1話 ベリルさん
深い深い、真っ暗な森を一晩かけて歩いてようやく街にたどり着くと、凄く胸の大きな、綺麗な女の人が近づいてきた。
ユリウスさんのお友達?それとも・・・・・?なんて色んな事を考えていると、その女の人がユリウスさんの眼前までズイっと詰め寄ってきた。そして、ユリウスさんの肩を鷲掴みにして、大きな声でユリウスさんを責め始めた。
「こんな日まで何処をほっつき歩いていた!全く、三日前は三日前でクラーケン討伐を失敗し、いきなりどこかに消えたと思えばこんな華奢な娘を誑かして、お前というや」
「こらベリル、俺を問い詰める前に話を聞け。こいつは自分の名前以外何も覚えてねえ戦災孤児だっての」
矢継ぎ早に質問攻めをするベリルさんを制して、さっき考えついた嘘をユリウスさんが言うと、ベリルさんは目を見開いて私を見つめてきたのと同時に怒りの表情がすっかりと収まって、私に近づいてきた。
「そ・・・・・・うか。済まなかったな。私はベリル。宜しくな。君の名前は?」
「あ、はい。えっと、リリーです」
握手をしながら自己紹介した。ベリルさんのまなざしは、さっきのさながら鬼のような怒りの表情からは想像もつかないくらいの優しいまなざしだった。
「此処はルドラの城下町、カトルだ。私は孤児を助けるのが好きでな、今のお前に必要なものは私が全て買ってやろう。何、心配はいらん。金はある」
凄く気前がいい人だな。私もこんな大人の人になりたいと思った。
「服は・・・・・私の家に幼い頃に着ていた服がある、それを着るといい。この服では他国のものと怪しまれて殺されるかも知れないぞ。ユリウス、リリーを私の家に連れて行ってもいいだろうか」
「どうぞご勝手に。俺ァ疲れた、少し家で寝てるわ」
「だらしのない奴め」
「なんとでも言え」
欠伸をしながら何処かに消えるユリウスさんを尻目に、私はベリルさんの家に招かれることになった。
***
「おお、よく似合っているではないか」
まるで語尾にハートマークでも着きそうなくらいの優しすぎる声音でベリルさんが私の新しい服を褒めてくれた。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
さっきから疑問に思っていたことを恐る恐るベリルさんに聞いてみた。
「なんだ?」
「さっきベリルさんが言っていた、よその国の人と間違われたら殺されるかも、って、どういうことですか?」
ユリウスさんが考え付いた嘘では私は記憶喪失って事だから、これくらいは聞いても怪しまれないよね。
「そうか、お前は自分の名前以外の記憶を失っていたのだったな。・・・・・この隣の島のマナナ王国、ヒュペリ王国、そしてこのルドラのあいだで、戦争が起こっているんだ」
同情の目を向けられて、私はなんだか申し訳ないような気持ちになった。
「ヒュペリとマナナの王が手を結び、魔王の力を使って我がルドラ帝国を手中にしようと考えている」
悲しそうな表情を浮かべたベリルさんは紅茶を少し口に含み、紅茶のカップを握り締めたまま続けた。
「引金となったのは、ルドラの商人がヒュペリの王様に貢物をし、その帰り道にルドラを・・・・・と独り言を言っていたマナナの国王を見かけ、こっそりとあとをつけた後だ」
そのあと、ベリルさんは沈痛な面持ちのまま、マナナの王様とヒュペリの王様が魔王の力を借りてこの国を潰そうとしていた事、あとをつけた商人が立ち聞きしていた事がバレて、殺されそうになりながらもルドラにたどり着いた事、そしてこの国の王様に報告したあと、ヒュペリの騎士の手で王家の兵士と商人が口封じのため一緒に殺されてしまった事を教えてくれた。
「そんな事が・・・・・」
余りにも話が悲しすぎるし、おまけに複雑過ぎて頭の中がゴチャゴチャだ。
頭を抱えながらウンウン唸ってると、ベリルさんが紙とペンとインクを持ってきてくれた。
「把握できないのも無理はない。紙に書けば少しは纏まるだろう、使うといい」
ペンと紙を使って、さっき言われた事を書き留めた。ところどころ間違えたけどこれでいいや、この紙は覚えるまでずーっと持ってよう。




