日本一高い所で
「東京行こうや。時間あるやろ。な、東京。」
出たよ。またいつもの思いつき発言。
こいつっていっつも突然言いだすねんから。
ミサはヒロシと同居して、一年が経っていた。
だからヒロシの計画性の無さは、重々承知していた。
というより、予定を立てて行動する事を嫌っているらしい。
行きたい!と思ったら即行動派なのだ。
ミサは、出来れば予定を立てて行動したい派だった。
昔はどんな旅行でも、自作のしおりを作っていたくらいだ。
「どうせテレビかなんかでやってたの見て行きたなったんやろ。ほんま、めんどくさい人やで、君は。」
「ええやんか!行こや!な!行きたい!行きたい!」
「はぁ~、しゃーないなー。めんどいわー。」
惚れた弱み、とでも言うのだろうか。
バッチリ計画派のミサだが、いつもこのヒロシの押しにやられて、無計画のまま旅に出るのであった。
今回は東京日帰り。
ホテルを取る時間も惜しんで行きたがるものだから、日帰りになってしまった。
新幹線で二人分の料金、2万7240円を払う。
これも事前に分かってりゃ、格安チケットで安く手に入んのにな、とミサはブーたれた。
東京に着くなりヒロシは、スマホでルート検索を始めた。
どうやら目的地は決まってるらしい。
「どこ行くん?」
「スカイツリー!」
この勢いでミサは大体察しがついた。
あ、こいつ、スカイツリーだけに行きたかったんだな、と。
きっと、東京の美味しいモノとか食べないで、晩御飯はそこらのファミレスだな、と。
これも長い付き合いのなせる技だ。
Facebookにあげる写真を撮る暇なんてないくらい、ただただスカイツリー観光をして終わるんだろう。
丸ノ内線の地下鉄に揺られながら、ヒロシの顔を見上げる。
なんて嬉しそうなんだ、こいつは。
大手町の乗り換えもスムーズに行きやがる。
スカイツリーに着いても、下からの景色なんてお構いなし。
一目散に最上階を目指す。
味わうって事を知らんのかいな、この男は。
呆れ果てていたミサだったが、ヒロシの生き生きした顔を見ると、何も言えないのであった。
流石に最上階の景色は楽しめると思っていた。
しかし、ヒロシは着くなり言った。
「目、つむって!」
「は!?いや、流石に景色くらい見たいやん!」
「ええから!目!つむって!」
なんてやつだ!
最上階の極上の景色すらも味わわせてもらえんのか、こいつは!
はぁ~、でも、なんかやりたい事があるんやろう。
なんか知らんけど、めっちゃ楽しそうやし。
仕方なく目をつぶるミサに、ヒロシは何かを手渡した。
なに、これ?
「ええよ!目、開けて!」
「あ。」
ゆ、指輪や。
「日本でな、いっちゃん高い所でゆおうと思っとってな、あんな、俺と結婚せぇへんか?」
「アホ、日本一高いんは富士山やろ!」
会心のツッコミが決まった。
なんでも、本当は来週の私の誕生日にしようと思ってたプロポーズ、昨日指輪が出来て、いてもたってもいられず、今日にしてしまったらしい。
アホです。
この答えは、焦らして焦らして焦らしまくって、ええよ、とゆうてあげよう。
こんなアホなやつと結婚したげる物好きは、私くらいやろし。