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美しき双子  作者: アホロ
8/15

幕間2

 質素ながらも上質な物であつらえられた部屋の中、二人の少年と一人の青年が言葉を交わしていた。青年は一人優雅に椅子に座り、少年二人に微笑を向ける。しかし、その微笑みは優しいものではなく、にやにやと何かを楽しんでいるようなものだ。

「で? 準備は万全なのかい?」

「えぇ。それは滞りなく。もういつでも発つことが出来ますよ」

「ふーん、そうなんだね」

 相変わらずにやにやと笑いながら頬杖をつく青年に、少年二人は呆れたような顔をする。その事さえおかしいのか、青年は更に瞳を三日月のように細めて笑う。そんな青年の態度に、二人の少年のうち一人があからさまに不愉快そうに口を開いた。

「なんですか。何が言いたいんですか。あー、もう正直に言います。気持ち悪いんだよ、その顔」

眉間に皺を寄せながら急に乱暴な言葉遣いになった少年に、青年は耐え切れなくなったのか爆発したかのように笑い出した。静まり返っていた部屋に、青年の大きな笑い声だけが虚しく響く。

「あー、おかしい。ユウ、そんなに笑わせないでくれよ。お兄ちゃんお腹が壊れちゃう」

ひーひーと苦しそうに未だ笑いを収めることをしない青年を、ユウと呼ばれた少年は瞳を眇めながら睨み付ける。

「何が“おにいちゃんお腹が壊れちゃう”だ。気色悪いこと言ってんじゃねぇよ。つうか、呼び出しておいて用件はなんなんだよ。まさかその間抜けなニヤケ顔を見せるためじゃないだろうな」

「ひどい言い草だね。サイラス、ユウのこの発言をどう思う? お兄ちゃんに言うものじゃないよね?」

「……はぁ、まぁ」

「うーん。相変わらずお前はお前でつまらない反応だなぁ。そのユウにしか反応しない態度、どうにかならないの? それだから二人は付き合っているなんて噂になるんだよ。まぁ、それはそれで面白いからいいんだけどさ」

「おい、ちょっと待て。今なんて言った? 俺とサイラスが付き合ってる、だと?」


 不愉快そうにしていた少年--ユウ--は、兄と言っている青年の言葉に目を見開き聞き直す。隣にいる先ほどサイラスと呼ばれた少年も、無表情であるが微かに驚いているようだった。そんな二人の反応に、青年もきょとんと目を丸めて数回瞬きを繰り返した。

「あれ? 知らないの? 結構有名じゃないか。二人していっつも一緒にいるし、女の子に対して興味もないみたいだから二人は愛し合ってるって専らの噂だよ」

「ふ、ふざけるなっ! そんな馬鹿らしい噂があるなんて! 兄上は知っていたのになぜ否定してくれなかったんですか!?」

「えぇー? だって真実はわたしも知らないし。それに面白いしね」

「面白いって! そんな理由で!?」

「うん、ダメ? それにそういう噂が立つってことはそれなりのことをしているからだよ。そういう自覚も無い、噂が立っていることも知らない、それをわたしがなんで否定してあげなきゃいけないんだい? お前たちが自分で蒔いた種だよ。そこんとこわかってる?」

 ニヤケ顔から一転してただの微笑みに変える。それだけなのに青年からは有無を言わせぬ威圧感が感じられた。それを間近で感じ取った少年二人は顔を強張らせる。

「申し訳、ごぜいません。兄上」

「申し訳ございません」

二人の謝罪に青年はにっこりと笑みを浮かべると、今まで感じられた威圧感はどこかへと消えてなくなった。そのことに二人はほっと安堵の息を漏らす。

「うん、わかればいいんだよ。あとさっきユウが言ってた用件だけど、父上からの要望なんだよね、これ。本当はわたしが行く予定だったって知ってた? でもわたしは明日から急遽地方に視察に行かなくちゃいけなくなっちゃったし、それなら向こうの王子たちと歳が近いユウが行ったほうがいいって事になってさ。土壇場で変更になったから、何気に気にしてるんだよね、あの人」

 苦笑を浮かべると、よいしょ、と掛け声を小さく上げながら椅子から立ち上がる。そのまま窓に向かうと室内の空気を入れ換えるように戸を開けた。瞬間、風が吹き込んで青年の長めの黒い前髪を軽く散らす。前髪の間から見えた紫色の瞳は遠くを見据えると、そのまま背後に立っている少年二人に声をかけた。

「父上も心配しているけど、わたしも一応心配しているからこうしてこの場を設けてみたんだ。なんだかんだ生意気言っているけど、ユウ一人で他国に行くのなんて初めてじゃない? まぁ、顔見て大丈夫そうだし安心したよ」

 再度微笑みを浮かべてから振り返ると、少年二人はお互いに顔を見合わせていた。そして戸惑うようにユウと呼ばれている少年が口を開く。

「それは、心配してくれたと判断していいのでしょうか?」

「うん、そう言ったでしょ。父上もわたしも分かり辛いかもしれないけど、ユウのことをすごく、すごーく気に掛けているんだよ。父上にとっては可愛い末っ子だし、わたしにとっても可愛い弟だからね」

「あ、ありがとう、ございます」

「そうやって照れるユウが可愛くて仕方ないよ。ねぇ、サイラス?」

「はい」

「即答だね。やっぱり噂は本当かもね」

 ふふふ、と笑う青年の瞳は今までにないくらい柔らかい。照れを隠すように俯いた弟をその瞳で見つめると、今度は悪戯を含んだような瞳に変化させる。


「ウォルト王国の双子はとても美しいと評判だからね。せっかくだし、妹の方に唾でも付けときなよ。慈愛の女神だっけ? そんな風に言われるって、どれほど美しいのだろうねぇ」

「唾って!」

「いいじゃない。今、気になる女の子もいないんでしょ? ならこれからの友好を保つためにも、縁を持っておくのはいいことだと思うけどなぁ。その相手が美しいなら、尚更いいじゃない」

「そ、そんなに言うなら兄上が」

「わたしじゃ年齢に差があるでしょ。お前ならちょうどいいし。お前が嫁に迎えてくれるんなら、わたしもその美しい女神を側で見れるしね。あぁ、いいね。それがいいよ」

 にまにまと笑いながら顔を覗き込んでくる青年に、ユウと呼ばれている少年は赤みが残る顔で睨み付ける。

「兄上がいいだけじゃないですかっ。それに」

少年は一度口を閉ざすと、侮蔑を孕んだ瞳で窓の外を睨み付ける。

「双子同士で結婚させると有名じゃないですか。兄弟同士だなんて、気持ち悪い。そんなのいくら国のためだと言っても、嫌です」

強く窓の外を睨み付ける少年に、青年は苦笑を漏らすと頭をぽんぽんと撫でるように叩く。

「あそこは高い魔力を保持する為に近親婚を繰り返しているみたいだからね。わたし達からしたら考えられないかもしれないけど、向こうはそれが普通と思っているんだから、あからさまに嫌悪感を出してこないように注意するんだよ。出来るだけ穏便に、そして仲良くね」

「……はい、兄上」

「まぁ、サイラスもいるし大丈夫だとは思うけどね。頑張ってくるんだよ」


 リズムよく叩き続けていた手を少年は掴んで止めさせると、青年よりも濃い紫色の瞳で見上げる。その顔には意思の強さが表れていた。そんな少年に青年は満足げに頷くと、少年二人の肩に手を置いた。

「じゃあ、頑張っておいで。残念ながらわたしは明日から視察に行かなくちゃならないから見送りが出来ないけど、期待してるからね」

 青年の言葉に二人は気合の入った返事をする。その返事を聞いて、青年は二人の背を押しながら部屋から送り出した。



 部屋に一人残った青年は、ゆっくりと椅子に腰掛けると長い足を組む。そのまま肘掛に肘を乗せると、頬杖をついた。さっきまでずっと浮かべていた微笑はそこにはなく、何かを思案するかのように無表情に遠くを見つめていた。

 暫くすると窓の外から風が吹き込み、青年の黒い髪を僅かに揺らす。その風に導かれるように窓に目を向けると、そこには一羽の亜麻色の鳥が窓枠に留まっていた。首を傾げるかのような仕草をしたかと思うと、その鳥はすぐに飛び立ってしまう。

「……さぁて、どうなることやら」

口元に不敵な笑みを浮かべると、青年は先ほど一瞬だけ姿を現した鳥の行方を目で追うのだった。

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