【第二話】My mother's words, my action.
「!?」
俺はとっさに身構えた。万一死ぬ危険すらあるからだ。
「・・・。」
・・・杞憂、だったのか。そこには一週間以上見ていない母の姿があった。
一週間喋っていないが、声は出るのか。
「何だってんだよ、脅かさないでくれ」
少し喉に粘っこい感じがあったが、一応声は出た。
それに対して母は暗くこう言った。
「・・・一週間ここにいたの?」
その問いかけに関して俺は割と素直に答える。
「そりゃあな。出たら死ぬかも知れないだろ」
母はやれやれといった顔をしてから
「じゃあ、この一週間のこと、何も知らないのね」
・・・。まあ一週間もすれば何か変わったことぐらいあるだろう。
「何か、あったのか?」
若干探りを入れるように俺は母に問いかける。
「この町にも降伏勧告が出たわ」
「・・・っ!」
少し頭に血が上った。負けず嫌いな性格もあってか、
俺は『降伏』だとか『降参』だのって言葉が大嫌いだ。
それを抑えつつ、俺は母に短く問いかける。
「・・・それで?」
母は残念そうに下を向きこう言った。
「降伏しましょう。他に手段がないわ。」
俺の脳みそが赤く染まっていく気がした。
「ふざけんじゃねぇぞ!!」
思わず、そう叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
俺が、こんな気安く降伏だなんてそんな弱い言葉を吐くような奴の血を
受け継いでいるとは思いたくもなかった。
「じゃあ、あんたはここで死にたいの!?生き延びたくないの!?」
「こんな容易く降参するなら死んだほうがマシだってんだよ!そんな風に安く降参してあいつらの言いなりになるくらいなら全力で刃向かって、抵抗して、そんで一人でもぶっ飛ばしてから死んでやる!!」
俺は本当に思っていることを叫んだ。俺はいつだってそうだった。
負けるのがいやで、どんな状況でも勝ちに近づこうとした。
そんな俺を『往生際が悪い』と言って嫌う奴も少なくなかった。
俺の見てきた中では、すぐに負けを認めたりする奴には強さが見当たらなかった。
いわゆる『軟弱者』というのか。俺はそんな奴を嫌った。
「本当にやれると思ってんの!?いい!?ゲームとは違うのよ!?」
「これがゲームであろうがゲームじゃなかろうが俺は負けなんて認めねぇよ!」
俺は高校への通学に使っていたエナメルバッグを担ぐ。
家を出た瞬間死ぬかもしれない。だが躊躇している暇はなかった。
「世話かけたな。俺は行くぞ」
母は俺を止めたのかもしれない。でも気づけば靴を履き終わっていた。
赤いスニーカー。紐は一箇所穴に通していないから若干長めになっている。
カコン。俺は静かに外へ出た。一週間ぶりの外の空気。
外の空気を吸ったら、多少は気持ちも落ち着いてきた。
さすがに家を出て一発目で死ぬことはなかった。
まずは弱くても構わない、武器を調達することにしよう。
俺は、予想以上に軽く一歩目を踏み出した。