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ダイエットや~めた  作者: Futahiro Tada


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2/8

ダイエットや~めた

 翌日――。

 両親が仕事に出かけた後、理沙はむっくりと起き上がり、いつもどおり全裸で体重計に乗った。『三十九.五キロ』昨日よりも一〇〇グラム痩せた。よし! 嬉しさが込み上げて来る。また一歩前進した。一体、何に前進したのか分からないが、理沙は喜びで一杯になり、服を着た。せっかく痩せたのだから、少し多めに食事を摂れば良いものだが、理沙の考えはまったく逆であった。痩せたときにこそ、リバウンドには気をつけなければならない。朝食後のゼリーは止めよう。そう考え、理沙はところてんやこんにゃくなどの低カロリーの食事を摂った。

 朝食後は何もすることがない。ぼんやりと考え込んでいると、ふと、臺のことが頭に思い浮かんだ。あの人は……、今頃何をしてるだろうか? 本当に助言どおり、バナナダイエットをしているのだろうか? 臺は自分のことを痩せてカッコ良いと言ってくれる。そんなことを言ってくれる人はなかなかいない。否、臺しかいないかもしれない。両親は「もっと食べろ」の一点張りだし、友達もあまりに痩せた自分の体型を見て、心配するだけだ。ここまで痩せた自分のことを褒めてくれる人はどこにもいない。

 だけど、臺なら何か違う反応をしてくれるかもしれない。そう考えると、理沙は無性に臺に会いたくなった。図書館に行けば会えるだろうか? どうせ今日はやることがない。それに昼食も食べない。なら、一日図書館で過ごしても良いかもしれない。思い立った理沙は図書館に向かうための準備を始めた。

 昨日に引き続き、今日も天気が良い。天気が良いことは嬉しいことだ。太陽の光を浴びながら、ウォーキングがてら図書館までの道のりを歩く。歩く人たちの視線が理沙に注がれる。その視線を受け、理沙は自分が注目されていると勘違いする。あたしは痩せている。あんたたちとは違うのよ。そういう考えが浮かび上がり、理沙に喜びを与える。人々は皆、理沙のようになりたいと願っているわけではないのだ。むしろ逆で、不健康に痩せた理沙の体を心配しているのだと言っても良い。そのことに理沙だけが気づかないのである。

 九時半――。

 図書館に着くと、既に開館しており、入り口前に人だかりは出来ていなかった。理沙は図書館脇にある休憩所に視線を注ぐ。昨日はここに臺がいたのである。今日もいるだろうか? 目を細め、休憩所を見つめていると、ゴリラのような人物が、ポテトチップスをぼりぼりと食べている姿が見えた。

 その姿は臺に相違なかったが、バナナを食べていない。バナナダイエットは止めたのだろうか? 理沙が訝しそうに目を細め、休憩所に近づくと、ポテトチップスを食べていた臺が理沙のことに気づき、ポテチを食べるのを止め、理沙に向かって手を振り始めた。

「お~い。君のおかげでダイエットは順調に進んでるよ」

 ダイエットをする人はポテトチップスを食べたりはしない。なぜならポテチはカロリーが高い。一袋五〇〇キロカロリーを超えるのだ。ダイエットには絶対に向かない食材である。にもかかわらず、臺はポテチを食べている。一体どういうことなのだろうか。

「ダイエット順調って、どうしてポテチなんか食べてるんですか?」

 理沙は非難するような目つきで尋ねる。すると、臺は言っていることがよく分からないという顔で、

「え、だって朝ごはんにバナナを食べたよ。それに昨日の残りのピザも食べた。だけど、図書館に来たらお腹空いちゃってさ、仕方なくポテチを食べたってわけ。でも心配は要らないよ。だって、バナナ食べたんだから」

 自信満々に言い放つ臺。どうやら彼はバナナダイエットを根本から誤解しているようだ。バナナダイエットは一種の置き換えダイエットである。食事をバナナ一本に置き換えることで、カロリーを制限し、痩せるという仕組みだ。決して、バナナにダイエット効果があって、他に何を食べても良いということにはならない。第一、バナナにそんな効果があるのなら、人は肥満で悩んだりしないだろう。それに、朝からピザを食べるなんて、どういう胃袋をしているのだろうか。

「お菓子とか、ピザとか食べてたら、ダイエットの意味がないじゃないですか! そんなことしてたら、痩せるよりも一気に太っちゃいますよ」

 理沙の「太ってしまいますよ」という言葉に、臺は俊敏に反応した。

「え、太っちゃうの? バナナ食べてるのに」

「当たり前ですよ。バナナダイエットはバナナだけを食べるから意味があるんです。他のを食べたら意味ありません」

 臺はしょんぼりと肩を落としながら、

「そんなぁ太ったら困るんだけどなぁ。どうしたら良いの?」

「運動して摂取したカロリーを消費するか、それか吐いてしまうしかないでしょうね」

「吐く?」臺はピクッと反応する。穏やかだった顔が思い出すようにハッとした。「そ、そんなこと出来ないよ。それに運動だってしたくない。まぁ良いや。バナナダイエットは僕に向いてないみたいだ。他のダイエット方法を探すとするよ。何か良い方法はない?」

 吐くのも嫌。運動も嫌。だけど食べたい。そんな都合の良いことばかり言っていたら絶対に痩せられるはずがない。理沙は呆れながら臺に目を向けた。臺はポテチをすべて食べ、それをゴミ箱の中に放り込んだ。

「他のダイエット方法というと……。そうだ、炭水化物を抜くっていうのはどうですか? 炭水化物、つまり、ご飯を食べることを止めて、おかずだけを食べるってダイエットです。これなら臺さんにも出来るんじゃないですか?」

 理沙の言葉に、臺は何やら考え込みながら、

「ご飯を抜くか。でも僕ご飯大好きなんだよね。あれほど美味しい物って他になかなかないよね」

 確かにご飯は美味しい。だけどカロリーが高い。それでも心の底では食べたいと感じているのである。心はご飯を欲しているが、絶対に太りたくないという精神でご飯を食べるのを抑えているのだ。

「確かに、ご飯は美味しいですけど、痩せるための我慢です。最初は夕食だけご飯を抜くっていう方法にしたらどうですか? 夕食だけなら、案外出来るかもしれませんよ」

「そうだねぇ。でも夕食か、一日で一番楽しみなのが夕食なのに、その時にご飯が食べられないとなると、拷問みたいだよね。でも仕方ないか。痩せるためだもんね」

 出っ張ったお腹をポンと叩きながら臺はそう言った。対する理沙はこの人は本当にダイエットをする気があるのだるか? と、半信半疑で臺のことを見つめていたが、本人がやると言っているのである。あとは臺に任せようと考え、図書館の中に入った。

 図書館に入り、好きな作家の恋愛小説を借り、それを読みふけることにした。本を読んでいると、時間が早く進む。だけど、なかなか頭に入らない。頭の中は食べたいものが津波のように押し寄せて、文章を理解するということを阻害する。セブンのメロンパンが食べたいなぁ……。それにミスドのドーナツも。チョコレートも食べたい。だけど、絶対に無理。あんなものを食べてしまったら、たちまちリバウンドして、豚のように太ってしまうに違いない。太るなら死んだほうがマシ。

 午後一時――。

 本を半分ほど読んだ理沙は、大きく伸びをして、図書館を出て軽く散歩することにした。コンビニへ行き、ミネラルウォーターを買おう。そう考え、近くにあるコンビニへ向かった。コンビニは昼時ということもあり、混雑していた。ミネラルウォーターを買うだけだから、直ぐに買い物は終わるはずなのだが、理沙はお弁当やパンの売り場まで足を運び、いそいそと食品を眺め始めた。

 お弁当も、パンもお菓子も、すべてが美味しそうに見える。ふと手に取り、カロリー表示を見つめる。七〇〇キロカロリー、四五〇キロカロリー、六〇〇キロカロリー。食べたい物のカロリーはどれも高カロリーである。とてもではないが、食べられない。だけど、ケーキやパン、お弁当、お菓子などは天への貢物みたいに輝かしく見える。あれを思う存分食べられたらどんなに幸せだろうか。買う気もないのに、理沙はうろうろと食材売り場を歩き回った。

 何分ほどだろうか? 食材売り場を歩き回っていると、ガーと自動ドアが開き、一人の人物が入って来るのが見えた。その人物は臺信夫だ。理沙は臺のことを見つけると、どういうわけか身を隠した。対する臺は理沙がいることなど露ほども知らずに、パン売り場にやって来た。そこで、菓子パンを三つと、パウンドケーキを一つカゴに入れ、その後、たっぷりと砂糖が入ったコーヒー牛乳をカゴに入れた。

 臺が買ったのはどれも高カロリーのものばかりだ。菓子パンは一つ四〇〇キロカロリーほどあるし、パウンドケーキに至っては一つ一〇〇〇キロカロリーを超える。まさにカロリー爆弾と呼べる食べ物だ。あんなものを食べてしまった日には自殺するしかなくなってしまう。理沙はそんな風に考えていた。

 臺はレジへ向かい、それらを購入し、足早に消えて行った。隠れていた理沙はスッと顔を出し、食品の誘惑をなんとか断ち切り、ミネラルウォーターだけを買い、コンビニを出て臺の後を追う。

 図書館まで戻ると、臺は休憩所のベンチへ向かい、そこに腰を下ろし、直ぐに買って来たパンを美味しそうに食べ始めた。臺は一体何をやっているのだろうか? パンは炭水化物だ。それにカロリーも高い。にもかかわらず、それらを平然と食べている。理沙は何というか怒りのようなものが沸き上がって来た。

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