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外法<下駄の男シリーズ④>  作者: めけめけ
第2章 怨念
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第10話 継ぐもの

 武井徹は、笠井町で最古参の部類に入る暴力団、白鷺組の実質ナンバーツーだった男だ。数週間前、白鷺組の組長が、事務所内で自殺したことで、実ナンバー2の立場は、恐ろしく微妙なものになった。組長は代々世襲によって決まる。跡目は組長の一人息子が継ぐことになるのだが、実はまだ小学校を卒業していなかった。


 子に恵まれなかった白鷺宗司は、45歳にしてようやく手に入れた一人息子を猫かわいがりしていたが、自分の後を継がせることについては、あまり積極的ではなかったというのが、武井の見立てだった。だから自殺をする際、先代は遺書を残さなかった。跡目を決めないまま、自害したということは、組をたたむことを決意したと受け取ることができた。


わか様は、それでいい。そのほうがきっと幸せというものに近づけるだろう。だが、私たちはどうなる。困ったものだ。取り潰すというのならそう、残してくれれば、こちらも余計な気は使わないでよかったものを」

 実質ナンバーツーから実質ナンバーワンとなった武井を快く思わないものは組の中にはいなかった。子供が生まれてから、子煩悩で、守りに入った組長よりも、若いものの中には武井を慕うものが多かった。しかし、そのことが武井を困らせていた。自分ひとりのことであれば、どうすることもできる。逆にこの組織をそのまま生かそうと思ったときには、乗り越えなければならない障害があれこれとあった。


「何より私には後ろ盾がない。これは最大の強みであり、また弱点だ。その意味では、今回の話は、渡りに船といえなくもない。だが、この船にはどうにもいろんな仕掛けがしてありそうなのだが……」

 組長の葬儀、警察の取り調べ、加賀組との調整。多忙のまま数日を過ごし、やっとひと段落ち着いて、いよいよぎりぎりの選択をしなければならないというところで、そのカードは配られた。


「何者だ。この狩野紫明という男。この男と行動をともにし、目を離すな。いつでもバラせるようにしておけだと。正気かよ。これ以上この街で物騒な事件が起きたら、それこそ中央がだまっちゃいないだろうになぁ」

 それはほんの数分前に武井宛にかかってきた一本の電話であった。狩野紫明の詳細についてはメールで送られてきた。


「とはいえ、これが、中央に通じているというあの老人の指示であるのなら、そんなことは気に留めなくともよいということなのか、或いは、古くなった道具を始末するのに、ついでにもうひとつのガラクタも片付けようということなのか。仮にそうだとしても、断れるわけがない。私もいよいよ、覚悟を決めないといけないということか」


 しかし『ならば、なぜだ』と武井は自問自答した。


 組長の自殺の一件があってから、武井は事務所にこもるようになっていた。昼間は何かと慌しい。組織内の諸問題、対外的な対応に追われて落ち着く間などなかった。


 おそらく組長は死ぬ。


 後藤がここに押しかけてきたとき、武井はそう考えた。組長は失敗した。そしてその責任を果たすために死を選んだ。そこまではいい。しかしその後のリアクションは武井が想像していた最悪のシナリオとは違っていた。本来であれば、加賀組がこれを機に、勢力をのばすための何らかの手を打ってきてもおかしくない。さらに言えば、このような失態は組長の死だけで償えない。組の解散、加賀組への統合というのが当然の流れである。


 しかし、何も変わらない。


 ここしばらく奇妙な事件が続いているが、それにしても恐ろしく街は、笠井町が静かなのである。


 誰も動くな。


 おそらくそのような指示が出ているのだともう。そして、今回の件、狩野紫明という人物は、果たしてどのような人間なのか。おそらくはあの老人の指示を受けて動いている人間で、例の姉妹のことと何かかかわりがあるのかもしれない。例の姉妹――坂口由紀子と坂口浩子に直接の面識はないが、その2人とおそらく何らかの関わりがあったのだろう権藤聡のことは良く知っていた。


 だから後藤も動いているに違いない。


「狩野紫明、坂口姉妹、権藤、そして後藤か・・・・・・」


 武井は、狩野紫明とどのような形で接触すべきかを決めかねていた。

「ふん。電話やメールの類はやめておいたほうがよさそうなものだが、はたしてこちらが気をつけたからといって、いざとなったらどんな証拠だってでっち上げられる。逆にそういうまどろっこしいことは、かえって逆手に取られそうだな」


 武井は即断即決を信条としていた。遅い手よりも早い手、慎重な一手よりも大胆で直線的な一手こそ、主導権を握る極意。武井は携帯をとり、電話をかけた。

「もしもし、狩野さんですか。武井と申します。始めまして、早速ですが、私のこと、ご存知ですか?」


 武井の質問に対して、電話の相手も簡潔に答える。

「もしよろしければ、これからお会いしませんか? 私の女がやっている店です。そこならまぁ、安全は保障できませんが、安心はご提供できるかと・・・・・・車を迎えにやらせます。組のものではなくタクシーを回させます・・・・・・それでは30分後に」


 武井は電話を切ると、数箇所に電話をし、事務所を後にした。

「百聞は一見ししかず。まずはそれからだ。場合によっては互いに背中を預けなければならないということもある。その背に背負うもの、その背で語るものを確かめれば、次の一手が見えてくるかもしれない」



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