいだねぇ。どんな食材を言ってもパッとカロリーが出る。凄いよ。僕は確かにダイエットしてるけど、食べたい物を食べられないのは辛いなぁ……。やっぱりどうしても食べたくなっちゃうよねぇ」

 ダイエットをしている限り、食べたい物を食べられないというのは永遠の課題だ。美貌を取るか、食事を取るかなのである。特に理沙のような憧れの体型に強く惹かれる年代では美貌を取る人間が多い。

「ねぇ。半分ずつ食べない? そうすればカロリーも半分になるよね?」

「あ、あたし、そんなもの食べられませんよ」

「どうしてさ。ちょっとくらい食べた方が良いんじゃないの? 僕、ちょっと調べたんだけど、チートデイっていって何でも沢山食べて良い日を一〇日に一度くらい作ると、ダイエットに効果があるって聞いたんだけど」

 いわゆる爆発の日というダイエット方法である。無論、そのダイエット方法を知らぬ理沙ではない。チートデイは確かに有効なダイエット方法らしいのだが、食べるということが怖い理沙にとっては、なかなか出来ないダイエット方法であった。

「あたし、そのダイエット知ってます。だけど、沢山食べても良い日が一日って言うことが悪魔なんです」

「へ? 悪魔?」

「そうです。何でも食べられるからといって、食べてしまうと、次の日もまた食べたくなります。その呪縛から抜け出すのは並大抵のことではありません。それが三日も続けば立派なリバウンドの完成ですよ」

 それを聞いた臺はグッと息を詰まらせた。

「確かにそうだよね。はぁ、でもダイエットって本当に大変だ。どうしよう? やっぱおはぎ食べちゃ駄目?」

 子犬のような目で臺は理沙を見据える。自分のことではないし、むしろ臺が太っていく姿が見たい理沙は、OKを出そうと思ったが、ここは心を鬼にして、

「駄目です。そんなにお菓子が食べたなら、良い物があります。カロリーゼロのゼリーです。あれなら食べても良いんじゃないですか?」

「ゼリーか……。僕はもっとボリュームのあるのが好きなんだけどなぁ。だけど仕方ないか。でもカロリーゼロなら理沙ちゃんも食べられるんじゃない」

「まぁゼロなんで良いですけど……。でもどうしようかなぁ」

 迷う理沙であったが、臺に押し込まれ、仕方なくゼリーを買うことになった。

 臺と理沙の二人はゼロキロカロリーのゼリーを買うことに決め、会計を済ませ、再び図書館に舞い戻った。

 図書館に着き、二人は休憩所のベンチに座り、そこで買って来たゼリーを食べることになった。休憩所は閑散としており、一人の老人がタバコを吸っているだけである。

 臺はベンチに座るなり、直ぐにゼリーを食べ始めた。余程お腹が空いていたのであろう。昼ご飯にたんまりとパンやケーキを食べたとは思えない食欲である。理沙は唖然としながら、自身も買って来たゼリーの封を開けた。

 カロリーゼロのゼリーは頻繁に食べている。色んな味があり、飽きることがない。理沙はゼリーを一口食べる。甘さが口いっぱいに広がり、幸せな気持ちになる。これでカロリーがゼロなのだから凄いことだ。そう思いながら、理沙はゼリーを食べ続ける。チラと臺を見ると、あっという間にゼリーを平らげ、空きカップをゴミ箱に捨てている。本当に食べるのが早い。もっと味わえば良いのに。太っている人は基本的に早食いの人が多い。よく噛めば満腹中枢に指令が行って沢山食べるのを抑えられるのに、よく噛まないものだから、一気に大量に食べてしまうのだ。

「臺さん。もう食べたんですか?」

 理沙が呆れ顔で尋ねた。すると臺は、

「うん。美味しい物は直ぐに食べちゃうんだ」

「ゼリーはあまり噛めませんけど、よく噛んだ方が良いですよ。ダイエットのコツです」

「よく噛むねぇ。でもさ、やっぱりゼリーだとボリュームが足りないなぁ。ここはおはぎとか、ケーキとかずっしりした物が食べたいよね」

 その気持ちは分かる。理沙だってケーキや和菓子が食べられるのなら、その波に飲み込まれたい。しかし、お菓子を沢山食べれば必ず体重は増える。

「ねぇ」臺が出っ張ったお腹を摩りながら言った。「カロリーゼロのお菓子って他にもあるのかな?」

「カロリーゼロですか? ゼリーの他には、羊羹とか、お汁粉がありますよ」

「え、羊羹とお汁粉があるの。僕どっちも大好きなんだ。でもさっきの店には置いてなかったよね」

「あんまり売ってないんです。羊羹はともかく、お汁粉は美味しくはないですよ」

「お汁粉って餡と餅が入ってるよね? それでもカロリーゼロなの?」

「五キロカロリー未満であれば、カロリーゼロと表示出来ますからね。実際に何キロカロリーなのかは分かりません。でもゼロと表示されている以上、五キロカロリー以下であることは確かです。ええと、餡と餅のことでしたよね。餡は人口甘味料の味がします。パルスイートやラカントなんかのゼロカロリーの砂糖です。餅ははっきり言ってガムのような感じです。とても普通の餅とは比べられません」

「へぇ。それじゃやっぱりお汁粉は普通のやつを食べた方が良いなぁ。お正月になると、十個近く餅を食べちゃうからなぁ……」

「十個? なんでそんなに沢山食べちゃうんですか。そんなに食べれば明らかにカロリーオーバーですよ」

「エヘヘ。そうだよね。でもさ、我慢出来ないんだよね。お汁粉って一杯何キロカロリーのなのかな?」

「確か、二一〇キロカロリーくらいです。結構高いですよ。それを十個も食べたとなれば、二一〇〇キロカロリーです。もう一日分の摂取カロリーですよ」

 理沙は最後に残ったゼリーをひとかけら口に運び、そう言った。臺はまるっきり反省の色なしにニヤニヤと笑っている。

「ああ。そのカロリーゼロのお汁粉が食べてみたいなぁ」

「スーパーに売ってますよ。マックスバリュとか。オーケーとかにあります。帰りに見てくれば良いんじゃないですか」

「そうだねぇ~。それが良いかもしれないね。楽しみだなぁ」

 おやつを食べ終わった後、理沙も臺も図書館に戻り、本を読むことになった。時刻は四時を向かえ、学校を終えた学生たちが集まり始めた。勉強する学生たちに目線を向ける。理沙は自分の立場が嫌になり、うんざりとため息をついた。こうなるともう、集中して本を読むことが出来ない。学校に行けない自分のことを指差されて笑われているような気分になるのだ。

 それでも懸命に我慢して、理沙は本を読み続ける。文章を追うだけで、何にも頭には入らない。そこでチラと斜向かいに座っている臺を見つめる。臺はエノキダイエットと書かれた薄い本を読んでいたようだが、今はうとうとと居眠りしている。呑気なものだ。その何事にも動じないような感覚が羨ましい。心の底ではダイエットを止め、食べたい物をお腹一杯食べたい気持ちはあるのだ。

 だけど、ダイエットを止めるということは、太ってしまうということである。せっかくここまで体重を減らし、手足がほっそりとしてきたのに、その体型を手放すことになるのだ。理沙は本を読むことを止め、立ち上がった。

 理沙が立ち上がったことで、「カタン」の椅子の音がした。その音に、居眠りをしていた臺が気づき目を開く。

「理沙ちゃん。帰るの?」

 静かな声で臺が尋ねる。

 対する理沙は首を上下に振り、帰るという意思を見せる。本を鞄にしまい、理沙は図書館を後にする。早く家に帰ろう。今日はゼリーをおやつに食べてしまったから、家に着いたらウォーキングをしたほうが良いかもしれない。足早に図書館を出ると、後方から声が聞えてきた。

「お~い」

 声の主は臺だ。一体何の用だろう?

 理沙は身を翻し、臺のほうに視線を注いだ。

「どうしたんですか?」

「僕も帰ることにしたよ。一緒に帰らない?」

 エヘヘと白い歯を浮かべながら、臺は言った。臺は何を考えているのだろうか? やっぱり自分に気があるのか? だからこうして色々と誘って来るのではないか? 少し不気味だ。だけどそんなに嫌ではないから、一緒に帰るくらいしても良い。

「別に良いですけど、どうしてあたしを誘うんですか?」

「そりゃ簡単だよ。カロリーゼロのお汁粉が食べたいからさ。帰りスーパーに寄ろうと思ってね」

 そのくらい一人で行けよ。と、理沙は心の中で念じたが、声には出さず、

「分かりました。じゃあスーパーに行きましょう」

 と、あっさりと承諾した。

 理沙はスーパーで食材を見ることが大好きである。時には大量に買ってしまう。でもそれらを食べることはしない。買うだけ買って、後は泣く泣くすべて捨ててしまうのだ。食べたい物を見て、それを買うということで、食べられない欲求を満たそうとする。昔は、ドカ食いしてしまったこともある。その時は猛烈に後悔し、泣きながら吐くのだ。

 スーパーに行くと、夕方ということもあり、買い物客で溢れていた。主婦たちが野菜や肉、魚などをカゴ一杯に詰めている。

「うわぁ、混んでるねぇ」

 ニコニコしながら臺は言う。それを聞き理沙も、

「そうですね」

 と、簡単に答える。

「それで、カロリーゼロのお汁粉や羊羹はどこにあるの?」

「ああ。それならゼリーのコーナーにあります。案内しますよ」

 理沙はすたすたと店内を歩く。もう何度も来たことがあるから決して迷わない。直ぐに目当ての場所まで辿り着く。

「ここです」

 棚にはゼリーや寒天、餡蜜などが並んでいる。その中にカロリーゼロのお汁粉はあった。

「ホントだ。カロリーゼロって書いてあるね」

 臺は半透明の容器に入ったお汁粉を一つ手に取り、カロリーゼロの表示を確かめる。目は赤子のように興味深そうだ。

「図書館でも言いましたけど、それ、あんまり美味しくはないですよ。味は保証しないです。それ買うなら羊羹のほうがまだマシですよ」

「そうなんだ。でも迷うなぁ。こういう時は両方買おう」

 そう言い、臺はカゴの中にお汁粉と羊羹を放り込む。それも一個ずつではなく、五個も買っている。

「そんなに買うんですか?」

 理沙が訝しげに尋ねると、臺はあっけらかんとし、

「そうだよ。だって美味しそうだからね。理沙ちゃんも買う? せっかく来たんだから買えば」

「あ、あたしは良いですよ。昼間にゼリー食べましたから」

 結局、二人はうろうろとスーパーの中をうろつきながら、色んな食材のカロリーを見たり、デザートコーナーへ行き、食べたい品物を手に取ったりして時間を過ごした。

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