第7話 出撃
《聖歴827年4月19日 アルガデシア王国大聖堂》
「西方の戦線にはすぐに王国騎士団第四部隊を、高原には王国騎士団第五部隊及び教会騎士団の部隊を向かわせましょう。王国騎士団隊長にはすぐに出撃命令を。……ルノス、財務処理は全て財務の担当者に直接まわしてください。のちにまとめたものを私に報告してくれれば結構です。彼なら大丈夫でしょう。……それと、大聖堂の補修費用を削減してでも王都の復興を急ぐように。民の生活を最優先してください」
定期的に開かれる会議の場で部屋の一番奥に座ったロアノスは次々と指示を出してゆく。
本来はアルガデシア国王、そしてアルガデシア王国議会の仕事だが、王国がアルガデシア聖教に全権を移譲した今、その仕事は教皇であるロアノスのものとなっていた。一時は負担が増えすぎるのではないかと、国政専門の部門をつくることも検討されたが、アルガデシアの民の多くが教皇による統治を望んだためこの形式をとることになった。
その中でも特に、メルクシス公はその筆頭だったと言っていい。彼はただ単に教皇が自分の息子だからそのような主張をしたわけではない、とはっきり公言している。そして、それを証明するように国政には一切口を出してこない。
これまで騎士団長をしてきた経験などから迅速に正鵠を射た命令を出し、民を最優先するその姿勢はすぐに多くの支持を得ることになった。
「それからエリス団長、至急メルクシス公へ使者を出し騎士団を率いて西方戦線へ向かうよう伝えてください。現在防衛に当たっている部隊を第四部隊と交代させましょう。落ち着くまでの増援部隊と伝えてください」
「は!」
「それから、ゼヘル副団長、教会騎士団第一部隊の召集を。第二部隊は第一部隊の配置へ移動を」
「……ぇ、はい!」
「これにて、此度の議会は閉会とする」
中庭に面した廊下を足早に歩くロアノスを見つけルノスは全速力で追いかける。
「ロアノス様、一体どういうことですか!? 第一部隊を招集など、まさかアロア高原の戦線へ出るおつもりですかっ!?」
「……その通りだ」
「な……。ば、馬鹿な事言わないでくださいっ! あなたは教皇であり、今はこのアルガデシアの統治者でもあるのですよ!? 戦場に出るなど、危険です!」
「……」
「確かにカナンに接する西方戦線はにらみ合いが続いていますし、あの辺には強力な魔獣も出現しています。ですが、今のところ大規模な戦闘は起きていません。アロア高原に関しては、ジェエラ帝国と戦闘が発生しているにしても、それはここ数年平行線をたどっていて背後の要塞も傷一つ受けていませんし。つい先ほどの、ジェエラ軍との大規模戦闘開始の報も、……数週間前に援軍を出しましたし、問題ないはずです。あなたは出撃する必要はないのですよ?」
必死に説得するもロアノスは首を縦に振らなかった。
「ですから……!」
「……いや、あるさ」
歩みを止めたロアノスは白い衣服の裾を邪魔そうに右手で摘みながらふりかえる。
「私は今、仮にもこの国の……王と呼べる立場にいる。私はもう二度と失いたくないのだ。友を、家族を亡くす悲しみを民に味あわせたくはない。騎士が王を守るのならば、王は民を守る者。そうでありたい。……例え、誰に何と言われようとも、な」
そう言うなりロアノスは再び早足で歩きだす。
「……ロアノス様」
(なぜあの人はああまでもアルガデシア国民の事を考えているのだろう?)
ロアノスは教皇であり、極論を言ってしまえばアルガデシアの民の事などほとんど関係ないはずなのだ。ただ大聖堂がアルガデシア王都にあるだけ。
彼は教会へ入った時から常にアルガデシアの民の事を思っていた。そして民の嘆きを聞くたび悔しそうにしていた。
(何がそこまでロアノス様を……)
彼が優しいのは知っている。どの国の人間に対しても、優しいのは。
事実、長年敵対が続くジェエラに対しても就任直後に和平交渉を行い、失敗している。
『私はもう二度と失いたくないのだ。友を、家族を亡くす悲しみを民に味あわせたくはない』
あの言葉には説得力があった。
ロアノスは幼少期に魔物に家族でのっていた馬車が襲われ、死にかけていたところを偶然通りかかったメルクシス公に助けられ養子になったという。力が欲しい、と言った彼にメルクシス公は武術を教え込んだ。そして、教会に入り聖職者、そしてそこから教会騎士となった。
妻子のいないメルクシス公の養子であるのならば、そのままでもメルクシス公の率いる騎士団の騎士となり、やがては跡を継いで騎士団長となれたというのに、何故彼が教会騎士となったかは分からずじまいだった。
ロアノスもそれを語ることはなく、ルノスから聞くこともない。
思えば彼はメルクシス公の養子となるより前のことを語ることはなかった。一度遠回しに聞いてみたが嫌そうな顔をして部屋から追い出されてしまったのだ。
ルノスはあきらめのため息をつくと主のあとを追いかけた。
本気で書くの間に合わないぃぃ……(´・ω・`)




