幕間1
三年に一度の豊穣祭が開催されるにあたり、ウォルト王国全体が活気に溢れていた。王都では既に他国からの観光客も見え始め、多くの店が常よりも大きな声を出しながら客を呼ぶ。王都以外の町や村でも賑わいをみせており、王宮に至っては準備の忙しさに目が回るほどであった。
王であるガイアを始め側近達はもちろん侍女や侍従、下働きの者達もパタパタと王宮中を走り回っていた。
そんな忙しさの中、一人の少女が疲れたような表情でソファに体を横たえていた。部屋の中には色取り取りのドレスが散らばっており、侍女がテキパキと片づけたり再度ドレスを出したりと忙しない。そんな侍女を横目で眺めながら、メイは聞こえるように盛大にため息を吐いた。
「ねぇ、もういいよ。最初のやつでいいんじゃない?」
だらしなくソファに横たわりながら、汗をかいてすっかり温くなってしまったジュースを口に運ぶ。その際に手に付いた水滴を着ているドレスで拭った主人に侍女は鋭い視線を向けた。
「メイ様。何度言ったら分かるのですか? その様にドレスで手をお拭きになるのはとてもはしたないと何度も、何度も言っておりますよね? いいですか? そのドレスを作るのにどれ程の者達が手をかけているのかお分かりですか? またそのドレスを洗濯する者達がいることもお分かりですか? 今メイ様がされた行為は、そのような者達を無にしているのと同じではないですか?」
「わ、わかったよ。ごめんなさい。もうしない。気を付ける」
「その言葉も何回お聞きしたか分かりませんね。もう子供ではないのですから、王族として自覚を持たないと馬鹿にされてしまいますよ。豊穣祭ではシュトレーンの皇子も来られるようですし。メイ様の恥はウォルト王国すべての恥となることを、忘れないでくださいね」
「う、うん……。ごめんなさい」
姿勢を正して説教されるメイは、どんどん小さくなっていく。そんなメイに侍女は鋭い視線を緩めると苦笑を漏らした。
「まぁ、朝から何度もドレスを着ては脱いでを繰り返してばかりいては疲れるのは当たり前ですものね。一度休憩を取りましょうか。飲み物も温くなってしまったようですし、新しく入れ直しますね」
「ありがとう。あ、でも休憩と言わずもう終わってもらっていいよ。言ったじゃない、最初のでいいって」
怒りを鎮めた侍女の態度を感じ取ったメイは、反省していたのが嘘のように晴れやかな笑顔を見せる。温くなった飲み物を下げていた侍女は、メイのその笑顔に負けず劣らず綺麗な笑顔を見せた。
「いいえ。終わりではなく休憩です。確かに最初のドレスもお似合いでしたが、メイ様には他に絶対似合うものがあるはずです」
侍女の有無を言わせぬ笑顔と物言いに、メイは引き攣るような笑顔に変える。この侍女は自分が何を言っても己の意見を変えないことは経験上知っているので、メイは溜息を吐き出すだけに留めるのであった。