女の子、高校生になりました(嘘)
続編、始めました。
私の名前は武田瑠璃。
この春から高校生になります。
少し前まで着ていた中学校の制服は、春休みのうちにクリーニングに出し、今はクローゼットの中に防虫剤と一緒に綺麗に仕舞われています。
今日は入学式で、登校してからクラス発表を見て、それから各クラスに向かって、入学式のために体育館に移動するそうです。昨日の夜に正親さんが説明してくれました。
「武田さん。おはよう」
「玲央くん。おはよっ」
彼は神田玲央くん。同じ高校に通う同級生。えっと、私とは恋人同士です。中学校の卒業式で想いを伝えあったけど、春休みに何かあったとかっていうのはなくて、前までとあんまり変わらない関係が続いてます。
高校へは地下鉄に乗っていくんですが、私が通う高校の先生をしている正親さんと一緒に行こうと思ってたんだけど、午前中に在校生のホームルームと入学式の準備があって、午後からの登校になるため、一緒に行くことはできませんでした。残念。
私と玲央くんは、切符売場で乗車券を買って、改札を通ってホームへと向かいました。
ホームには、他にもおんなじ制服を着ている人が何人かいました。同じ中学出身なんだろうけど、そこまで仲良かった人はいなかったので、声はかけませんでした。でもその中に、神田くんっていう、同じ中学校の同級生がいたんだけど、声はかけませんでした。玲央くんと神田くんはあんまり仲が良くないので、わざわざ入学初日からこじれるようなことはしないほうがいいかなって思ったからです。友達のキララちゃんにも言われてたし。
二人でやってきた地下鉄に乗り、高校へと向かいました。
無事に入学式も終わり、クラスへと戻ってきました。
このクラスでは同じ中学校の人は少なくて、玲央くんとも神田くんとも違うクラスになってしまいました。それでもみんなも同じような環境だと思い、入学式の前に、私は少し勇気を出して隣にいた女の子に話しかけました。
「は、はじめまして。よろしくね」
「えっ、うん。こちらこそよろしくお願いします」
「えっと、うんと」
言葉が出てこない。
そう思ってると、相手のほうから質問された。
「どこ中学校だったんですか?」
「えっと、私はK中学校。あなたは?」
「私はこっちのほうに引っ越してきたばっかりで、本州のほうの中学校だったんです」
「へぇー」
はっ! すごい興味なさそうに聞こえたかも!
っと……
「あれ? 名前、言ったっけ?」
「あっ、そういえば言ってませんでした」
「私、武田瑠璃。あなたは?」
「私は若林恵梨香といいます」
「恵梨香ちゃんね」
「じゃあ私も下の名前で呼んでもいいですか?」
「もちろん!」
「よろしくお願いします。瑠璃ちゃん」
「恵梨香ちゃんもよろしくね」
二人でニコッと笑った。
良かった。最初に話しかけた人が、ちょっと怖い感じの人だったらどうしようかと思ってた。
その後の入学式に移動する間も、恵梨香ちゃんと喋ってて、入学式が終わってからの教室でも恵梨香ちゃんと話していた。
後から聞いた話なんだけど、玲央くんのクラスの担任が正親さんらしい。ズルい。羨ましい。
恵梨香ちゃんとは『また明日学校で』ということで、連絡先を交換してさよならをし、その日は玲央くんと一緒に下校した。帰る前に正親さんに会いに行ったのだけど、タイミングが全然合わなくてうまく会えなかった。
「武田さん?」
「ん?」
「ふふふ。なんか変な顔してるよ」
「え?」
玲央くんが隣でクスクスと笑っている。
「眉間にしわ寄せて口はへの字にしてさ。どうかしたの?」
「んー……」
玲央くんはなんでもお見通しみたいな時がたまにある。もしかしたら私の心の声が聞こえてるんじゃないかと思ってしまう。
「正親さんに会えなかったなぁって思って。会いたかったのに……」
「やっぱりそれか。正親さん、ちゃんと先生だったよ」
「かっこよかった?」
「いや、それは僕の口から言うのはどうかと思うけど……。でも僕から見ると、いつも僕らの保護者として付いてきてくれてた正親さんが先生っぽかったから、あんまりイメージは変わってないかも」
「えー。家での正親さんなんて、ずっと恭子ちゃんといちゃいちゃしてるんだよ? 私のほうが恥ずかしくなってくるー」
「あははは。家なんだからいいでしょ」
「むー」
正親さんの彼女の恭子ちゃんと暮らし始めてから、正親さんと恭子ちゃんはお互いのことをさらに想っている時間が増えた気がする。
恭子ちゃんも保育士として働いているし、正親さんも先生と部活の顧問だし、二人とも帰ってくるのが遅い日もある。そんな日は私がご飯を作って待ってるんだけど、疲れて帰ってきた二人は、いつもよりもイチャイチャしてる。そんな日は、ちょっと気を使って部屋に入る時間を早くしている。
「でもなんかいいなー」
「どこが?」
「あはは……僕らも一応恋人同士なんですけど」
「……はっ!」
「いやいや。いつも通りでいいんだよ? 僕、『イチャイチャ』って言われてもどうしたらいいかよくわかんないし」
「わ、私もちょっと恥ずかしいかな」
「そりゃ僕だって恥ずかしいよ」
二人で目が合ってしまい、玲央くんの顔が赤くなったのを見て、私も顔が熱くなるのを感じた。
玲央くんとは恋人になれたけど、まだ何も変わってないのはこれが原因だ。わかっているけど、『僕らは僕らのペースで付き合っていこう』ということになり、今も今までの関係が続いている。そう考えると、ヒロトくんとキララちゃんはすごかったんだと思う。ちょっと尊敬。
玲央くんとは地下鉄を降りて地上に出たところで別れた。
家に向かって歩いていると、後ろから声をかけられて抱き付かれた。
「おーかーえーりっ!」
「きゃっ!」
声の主は、間違えようもなく恭子ちゃんだった。
「ビックリしたー」
「入学式どうだった?」
「んー、中学校の卒業式よりも校長先生が喋ってた」
「アハハ。そうなるよねー」
「それよりもね! 正親さんに会えなかったの!」
「マジか! 帰ってきたら正親にお仕置きしないとダメだね! 愛しの瑠璃ちゃんに何もお祝いの挨拶がないとは、ダメなやつめ」
握りこぶしをつくる恭子ちゃん。恭子ちゃんは正親さんの彼女であり、私の……友達以上親友未満というやつだ。正親さんの彼女が恭子ちゃんじゃなかったら、ちょっと嫉妬とかしちゃうかもしれないけど、恭子ちゃんなら許せるのは恭子ちゃんだからだと思った。なんかうまく言えないや。
それから恭子ちゃんと家に帰り、夜ご飯の準備をしながら正親さんの帰りを待った。
「ただいまー」
玄関が開く音がして、正親さんの声が聞こえた。
恭子ちゃんと打ち合わせしてた通り、私が正親さんのお出迎えに行った。
「おかえりなさい」
「ただいま。って、なんでそんな険しい顔してるの?」
「私は今怒ってるの」
「怒ってる?」
全然わからないみたいで、首をかしげる正親さん。
「どうして学校で会ってくれなかったのさ!」
「えぇっ!? そこ!?」
「大事なことでしょ! 正親さんの先生姿が見たくてあの高校に行ったのに、全然見れなかったもん!」
「これから嫌でも見ることになるから大丈夫だよ?」
「でも初日はお喋りとかしたかったなー」
「えー。それで拗ねてたの?」
「拗ねてたんじゃなくて、怒ってたの!」
「あーごめんね」
私の頭に手を置いて謝る正親さん。適当っぽく見えるけど、これが正親さんの謝り方。頭を撫でられるのは、なんだかくすぐったい。
手首越しに正親さんを見ると、ニコッと笑った正親さんに見られた。
「はぁ。許してあげる」
「許してあげるって……ありがとうございます」
「でも明日は会いに行くからね」
「玲央くんに会いに来てあげなよ」
「正親さんにも会いに行くの!」
「はいはい。まだまだ瑠璃ちゃんは子どもだなぁ」
「もう高校生なんだから、子ども扱いしないでよ!」
「俺からしてみたらまだまだ子どもですー」
「むーっ!」
「あはは。許してくれたんじゃないの?」
正親さんを置いてリビングへと戻った。途中にあるキッチンにいる恭子ちゃんに、正親さんが『ただいま』と言っていた。
私はリビングのソファに座って、それから振り向いてキッチンのほうを見てみた。
相変わらず正親さんと恭子ちゃんがイチャイチャしていたけど、私に気付くと正親さんは着替えに自分の部屋へと向かっていった。ラブラブだなぁ。
それから夜ご飯ができて、三人でいつもの席に座った。
「じゃあ瑠璃ちゃんの入学祝ってことで、乾杯でもしますか」
「おー」
「では主役の瑠璃ちゃんから一言」
「明日こそは正親さんに会いに行きます」
「まだ言ってんの!?」
「アハハハ! じゃあラブラブっぷりも見せつけてくれたところで、私が音頭をとらせていただきますー」
「音頭?」
「乾杯のこと」
「おっけー」
「じゃあ瑠璃ちゃんの入学を祝してー」
「「「かんぱーい!」」」
こうして、私の高校生活は始まった。
おしまい。
というわけで、エイプリルフール企画ということで、女の子シリーズの短編を書きました。
続きません。これで終わりです。
出す予定だった恵梨香ちゃんのお披露目回とも言う。
ではありがとうございましたー。