ビキニアーマーこそ至高の防具
ビキニアーマーこそ至高の防具。
俺はそう確信している。
豊かな双丘を包み込み、けれど隠しきれていないビキニアーマー。
くびれたウエスト、可愛いおヘソが見えているビキニアーマー。
素晴らしい。
ロングブーツとの相性も最高だ。
ニーハイブーツで脚だけ隠しているのも最高だ。
しかし、現実にビキニアーマーを着ている人間なんて、お目にかかれるのは夏と冬の祭典ぐらいなものだ。
あとはネットで拾った写真やイラストで我慢するしかない。
俺は今日も家の近所の神社で手をあわせて神妙に祈る。
「神様、ビキニアーマーの世界へ俺を転移させてください」
うん。
無理なことぐらい百も承知。
でも神頼みぐらいしてもいいだろ、どうせ叶わないんだし。
でも、その日。
神社でいつも通り手をあわせた俺の頭の中に、男とも女とも、老人とも若者とも言えない不思議な声が響いた。
「いいよ」
次の瞬間、俺は草原にいた。
「は?」
頭の中をクエスチョンマークでいっぱいにした俺に、また不思議な声が聞こえた。
「ここはビキニアーマーの世界。
君があまりに強く願うから、君の願いを叶えてあげたよ。
さあ、幸せにおなり。
近くの町は太陽のある方向へ歩くとある」
太陽のある方向を眺めると、町の様なシルエットが見えた。
いやったあああああ。
まさかの神頼み大成功!
あの町に行けば、俺は本物のビキニアーマーに会える!!
ああ愛しのビキニアーマー、今すぐに行きます!!!
この世界に来てもう半年以上経つんだな。
俺は仕事の手を休めて空を仰いだ。
町に着いてから、俺は冒険者になった。
最初の仕事は町の中の雑用ばかり。
いきなりモンスターと戦うなんて平和な日本で育った俺には土台無理なこと。
市場の中にある店の雑用をこなしていくうちに少しずつ信頼されるようになり、俺はいつの間にか小さな雑貨屋の店番を任されるまでになった。
計算が早いから重宝されている。
日本でソロバンをやっていたおかげだなと、習わせてくれた両親に感謝している。
毎日不安定で危険を伴う冒険者になるよりは、きっと俺に向いていると思うから。
なあ、俺は思うんだ。
明治時代の文明開化で洋服が出回った時に、和服だらけの街中で最初は奇妙な眼で見られただろうなって。
でも、現代になるまでに洋服の便利さに和服は少しずつ追いやられ、いつしか洋服が当たり前になったんだろうなって。
俺も、日本で和服を着ている人がいると思わず眼で追ってたりしたもんだ。
俺自身も日本で和服なんか着たことなかったなって。
「おう坊主、今日も店番か?
余りもんだがこれやるよ」
そう言って、顔馴染みになった露天商のオッサンがリンゴによく似た果物を俺に投げ渡してきた。
よく見ると、キズがある。
「おっちゃん、ありがとな」
「なあに、いいってことよ」
以前に計算間違いを指摘してから、このオッサンは俺をよく気にかけてくれるようになった。
顔は強面だしちょっと小太りだが、気のいいオッサンだ。
胸当ての谷間から胸毛が溢れ、ビキニの上にたるんだ腹が乗っているけれど。
市場を見渡すと、そこはビキニアーマーだらけだ。
老いも若きも、男も女も。
魔法屋のしわくちゃの婆さんもビキニアーマー。
屋台のちょっとイケメンの兄ちゃんもビキニアーマー。
買い物をしている昔は美少女だったかもしれないおばちゃんもビキニアーマー。
なあ、こういう経験ないか?
ゲームでRPGなんかをやっていて、最終装備を手に入れる。
今までの装備なんか目じゃない最強の装備だ。
もちろん高価だから、最初は勇者にだけ着せる。
モンスターと戦って金が貯まると、もう一つ買って仲間にも着せる。
そうやって気付くと、仲間の装備が全て最終装備でお揃いになっている。
ここでの最高の装備はビキニアーマー。
誰だって死にたくない。
だから当然、金が貯まるとみんなビキニアーマーを買う。
多少の流行なんかはあるみたいだけど、全てビキニアーマー。
現実に装備制限なんかないんだから、男でも問題ない。
俺はリンゴによく似た果物をかじりながら、モゾモゾとビキニの位置を調整した。