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第8話 古代の兵器

《聖歴827年4月24日 アルガデシア王国 アーロン城塞》

 教会騎士団第一部隊を率いて王都を出発したロアノスは、アロア高原北方のアーロン城塞に来ていた。長年敵対するジェエラ帝国との国境のアロア高原に程近く、ジェエラに対する防衛線にもなっている。

 ついたのは日も落ちてきたころで偵察するのは明日に回すことにし、城塞内の割り当てられた部屋で休息をとることにした。

「……久しぶりです。騎士装のロアノス様を見るのは」

 椅子にゆったりと腰掛けくつろぐ主を見てルノスは呟いた。教皇の白い正装ではなく、同じ白を基調にした騎士装。ゆったりとした青いマントが特徴的だ。ロアノスもこちらの方が動きやすいという。

 左半身を紋章付きのマントが覆い隠すようになっているため見ただけでは左腕がないとは思えない。

「……それにしても、訓練を積んだ甲斐があった。なんとかなるものだな」

 そう言って立ち上がると広い場所まで歩いてゆき、白い愛槍を持ち上げ足や肩などを使って器用に自由自在に振り回し始める。

「……ロアノス様、それは最終手段だということをお忘れなく。基本は後方で指示を出すにとどめて、自ら出ることのないようにとマリスからも私からも申し上げたはずでしょう? 傷も完治したわけではないのですし」

「まあ、分かっているさ」

 そうは言ってはいるが、その横顔は最前線で戦う気満々、というようにしか見えない。ルノスはため息をつくと、少しでも気をそらそうと主を城塞内の探索に誘う。多少なりとも城塞の構造を知っていればもしもの際、有利になるだろう。

 アーロン城砦は少なくとも1000年以上前に建てられた城砦だ。

 アルガデシア王都と同じく城壁に囲まれ、記録にこそ残っていないが人が周囲で生活していた跡もあるという。現在はジェエラ帝国に対するアルガデシア王国軍の駐屯地の1つとなっている。

 シェムロ王が即位してから関係が悪化し常時国境でにらみ合いが続いている。

 数度小規模な衝突は起きているが、この城砦まで攻め込まれたことはない。

 カナンの反乱により混乱した今こそ責め時であるため、いつもにまして緊張感が高まっていたここ数か月はジェエラにとって絶好の責め時でもあった。その予想はあたりジェエラ軍は数週間前に大規模戦闘をしかけてきた。しかし、追加で派遣された王国騎士団と駐屯部隊によって押し返されている。

 現状、教会騎士団の第1師団が来る意味はほぼ皆無だ。

 しかし騎士団長であるロアノスがいることで砦内の緊張感が高まったともいえる。

「ご苦労」

 敬礼する見張りの兵士の横を抜けて城壁上の回廊を歩くロアノスは暗闇に沈む高原を見る。全く月明かりのない状態でもロアノスには見えていた。報告にあった通りジェエラの兵士の姿はない。

 数週間前の大規模な衝突もこの砦よりさらにジェエラ寄りの高原南端で起きたという。

(気にしすぎなのだろうか)

 癖でどこでどのように動いたら有利に動けるのかとどのような場所に行っても考えてしまう。今も一通り砦内を見回り、この場での戦闘を考えてしまっている。本来ならば、この場で戦闘が起きないのが理想だ。

(なんにせよ、これほど開けた場所では身を隠すのは不可能。偵察も定期的に出している)

 念のため、城壁上の回廊に追加で弓兵と補給用の矢を配置するよう指示を出すと下へ降りる。



「地下は、地下牢に……なんだ、あの扉は……?」

 最後に地下を巡っていた時に地下牢の先に見えた小さな石造りの扉に近づく。ルノスは試しに押してみるがビクともしない。

「……引くのでしょうか?」

 しかし、それでも開かない扉に困り果て背後の主を見る。扉を開けるのは主に従者の役目。それが出来ないとなると。

「見せてみろ」

 横をすり抜け取っ手のあたりを手で探りだしたロアノスは、あ、と声をあげる。

「……ルノス、いいと言うまで地下牢から出ていろ」

「は、はい」

 今までで一番訳の分からない命令だったが、命令ならばしようがない。一分もしないうちに呼び戻された時、その扉は開いていた。

「どうやって……開けたのですか?」

「なに、ちょっとした秘密を知っていただけさ。教会騎士団長の特権だ。いくぞ」

 それっきり黙り込んだ主の後をついて細い通路を歩いてゆくといきなり広い空間へ出る。壁には埃をかぶった魔法灯が吊るされており、床にも分厚く埃が積もっている。数年どころではなく何百年と人が訪れたことがないような空間だった。

 魔法灯は幸い未だに機能するらしく淡い光を放つ。

 その部屋の奥には巨大な何かが横たわっている。

 ロアノスはその表面の埃を指で拭い去ると刻まれていた字を読み上げる。

「……親愛なる友へ。私はあなたの騎士となれて幸せだった。ここに永久にこの国と民を守ってゆくことを誓おう」

「なんですか、それ……?」

「金属で組み上げられた機械兵士だ。……この文章、『王子と機械騎士』……まるで、それに出てくる機械騎士のようだな」

「でも、あれはお伽噺で」

「ああ、もちろん。……私も、お伽噺だと思う。だがな、仮にこの機械兵士があの話に出てくる機械騎士ならば。いや、そうでなくとも」

 ロアノスは手の平を左胸にあてると、そのまま目を閉じ俯く。

 やがて目を開き、踵をかえした主にルノスは聞いた。

「なぜ祈りを?」

「機械兵士は総じて古代文明のモノ。あの機械兵士もあの場所でずっと我々を守っていてくれたのだろう。……だからこそ、礼を」

「……ああ、なるほど。……聖なる光のために」

 ルノスは右手で額、胸、そして胸に触れたまま人差し指と親指のみで左肩、手を広げ、指をそろえると左胸にあて目を閉じ軽く頭を下げる。

「……ルノス?」

「私からも、お礼です」

「……! ありがとう」

「ロアノス様がお礼とは、珍しいですね。さ、大分時間がたってしまいましたし、行きましょう」

「ああ」

 二人は元来た道を戻り始める。



 目の前に置かれたスープをロアノスは見つめる。

 王国最南端の砦だとは思えないソレにしばし沈黙する。色とりどりの野菜が済んだ黄金色のスープの中に浮かぶ。

「……もしかして、苦手でしたか?」

 スープを運んできた若手の王国騎士団員が恐る恐るといったように声をかけてくる。ロアノスは小さく首を横に振る。

「むしろ好物だ。……だが、よくこの最低限の物資でここまでの物が作れるな、と」

「いやぁ、料理長が体をつくるのは食事からだ、って言って毎日腕をふるってくれているんですよ。保存食もこの通り。あ、けして不正はしてませんよ」

「そうか。……疑ったわけではないが、これだけの腕を持っていながら一度も名を聞いたことはないというのはな」

「ここで料理するのが自分の天職だーって言って厨房にこもり続けるような人ですからね。元は鍛冶屋だったらしいんですけど、なんでも自分のうった包丁で料理をするうちに目覚めたんだとか……」

「おもしろい。礼を伝えておいてくれ」


 深夜。

 ロアノスは何か物音を聞いたような気がして身を起こす。

 手早くマントを羽織り防具を装備すると槍を片手に部屋を出た。

 扉を開くとまさにルノスがノックをしようとしたとこらしく、彼は握った右手をそのまま敬礼の形になおす。

「何事だ」

「敵襲です!」




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